作品自体の大きな仕掛けが明らかになる最終回なども話題となった『オッドタクシー』が、今年9月からTVアニメシリーズを前後編に分けて劇場公開されると発表されました。事情を知らない人は「いったいなぜ今?」と思うかもしれないのですが、実はこの時期に公開するのには製作陣を同じとしたまったく新しいアニメーション映画『ホウセンカ』の上映が決まっているからです。
◆『オッドタクシー』ファンこそ来て欲しい? 長編新作『ホウセンカ』
TVアニメ編集版『オッドタクシー』は9月10日(水)と11日(木)に前編、9月17日(水)と18日(木)に後編という形式で、TVアニメシリーズで放送された内容を二部に分割して上映されます。
平日の上映な上に全国5館という限定的な上映ではありながらも、入場者プレゼントとして木下麦監督の描き下ろしポストカードを前後編別デザインで配布するなど『オッドタクシー』の従来のファンに少しでも届くように促す企画となっています。
これは『オッドタクシー』という作品の熱を再燃させようという試みよりも10月10日(金)から公開される新作長編アニメーション映画『ホウセンカ』への来場を促す意味合いが強いでしょう。実はこの上映でも『ホウセンカ』の本編映像の一部も先行公開されると発表されています。
映画『ホウセンカ』は監督・キャラクターデザインに木下麦監督、原作・脚本に此元和津也氏が名を連ねる『オッドタクシー』のタッグによる製作となっているアニメーション映画です。『オッドタクシー』も漫画や小説といった原作作品のないオリジナル作品でしたが、『ホウセンカ』も同じく“オリジナルアニメ映画”として登場します。
『鬼滅の刃』を代表にアニメーション映画自体のヒットが続いている一方で、長編アニメーション映画でオリジナル作品をヒットさせるのは、新海誠監督などのような一部の監督の新作でないと難しいのが実情です。そういう意味では、今回の企画のように『オッドタクシー』のように“オリジナル作品”でありながらもヒットを果たせた作品をフックに持ってくるのは正解といえるでしょう。
しかも『ホウセンカ』の企画・制作には『映画大好きポンポさん』や『夏へのトンネル、さよならの出口』など海外の映画賞などでも評価を得た映画単体作品を世に送り出してきたCLAPが担当している点でも注目。オリジナル作品をヒットさせられるのか?という命題に挑む気合の入った作品といえます。
◆新展開が難しい『オッドタクシー』の悩ましさとは?
一方で『オッドタクシー』自体の新展開というわけではないところはファンにとっては少し寂しく感じるところかもしれません。
2021年に放送された『オッドタクシー』は、実はTVアニメ放送後にもいくつかの新展開を行っています。
TVアニメシリーズ放送終了の翌年2022年には映画版の『オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』が公開されています。実は本作も本編内容を別の視点からなぞっていき、TVアニメシリーズで描かれなかった“その後”までを描いていく「総集編映画」のような作品なのですが、今回の限定上映企画であえてTVアニメ編集版を上映するように、ストーリー追っていくような形式ではないので、まだTVアニメシリーズを観ていないという人には内容を追いにくい独特な内容となっていました。
さらに翌年2023年からは新企画として『RoOT/ルート オブ オッドタクシー』もスタート。『オッドタクシー』で描かれたストーリーの裏を探偵の玲奈と佐藤という新キャラクターたちの視点で追っていくという内容でした。本作は漫画シリーズが先行して連載をスタートし、2024年にはTVドラマが放送されました。
『オッドタクシー』の新展開の難しいところはTVアニメシリーズで概ねの起承転結が成立してしまっているところです。映画作品やドラマ作品などで展開したTVアニメ放送後の展開は、映像化のメディアこそ違えども、どれも結局はTVアニメシリーズで起きた事件を視点を変えて反芻する形に帰結してしまっています。TVアニメで用意されていたどんでん返し的な仕掛けを最終回で見せてしまっているような作品では、やはり“続編”を作るというのは一筋縄ではいかないのでしょう。
そういう意味では今回の完全新作となる『ホウセンカ』こそ『オッドタクシー』ファンにこそ届いて欲しい作品なのかもしれません。登場キャラクターなどが全然違うことの寂しさはありつつも、なんどもなぞり続けた時間やドラマとはまったく違った体験こそ実は求めていたという人も多いのではないでしょうか。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteでは『アニメ映画ラブレターマガジン』を配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi
※サムネイル画像:Amazonより『映画 「オッドタクシー イン・ザ・ウッズ」Blu-ray通常盤(販売元:ポニーキャニオン)©P.I.C.S. / 映画小戸川交通パートナーズ』