ルフィの宿敵として立ちはだかる四皇、黒ひげことマーシャル・D・ティーチ。圧倒的な実力と、海賊らしいふてぶてしい風貌で異彩を放つ彼ですが、実はそのキャラクター造形において、名前やビジュアルよりも先に決定していた「あるたった一つの要素」が存在しました。それは、彼の不気味な存在感を決定づける、意外なパーツだったのです。
◆名前も外見も後回し! 「ゼハハハ!!」から生まれた最凶の敵
その事実は、2010年に発売された公式ファンブック『ONE PIECE GREEN SECRET PIECES』にて明かされました。そこに記されていたのは、黒ひげ・ティーチの設定において、最初に決まっていたのは名前でも外見でもなく、あの特徴的な笑い声「ゼハハハ!!」だけだったという情報です。
通常、キャラクターを作る際はビジュアルや性格、能力といった要素から固めていくのが一般的といえるでしょう。しかし、尾田栄一郎先生は黒ひげという最凶の悪役を生み出すにあたり、まず「どう笑う敵か」という一点を起点にしていました。あの腹の底に響くような、豪快でありながらどこか得体の知れない「ゼハハハ!!」という響きこそが、彼のキャラクターの核だったのです。
その後、実在した大海賊「黒ひげ(エドワード・ティーチ)」をモデルにした名前や、ヒゲを編み込んだ独特の風貌といったビジュアル設定が肉付けされていきました。
ちなみに、海賊の象徴ともいえる「眼帯」をつけた初期デザイン案も存在しましたが、これは連載10周年記念の情報誌『ONE PIECE PARADISE!』のコラムで明かされた尾田先生の「眼帯の海賊は物語の終盤に一度だけ出す」というポリシーにより、ボツになっています。
笑い声よりも先にビジュアルが決まっていたら、あるいは眼帯案が採用されていたら、今の黒ひげが放つ独特の威圧感や底知れぬ不気味さは、ここまで際立っていなかったかもしれません。
「人の夢は!!! 終わらねェ!!!!」という名言と共に初登場した際も、そのインパクトを支えていたのは間違いなくあの笑い声でした。尾田先生は、物語を大きく動かす敵の存在感を、まず「音」として完成させることで、読者の耳と記憶にこびりつく、忘れられない悪役を生み出していたのです。
──黒ひげというキャラクターの正体は、緻密な設定やビジュアルよりも先に、「ゼハハハ!!」という笑い声そのものに宿っていました。物語の終盤に向けてさらに存在感を増していく彼ですが、その不気味な笑い声が響くたびに、私たちは尾田先生が最初に込めた「悪の純度」を改めて思い知らされることになるのでしょう。
〈文/凪富駿〉
《凪富駿》
アニメ・漫画に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。特にジャンプアニメに関する考察記事の執筆を得意とする。作品とファンをつなぐ架け橋となるような記事の作成がモットー。
※サムネイル画像:Amazonより 『「ONE PIECE」105巻(出版社:集英社)』


