最近ではさまざまな映画のリバイバル上映が行われています。新作映画だけでなく今やクラシックとなっている作品から、ちょっと前に上映されたものまで、その量もバリエーションも豊富です。そんなリバイバル上映の作品の中でも、日本の作品で現在“海外で”興行を頑張っている作品があります。それがスタジオジブリの名作『もののけ姫』。

 日本では1997年に劇場公開された宮崎駿監督による長編アニメーション映画。新型コロナウイルス感染症の流行を経た直後に、映画館への集客を促す取り組みとして2020年に日本でもリバイバル上映が行われましたが、2025年の今、ここにきて海外でも続々と劇場上映が行われています。いったい何が起きているのでしょうか?

◆スタジオジブリ40周年記念 4Kリストア版の興行が北米で開催

 実は2025年はスタジオジブリにとって40周年という節目の年です。そんなアニバーサリーイヤーを記念して、北米では3月26日からIMAXシアターでの4Kリストア版の『もののけ姫』の上映が行われました。

 上映規模は330スクリーンほどのスタートで決して大きいとはいえないものの、好評により上映の延長や通常スクリーンでの上映を果たしました。結果として600万ドル以上、日本円にして8.5億円級の興行成績を上げているようで大健闘を果たしています。

 この企画は北米でのスタジオジブリ作品の配給を担当しているGKIDSによるもの。

 GKIDSといえば、去年の10月に東宝が全株式を取得して買収が発表されたばかりの会社です。GKIDSの買収によって北米におけるアニメーション映画の展開がよりしやすくなるのではないかと予想されていましたが、早くも買収以降の成功施策が一つ生まれたとも受け取れそうなニュースでした。

 ちょうどこの春にはChatGPTに新機能が搭載され、AI技術によって安易にジブリ風の画像が生成できることが物議を醸したりと話題になったばかりです。タイミングとしては、本当のジブリのアートワークを体験できる機会としても働いたといえます。アメリカでも“ジブリ”というブランドはまだまだ広がっていけるのでしょう。

◆中国上映もスタート 意外にも初上陸?

 北米とは少しだけ時間を空けて、中国本土でも5月1日から『もののけ姫』の上映がスタートしました。この上映も北米と同じく40周年を記念した4Kリストア版が放映されたのですが、実はそもそも中国では『もののけ姫』の上映は今回が初めてです。

 中国ではスタジオジブリ作品の劇場上映は当時行われていなかったのですが、海賊版のソフトや違法アップロードの動画などにより作品自体の知名度は既に抜群といっていいほどありました。

 そんな中、2010年代に入り中国の映画市場が盛り上がってきたタイミングで、『となりのトトロ』や『千と千尋の神隠し』、『ハウルの動く城』などが続々と中国の映画館で“初上映”を果たしており、今回の『もののけ姫』もその流れを組むように上映に至りました。

 興行成績としては初週末に約6千万元、日本円にして10億円ほどの成績を残しており、飛び抜けた爆発力があるわけではないものの、中国現地のヒット作に並ぶ堅実な上位の興行成績を上げていて、今後の興行によってはロングラン上映も期待ができそうです。

◆なぜか日本のほうが盛り上がってなさげ? アニバーサリーイヤー

 北米ではさらに5月17日から「STUDIO GHIBLI FEST 2025」という企画が開催予定です。この企画は『千と千尋の神隠し』や『魔女の宅急便』、『火垂るの墓』などジブリ作品8作を劇場上映するもので、月一作ペースで上映し、11月まで続く長期的なものです。

 こうして海外での盛り上がりを聞くと、どうしても思ってしまうのが日本では何かイベントはないのか、という点。「鈴木敏夫とジブリ展」「金曜ロードショーとジブリ展」「ジブリパークとジブリ展」など複数の巡回企画が各地で行われてはいるものの、今回の『もののけ姫』の上映企画などは日本でも実施の予定が現状では発表されていません。

 配信サービスなどでは日本でだけジブリ作品の配信が制限されている状況も続いていたりと、あまりにも実際の映像作品に触れる機会が少ないのは寂しい話です。

 せっかくなら日本の劇場でももっと気軽にジブリ作品に触れられる機会があってほしいところ。今や実物のあるソフトのレンタルも利用者が少なくなってきている時代なので、ソフトを買ったり、金曜ロードショーでの放送を待たなければいけない日本のスタジオジブリ作品の現状はもったいなく感じます。1日も早く映画の上映面で海外のニュースをうらやましがるばかりの状況が変化してくれることを祈ります。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteでは『アニメ映画ラブレターマガジン』を配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi

 

※サムネイル画像:https://www.ghibli.jp/works/mononoke/より
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