黒ひげには、設定画にのみ描かれた“二人の妹”が存在します。“異形”と呼ばれる体を持つ黒ひげと、二人の妹たち。両者にはどんなつながりがあるのでしょうか?
◆黒ひげは3つ子だった? 設定画に描かれた妹たち
黒ひげことマーシャル・D・ティーチの出生は作中でも語られておらず、いまだに謎に包まれています。
しかし、2019年12月に出版された『ONE PIECE magazine Vol.8』(出版社:集英社)に掲載された設定画では、「黒ヒゲの妹」と記された二人の女性キャラが描かれていました。
黒ひげとの詳しい関係性については明言されていませんが、黒ひげに“妹”がいるという構想が存在していた可能性は高いといえます。
ここで注目したいのが、黒ひげ海賊団の海賊旗。黒ひげ海賊団の海賊旗には、3つのドクロが描かれています。複数のドクロが使われた例は、双子のディカルバン兄弟の旗 しかなく、極めて異例です。
海賊旗とは、海賊たちにとって単なるマークではありません。冬島編でルフィが語った「ドクロのマークは……“信念”の象徴なんだぞォ‼︎」 というセリフの通り、それぞれの海賊団や船長の信念、誇り、そしてアイデンティティを表現する重要なものです。デザインには強い意味が込められているハズ。
黒ひげの旗に3つのドクロが描かれているのは、黒ひげが“3つ子”であり、自身を構成する重要な存在が3人いるという意味ではないでしょうか。妹二人とともに生まれた3人兄妹であり、その“3つの魂”を旗に刻んでいる……、そう考えると、この異例なデザインにも納得がいきます。
◆体内に複数の存在? 「あいつらだ……」というセリフのホントの理由
黒ひげに関しては、以前から「体内に複数の存在がいるのではないか?」という説が囁かれてきました。
その根拠となっているのが、彼が二つの悪魔の実の能力を持っていることです。通常、悪魔の実を二つ食べれば体が跡形もなく飛び散るとされており、一人の人間が複数の能力を使うのは不可能といわれています。
にもかかわらず、「ヤミヤミの実」と、白ひげから奪った「グラグラの実」の両方を手にした黒ひげ 。
この異常な状況について、白ひげ海賊団のマルコは「体の構造が……“異形”なんだよい‼︎」と発言 。医療の知識があるマルコ がそう言っていることからも、黒ひげの体は生物的に常識外れの構造を持っていると考えられます。
さらに注目したいのが、モックタウンでのルフィとゾロのセリフです。「あいつじゃねェ……あいつらだ……」 という言葉は、黒ひげの中に複数の“気配”を感じ取ったように聞こえます。
二人の鋭い直感を思えば、このセリフには見過ごせない意味が込められている可能性が高いでしょう。
これらの要素を踏まえると、黒ひげの体には“複数の存在”が内包されているという見方が、一気に現実味を帯びてきます。
◆黒ひげは複数の血統因子を持つ?
悪魔の実の伝達条件を解明したのがベガパンクだということ、ベガパンクの偉業が血統因子の発見であること、ベガパンクがカイドウの血統因子を使って人工的に悪魔の実を作ったことなどから、悪魔の実の能力は「血統因子」を通じて伝達されると考えられます。
血統因子とは「生命の設計図」 とも呼ばれており、いわば遺伝子のようなものです。
セラフィムやグリーンブラッドの存在を踏まえると、悪魔の実の能力とは「血統因子を別の血統因子で書き換えることで、肉体に変化をもたらす力」である可能性が高いといえるでしょう。
コミックス第95巻のSBSで尾田先生は、悪魔の実の副作用によって笑うことしかできなくなった人物について、「チョパにはまだその薬を作る力がないようです」と答えています。
もし悪魔の実による変化が病気のようなものではなく、もっと深い血統因子レベルでの変化だとすれば、チョッパーの薬では治療できないのも納得です。
では、なぜ普通の人間は悪魔の実を一つしか食べられないのでしょうか?
その理由は、おそらく“一つの血統因子につき、書き換えは一度きり”だからです。無理に2回以上書き換えようとすれば、拒絶反応や細胞の崩壊のような形で体が耐えられなくなると考えられます。
つまり二つの能力を得た黒ひげは血統因子が複数ある。そう考えれば、辻褄が合います。
◆黒ひげはなぜ眠らない? “異形”と呼ばれるワケ
第966話では、見習い時代のバギーが黒ひげについて、「生まれてこの方一度も眠ったことがねェんだとよ」と語っています。このエピソードは、黒ひげの異常な体質を印象づけるものです。
エッグヘッド編では、ベガパンクの分身の一人として欲(ヨーク)が登場しました。ベガパンクは、自身の欲を分身として切り離し、「パンクレコード」を通じて同期することで、知識や体験を分身と共有しています。 その中でも、欲(ヨーク)は「食事や睡眠を補う」役割を果たす存在として描かれています。
もし黒ひげにも欲(ヨーク)のように、睡眠を補う存在がいるとしたらどうでしょう? バギーの発言から、黒ひげとその存在は「生まれたときから一緒にいる」ということになります。
「生まれたときから一緒にいる存在」、二人の妹の設定画、3つ子をイメージさせる海賊旗、体内に複数の血統因子──。
これらのことから、黒ひげが眠らずにいられるのは、妹たちが黒ひげの代わりに“眠る役割”を担っているとは考えられないでしょうか。
3つ子として生まれ、二人の妹の血統因子を体に宿している。それこそが黒ひげが“異形”と呼ばれる本当の理由なのかもしれません。
──サターン聖に告げたデボンとオーガーの言葉から、黒ひげのねらいが「世界」にあることが明らかになりました。 今後、黒ひげがその野望を追い求める中で、彼の“異形”の秘密が語られる日が訪れるのかもしれません。
〈文/鷹野あやね〉
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