<この記事には原作漫画・TVアニメ『逃げ上手の若君』のネタバレが含まれます。ご注意ください。>
松井優征先生による『逃げ上手の若君』は、史実を交えた壮大なスケールの物語と、“逃げ上手”という大胆で斬新な切り口が注目を浴びた話題の一作です。
そんな『逃げ上手の若君』には、さまざまな伏線が張り巡らされています。視聴者の間では、北条時行の最期や巫女・雫についての考察が繰り広げられることも……。
◆時行の最期は決まっているのか
北条時行、諏訪頼重、足利尊氏など、『逃げ上手の若君』に登場するキャラクターの多くは歴史上の人物がモデルとなっています。
また、物語自体もオリジナルの要素をまじえつつ、南北朝時代や中先代の乱など概ね史実に基づいた流れが続きました。史実を題材にしているからこそ懸念されるのは、主人公・時行の最期です。
たとえば、主要キャラクターの一人である諏訪大社の当主・頼重の最期は自害(コミックス第110話)。1335年の中先代の乱で、勝長寿院にて自らの命を絶ちました。史実では子の時継を含めた43人がともに自刃したと言われていますが(古典『太平記』)、そのほかの時代や場所、死に様が一致しているのです。
それゆえ、時行の最期も史実に沿ったものになるのではないかとファンの間では考察されています。
諸説あるとされていますが、一説によると時行の最期は処刑。中先代の乱、南北朝の内乱、武蔵野合戦と3度鎌倉を奪還するも、足利勢に捕らえられ、鎌倉龍ノ口の刑場でその生涯を終えたとされています(『鶴岡社務記録』)。
一方で、伊勢の地に逃げのびたという生存説もあるそう……。時行の最期が松井優征先生によってどう描かれるのか、今後の動向から目が離せません。
◆諏訪大社の巫女・雫は何者なのか?
諏訪大社の巫女であり、時行の郎党「逃若党」の執事でもある雫。彼女は品行方正なイメージがあるものの、実はしたたかで頭脳戦に優れた一面を持っています。
しかしながら雫は時行や頼重とは違い、実在のモデルがはっきりとしないキャラクターのため、その存在は謎に包まれていました。
コミックス第6話では、雫の性別が男なのではないかという疑惑も……。その疑惑は、武将・小笠原貞宗のあるセリフがきっかけでした。
時行、頼重、弧次郎、亜也子、雫の潜伏を、貞宗が千里眼を用いて言い当てる際、「殿が今猪の腹から捕らえしダニは、オス4匹メス1匹でございます」と発言したのです。
本来ならば、亜也子、雫でメス2匹となるはず。この出来事が原因で、彼女の“男説”が読者の間で浮上しました。
そんな雫の正体が判明したのは、コミックス第152話でのこと。彼女の正体は、御左口神(ミシャグジ)という神でした。
ミシャグジは、中部地方を中心に信仰された神様で、諏訪大社とも縁が深いと言われています。
頼重に発見されたミシャグジは、雫の姿になって頼重について行くことに。彼女の持つ神力の能力は、時行を助けることはもちろん、物語にも大きな影響を与えています。神というファンタジーな要素も相まって、雫にはまだ底知れない何かがありそうです。
◆吹雪が時行を裏切る?
「逃若党」の軍師として活躍する吹雪。二刀使いの剣士であり、時行に“逃げ上手”を活かした剣術を教示したキャラクターでもあります。
「逃若党」の一員として邁進していく吹雪ですが、ある出来事をきっかけに、読者の間では時行を裏切るのではないかと囁かれていました。
その伏線の一つとなったのが、足利尊氏暗殺未遂劇でのことです。尊氏の暗殺に乗り出した時行と吹雪でしたが、敵の圧倒的な強さにより計画は破綻します(コミックス第57話)。
その際、二人は尊氏の神力に当てられることに。時行には尊氏がおぞましい怪物のようにみえた一方、吹雪のみた尊氏は後光がさしており、強い衝撃があったことがうかがえます。
また、コミックス第106話では、尊氏の神力により吹雪を含む一万騎が降伏。吹雪は神力に2度侵されたことで、尊氏の影響をより強く受けることとなったのです。
その後、吹雪は自らを「高師冬」と名乗り、足利軍に寝返ることに。この裏切りには、尊氏のカリスマ性と神力に魅せられたのではないかとの声が上がっています。
吹雪は当初オリジナルキャラと思われていましたが、高師直に名を与えられたことにより、歴史上の人物に……。今後吹雪にはどのような運命が待ち受けているのでしょうか。
◆頼重が言った「さるお方」とは?
コミックス第10話で、小笠原貞宗が退散した後に頼重が放ったセリフ「さるお方と打ち合わせて…北条一族らしき者が潜伏している噂を諏訪を含め全国各地に流しています」。この“さるお方”がいったい誰のことなのか、読者の間で注目が集まりました。
“さるお方”の意味が「身分ある人」を指すことや、頼重が“お方”と敬う言い回しをしているため、それ相応の力を持った人物であると予想されるでしょう。
これらのことから、“さるお方”は北条泰家をさすのではないかとの見方があります。鎌倉幕府が滅亡したことで、北条一族のほとんどは討死や自刃してしまうことに(『太平記』)。しかし、中には時行のように落ち延びた者もいるとされており、その一人が泰家だったとされています。
泰家は、時行の父・高時の弟であり、時行の叔父にあたる人物。鎌倉幕府が滅びる際、頼重に時行を託す手はずを整えたのが泰家であり、その関係の深さから協力者であっても不思議ではありません。
また、頼重が“さるお方”との言い回しをする人物は限られることから、西園寺公宗ではないかとの声も。物語が進むにつれ、正体が明らかになることが期待されています。
〈文/繭田まゆこ〉