『ONE PIECE』における海軍の最高戦力といえば、「赤犬」「青雉」「黄猿」の三大将、そして新世界編で加わった「藤虎」と「緑牛」です。しかし、実はこの大将人事の裏には、まったく別の動物をモチーフにした「幻の候補者」たちが存在していたのです。
◆大将候補は「桃兎」と「茶豚」──尾田先生も動揺した読者の深読み
その「幻の候補者」たちの存在が明らかになったのは、コミックス第74巻と第75巻の質問コーナー「SBS」でした。読者からの「海軍大将『桃兎』はいつ出てくるんですか?」という質問に対し、尾田先生は「いるいる。よし!もう今見せちゃおう」と、中将「桃兎(ももうさぎ)」のイラストを公開しました。
さらに翌巻では、桃兎に100回告白して100回フラれたという中将「茶豚(ちゃとん)」までもが登場。彼らはたんなるモブキャラではなく、実際に「大将候補」にまで上り詰めた実力者として設定されており、映画『ONE PIECE FILM GOLD』などにもカメオ出演しています。
ここで興味深いのは、尾田先生が明かした初期構想です。実は黄猿(サル)に合わせて、新たな大将を「ブタ」と「カッパ」にする案があったというのです。「サル・ブタ・カッパ」といえば、いわずと知れた『西遊記』のトリオ。この構想が採用されていたら、現在の藤虎や緑牛のポジションには、まったく違う能力を持った大将が座っていたことになります。
しかし、最終的に採用されたのは「虎(藤虎)」と「牛(緑牛)」でした。この変更理由について、尾田先生は当初「理由はあるけど教えませーん」と濁していましたが、コミックス第76巻のSBSで、ある読者から鋭すぎる考察が寄せられます。
その内容は、「未申(南西)=桃太郎(サル・トリ・イヌ)に対し、丑寅(北東)=鬼門=鬼(海賊)。つまり、新大将の藤虎と緑牛は、海軍でありながら世界政府に反感を持っている設定なのでは?」というものでした。
この深読みに対し、尾田先生は「え?動揺?(冷汗) し…してませんけど?ぜんぜん」と、明らかに図星を突かれたような反応を見せています。西遊記構想から十二支や陰陽道の配置へとシフトチェンジし、物語の対立構造をより深く練り込んだ尾田先生の構成力。そして、それを見抜いてしまった読者の慧眼には驚かされるばかりです。
「茶豚」が大将になっていたら、今の重厚な海軍の雰囲気はずいぶんと違ったものになっていたでしょう。数ある構想の中から選び抜かれた結果が、今の『ONE PIECE』の世界を支えているのかもしれません。
──「桃兎」や「茶豚」の存在が示したのは、完成された設定の裏に“選ばれなかった未来”がいくつもあったという事実です。今の海軍の姿は数ある構想の中から選び抜かれた結果であり、その試行錯誤の痕跡こそが物語に奥行きを与えているのではないでしょうか。
〈文/凪富駿〉
《凪富駿》
アニメ・漫画に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。特にジャンプアニメに関する考察記事の執筆を得意とする。作品とファンをつなぐ架け橋となるような記事の作成がモットー。
※サムネイル画像:Amazonより 『「ONE PIECE」第58巻(出版社:集英社)』



