この夏、通常のアニメとも背景が異なるTVアニメ『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』が、7月よりTOKYO MXで放送されています。
<画像引用元:『TVアニメ「銀河特急 ミルキー☆サブウェイ」キービジュアル ©亀山陽平/タイタン工業 © 2022 ミルキー☆ハイウェイ』>
1話わずか3分半という短いショートアニメシリーズなのですが、宇宙空間を走る列車を舞台としたSF作品を思わせる背景の作品でありつつ、ユルめのテンションやレトロ風の意匠など独自のバランス感の作品となっているのが特徴です。
この作品はなんと製作規模自体がかなりミニマムな作品なのですが、企画製作には『ドラえもん』や『クレヨンしんちゃん』などでもおなじみのアニメーション制作会社・シンエイ動画が名を連ねている点でも驚き。連続ショートシリーズのシンエイ動画作品といえば、近年では『PUI PUI モルカー』のヒットが記憶に新しいですが、『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』も次なるヒット作を期待できるポテンシャルの作品となっているようです。
◆その多くを一人で制作!? 『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』は特殊な企画?
まず『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』でびっくりさせられる点として、本作の製作の多くを原作者の亀山陽平さんが担当している点にあります。
亀山さんは原作に加えて、監督、脚本、制作、音響監督、宣伝デザイン、そしてプロモーション映像制作に至るまで兼任しています。
いくら短い作品とはいえ、驚くほど主要な作業のクレジットに名を連ねているワケですが、それもそのはず、この『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』は亀山さんの専門学校の卒業制作をきっかけに生まれた自主制作アニメーションが発端の作品です。
2022年『ミルキー☆ハイウェイ』と題した作品が発表され、サイボーグのマキナと強化人間のチハルの2人がドライブに出かけた先で事件を引き起こすという短編アニメーションでした。本作はYouTubeにアップされて以来、550万再生までされるヒット作となるだけでなく、国内外の映画祭などにも出品・入賞を果たす話題作となります。
『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』はまさにそんな飛躍のきっかけとなった短編『ミルキー☆ハイウェイ』の続編作となっており、マキナとチハルの二人が逮捕されて以降のお話。惑星間走行列車の清掃作業をすることになるのですが、またもやトラブルに見舞われてしまうという内容になっています。
未来的な世界観やガジェットと、どこかチープでレトロな細部や音楽。そしてリズムに当てはめたアクションを挟み込む“音ハメ”の要素などは今回も健在。キャラクターも短編から一気に増えて、世界観がより広がった作品となっていました。
◆11言語で海外への発信も積極的! しかしそこには既に壁もある?
前作『ミルキー☆ハイウェイ』が国内外の映画祭などにも出品されたことを踏まえてなのか、『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』の海外へ向けた発信にも注目です。
作品の公式YouTubeチャンネルでは、日本語や英語だけでなく中国語やフランス語やロシア語、ヒンディー語など全11言語での配信を行っています。今や日本のTVアニメーションは、国内とほとんど時差がなく海外でも新作アニメーションを楽しめるような環境が整ってきました。本作もそういった国際的な意識も持って発信しているのが分かります。
思えば同じくシンエイ動画が制作に協力した『PUI PUI モルカー』も、日本だけでなく海外でも高い人気を獲得したシリーズでした。中でも台湾では社会現象とまで報じられるほどの人気となっていたり、2021年の発表から少しずれた2022年にはNetflixでの配信をきっかけにフランスでも話題を獲得するなど日本だけにとどまらない多くのユーザーに届く作品となりました。そういった背景を踏まえてなのか、『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』の充実したローカライズは納得がいくところです。
ただし悩ましいのは、そもそも複数言語を用意しなければいけないという点で既に言語的な障壁があるということ。
『PUI PUI モルカー』の強みに、作中ではモルカーの鳴き声と人間たちの感嘆の声のみで、言語的なローカライズの必要性がほとんどなかったという特徴があります。直感的で明快な内容がそのまま魅力にもなっていた作品でした。
その点、『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』はセリフのニュアンスや、日本における“レトロ”な感じなどがどれだけ海外のユーザーに伝わるのか想像が難しいところ。
そういう意味では、日本ならではのツボを抑えにきている作品ともいえるのかもしれません。果たして今後『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』がどう広がっていくのか。今季の新作TVアニメの中でも終着点が気になる作品となっています。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteでは『アニメ映画ラブレターマガジン』を配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi
※サムネイル画像:『TVアニメ「銀河特急 ミルキー☆サブウェイ」キービジュアル ©亀山陽平/タイタン工業 © 2022 ミルキー☆ハイウェイ』
©亀山陽平/タイタン工業 © 2022 ミルキー☆ハイウェイ