『ONE PIECE』の作者・尾田栄一郎先生は、自分で考えた設定をすっかり忘れてしまい、時折作画ミスしてしまうことがあります。読者から指摘を受けたことが何度かありますが、ユーモアあふれる対応で読者を楽しませています。
◆悪魔の実の能力者なのに水に浮く──アニメではそのシーンが変更される
コミックス第19巻175話で、クロコダイルからなんとか逃れたMr.3は、麦わらの一味を閉じ込めた牢屋のカギを捨てるという非道な行為に出ました。
しかし戦いの主導権を握ったのも束の間、一人だけ外にいたサンジにボコボコにされ、ドルドルの実の能力で合鍵を複製させられます。
クロコダイルとミス・オールサンデーが現場に駆けつけると既に麦わらの一味は牢屋から脱出したあとでした。
そのとき、倒されたMr.3は、水に浮いていたのです。悪魔の実の能力者は泳ぐことができず、水に浮くこともできないはずです。
コミックス第25巻のSBSでこのことについて読者から質問された尾田先生は、「アレはなんと偶然にもMr.3の体の下に『ものっすごい浮く木片』があったんですね」「それによってMr.3はものっすごい浮いてたわけです」と回答。
尾田先生は冗談を言っているのかと思われましたが、コミックス第66巻で、この木片が登場しました。
同巻のSBSで尾田先生は、「あの時(25巻で)言っていたのはこれの事なんですよ!!」「当時はみんなアレだろ?僕がテキトーにその場しのぎで考えたと思ったんだろ?違うよー。この設定を既にあの時、か、かか…考えてたんだよ…。ま…まま…まじだよっ!」と力説。
なお、アニメ版では、この場面でMr.3は水に浮いておらず、机の上に寄りかかっています。
◆同じトゲでも何が違う?──ルフィがケガをした理由
ゴムゴムの実を食べたルフィは、体がゴムのように伸び縮みするため、どれだけ強いパンチや銃撃を受けても、傷つくことはありません。
コミックス第1巻で、ルフィはアルビダの持つトゲ付きの金棒で頭を殴られても「効かないねえっ!ゴムだから」と平然としています。
しかし、コミックス第59巻では、幼いルフィがブルージャム海賊団のポルシェーミにトゲ付きのグローブで殴打され、大ケガを負っていたのです。
第60巻のSBSで読者からこの矛盾について質問された尾田先生は、「なるほど。いいんですよ。ビミョーな問題ですけども、よく見てください。トゲの角度が違うでしょ!!?この違いはインペルダウンの獄卒獣でもやったんですが、同じトゲのある武器でも、ルフィに効く武器は鋭く尖っててゴムにも刺さりそうに描いてあります。一方アルビダの金棒はゴムにとって打撃になるだろうという角度で描いてあります」と回答。
たしかに、ポルシェーミのグローブのトゲは鋭利に見えますが、アルビダの金棒にも鋭いトゲは付いているため、読者の中には、尾田先生が初期の設定を忘れてしまったのではないかと考える人もいます。
◆クロコダイルに左手がある!?──『ジャンプ』の扉絵で痛恨のミス
クロコダイルの左手には金色の大きなフックがついていますが、2006年10号の『週刊少年ジャンプ』の扉絵で、右手と同様、普通の手として描かれていました。
しかし、コミックス第41巻に収録された際、第398話「宣戦布告」の扉絵では、左手はフックに修正されているのです。
2025年2月の時点でクロコダイルの左手がフックになった理由は明かされていません。コミックス第78巻のSBSでクロコダイルの子供時代が描かれましたが、そのときには普通の左手が描かれていました。
また、彼の左手を「義手」だと思っている読者も多いですが、その真偽も分かっていません。
幼少期以降にフックを装着するどんなできごとがあったのか、最終回までの伏線回収が期待されています。
◆第1話からミスが炸裂──シャンクスの海賊旗が……
『ONE PIECE』は、原作第1話から複数の作画ミスが見られます。
たとえば、ルフィが赤髪海賊団のメンバーとマキノの酒場で飲み食いしているとき、山賊のヒグマたちが破壊したドアが、彼らが帰るときにはキレイに直っているのです。
第7巻のSBSで読者から指摘されると、尾田先生は、「それは彼の仕業。大工の「みなともさん」です」と両方の鼻の穴に釘を刺した厳つい男性のイラストとともに回答。「彼は気が短く、壊れたドアなどを見るとなおさずにはいられなくなります」「けっして、僕のミスではありません」と、あくまで演出の一環だと主張しました。
さらに、1話の終盤では、赤髪海賊団の海賊旗のトレードマークである「左目の3本の傷」が描かれていないというミスもありました。
大勢の読者から指摘されたにもかかわらず修正していないことについて、第15巻のSBSで尾田先生は、「めんど…深い意味があるんですね?」「わかった!!あれは3本の傷が治るくらい元気に船出しようっていう、少年少女へのメッセージなんですね!!」「……いや悪かったよ。忘れたんだよ…」と、ミスであることを認めています。
──このように尾田先生はどんなミスも笑いに変え、それをネタにし、作中に登場させて辻褄を合わせるなどして読者を楽しませています。このような柔軟さも、尾田先生が読者に愛される理由の一つと言えるでしょう。
〈文/花束ひよこ〉
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