昨今は配信サービスも充実してどんな作品も気軽に観れてしまうようになりました。しかし、その一方でディスクリリースもなければ配信もされてない、なんて作品も実は多く存在します。アニメーション映画『走れメロス』はそんな貴重な一本なのですが、そんな本作が東京でまもなく上映が始まります。

◆新宿東口映画祭でアニメーション映画『走れメロス』が上映

 東京・新宿シネマカリテでは、5月23日(金)〜29日(木)、新宿武蔵野館では5月30日(金)〜6月5日(木)にかけて「新宿東口映画祭2025」が行われます。

 2020年で100周年を迎えた武蔵野館がこれまでの100年への感謝とこれからの100年への礎を築くことを願い、2021年から始まった映画祭で今年で5回目を迎えます。

 古今東西のさまざまなジャンルの映画を上映してくれる企画なのですが、アニメーション映画も毎回貴重な作品をピックアップしてくれています。

 今年のテーマが「映画でよむ」ということでなのか、太宰治の名著である『走れメロス』を劇場用アニメーション化した唯一の作品である映画『走れメロス』も今回の上映ラインアップに入っています。

◆かなり貴重なアニメーション映画! 今では鑑賞が困難?

 この映画『走れメロス』は前述の通り、現在では視聴が困難な作品です。というのも、ソフト化はVHSやLDなどの当時の記録媒体でリリースされたのみ。現在一般的に利用されているDVDやBlu-rayなどでは一切販売されたことがないからです。そのうえ、昨今の配信サービスなどでも配信されていません。稀にイベント的に上映されたり、テレビ放送がされるのみで、かなり限定的です。

 2025年はそんな中で珍しい年で、今年の3月に行われた「新潟国際アニメーション映画祭」内のプログラムとして『走れメロス』が上映されており、そこから間髪入れずに早くも東京でも上映が果たされるという、鑑賞の機会が続く事態となっています。

 映画『走れメロス』を当時製作していたアニメーション製作会社ビジュアル80は既になくなっていることもあり、今後もソフト化される可能性が低いのが実情。そういう意味でも、『走れメロス』はぜひ一度は観ておきたい作品です。

◆希少価値だけじゃない? 『走れメロス』の何がすごいのか

 ここまで聞くと、とりあえず鑑賞が現状困難なことは伝わったかと思うのですが、『走れメロス』はその作品自体のクオリティーの高さからも必見の内容に仕上がっています。

 というのも製作陣には今となってはかなり名の知れた実力派の名前が並んでいて、まず監督には『ルパン三世』のTVアニメシリーズの第一弾にて、当時の監督にあたる役割を担っていた演出のおおすみ正秋さんが担当しています。

 そしてキャラクターデザインや作画監督を『人狼 JIN-ROH』(2000)や『ももへの手紙』(2012)で監督を務めた沖浦啓之さんが担当。レイアウトには、今年の新潟での上映のきっかけでもある『PERFECT BLUE』(1997)や『パプリカ』(2006)の今敏監督が名を連ねています。いずれも実力者ということで、ビジュアル面は今観てもかなりの高品質となっています。

 しかもボイスキャストがまた豪華です。主人公のメロス役を務めるのは山寺宏一さん、そしてメロスの代わりに牢屋に入れられてしまうセリヌンティウス役には小川真司さんが名を連ねています。

 そしてそれに加えて、音楽監督に名を連ねているのが歌手の小田和正さん。この映画のテーマソングでもある「そのままの君が好き」の製作・歌唱も担当しています。

 いずれも出てくる人、出てくる人が今となっては大物ばかりで、そりゃあ高クオリティーの作品が出てくるのも必然であり、むしろソフト化が止まっていることの方が不思議なくらいです。

 そしてもっとも注目すべきは、この映画『走れメロス』には原作から大幅なアレンジが加わっている点です。多くの人が知る原作とは大筋こそ同じでありつつも、細かな話の展開やキャラクターの個性を独自にふくらませていて、私たちが知っている『走れメロス』ともまた違った感触の作品になっています。

 たとえば、メロスはかなりガタイが良いパワータイプであったり、その特徴を活かしてしっかりアクションシーンが用意されていたりと、良い意味で“アニメナイズ”された作品で、単純な娯楽作としても気持ちよく観られる作品になっています。

 ──『走れメロス』は今後もいつ新たにソフト化するかも分からなければ、当時作られたソフトもどんどん劣化していくことでしょう。

 このままではいつまで観る機会が続くかも分かりません。そういった意味でも、今回の映画祭での上映で一目観ておくのは悪くないでしょう。

 あわよくば、一人でも再ソフト化の声を上げてくれる人が増えてくれれば、この「鑑賞困難な状態もいつの日か改善される──」なんてこともあるかもしれません。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteでは『アニメ映画ラブレターマガジン』を配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi

 

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