近年は毎シーズン、新たなTVアニメが始まるたびにオープニングやエンディングのアニメーションが話題となりますが、今季は一風変わった方向で話題となるアニメが登場しています。それがTVアニメ『黒岩メダカに私の可愛いが通じない』(以下、『メダかわ』)です。
本作は2020年末から「週刊少年マガジン」で、久世蘭先生が連載している同名ラブコメ漫画のアニメ化作品。幼い頃から男女問わず周りを魅了してきたヒロインの川合モナ。彼女の前に、その魅力に一切落ちる気配のない転校生・黒岩メダカが現れ、川合モナはどうにか気を引こうとします。
今回話題となったのはそんなTVアニメの内容……ではなく「オープニングのダンスシーン」です。
◆ゆるいダンスがクセになる?動画の再生数は40万を突破!
ダンスのアニメーションが話題になる例となるは近年もたくさんありましたが、『メダかわ』の場合は特殊です。
昨今はすごく動くアニメーションなどが取り上げられがちなのですが、『メダかわ』ではそのダンスがあまりにも「ユルすぎる」という方向で話題になっています。
このアニメのオープニングテーマはホロライブ出身のVtuberユニット「いろはにほへっと あやふぶみ」が歌う「雨トキメキ恋模様」。注目されているダンスはこの曲のサビのパートから登場します。川合モナに続いてヒロインたちが並んで軽く腕を動かすようなダンスのパートが登場しています。
アニメーションとして成立していないかといえばそんなことはないです。ただ、派手な動きではないし、リッチな映像かといえばそうでもない。どういったジャンルのダンスと表現していいのか分からないですが、なんともいえない動きが癖になる……、そんな映像になっています。
このノンクレジットオープニング映像はYouTubeで配信され、公開から10日間で40万回以上の再生数となっており、現在進行形でこの数字はどんどん伸びています。
◆ダンスのアニメーションは難しい? ほかのアニメはどう作られている?
『メダかわ』のオープニングダンスについてネガティブな声も上がっていて、クオリティーが低いといった指摘や、過去のアニメーションを例に上げて比較する声もSNSでは上がっています。
もちろん、ダンスのアニメーションはいろんな手段で高められるのは確かです。具体的な例でいえば、1秒あたりに用いる絵の枚数を増やすことでキャラクターの動きはより滑らかになります。
最近ではモーションキャプチャーといった、実際に踊った人の動きをデータとして抽出しアニメーションに適用する方法が活躍しています。『劇場版 ポールプリンセス!!』はYouTubeにて実演とアニメーションの比較映像も公開しています。
そういった技術がない時代にも実際の人間の動きをトレースして手描きするロトスコープといった手法も存在します。手法としては古くからありますが、TVアニメ『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』の第3話のエンディング「チカっとチカ千花っ♡」の映像はロトスコープを使った例です。
アニメーターの技術により、キャラクターにどんな演技を付けられるかでも、アニメーションのできは変わってきます。ディフォルメされたキャラクターや、人ではないキャラクターのダンスは、想像力を要するので映像化が難しく意外とセンスが問われるものです。
そういった難度の高い技術だからこそダンス系のアニメーションは尊いわけで、今やクオリティーの高い映像がたくさん出てきているからこそ“当たり前”じゃないことは忘れてはいけないところかもしれません。
◆主題歌のダンスブームはどうなっていく?
ただ一方で、オープニングやエンディングでダンスを安易に取り入れ過ぎていないか? ということも指摘できるでしょう。
昨年の『マッシュル-MASHLE-』の「Bling-Bang-Bang-Born」のような海外にまで波及するブームも生まれたこともあり、大きく跳ねた前例があるとダンス演出を取り入れた追従する案も通りやすくなります。
流行となるとピンからキリまでいろんな作品が出てくるわけですが『メダかわ』の例は果たして後者なのでしょうか? ユルいダンスはねらったクオリティーのものだったのでしょうか? そもそもこういったユルいダンスばかりが増えてくるとそれはそれで話は変わってくるでしょう。
『メダかわ』の出現が、ダンスアニメブームの過渡期を示していて、いつの間にかどこもかしこもユルめのダンスのアニメだらけ……なんてならないことを祈ります。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteでは『アニメ映画ラブレターマガジン』を配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi