ロロノア・ゾロは、なぜ「副船長」と呼ばれないのか──。麦わらの一味、最初の仲間。その強さも覚悟も、誰もが認めるナンバー2です。しかし、彼にその肩書きが与えられることはありません。この謎を解くカギは、ゾロが誓った「世界一の剣豪になる」という、彼自身の野望に隠されています。ルフィの隣に立つ最強の剣士、彼の本当の立ち位置。その答えが、彼の生き様から見えてきます。

◆「副船長」の不在とゾロが担う“精神的支柱”という役割

 麦わらの一味には、なぜ「副船長」という肩書きを持つ者がいないのでしょうか。たとえば、伝説の海賊王、ゴール・D・ロジャー(ゴールド・ロジャー)の船には冥王、シルバーズ・レイリーが、そして四皇、シャンクスの船にはベン・ベックマンという、誰もが認める副船長がいます。彼らは船長を支え、ときには諭し、巨大な海賊団をまとめる重要な役割を担っていました。

 しかし、麦わらの一味にその役職はありません。引き換えに、ゾロが一味の「精神的な支柱」としての役割を、誰よりも強く果たしているのです。

 一番分かりやすいのが、ウォーターセブンでウソップが一味を抜けたときのことです。仲間思いのルフィが簡単にウソップを許そうとしたとき、ゾロは「こんなバカでも肩書きは“船長”だ。いざって時にコイツを立てられねェ様な奴は一味にゃいねェ方がいい……!! 船長が威厳を失った一味は、必ず崩壊する!!!」と、厳しい言葉で一味の緩んだ空気を引き締めました。もしゾロがいなければ、船長という立場の重みが失われ、一味の絆はもっともろいものになっていたかもしれません。

 また、スリラーバークでバーソロミュー・くまの圧倒的な力からルフィを守ったときもそうです。「なにも!!!なかった……!!!」と、ルフィが受けたすべてのダメージと苦痛を、たった一人で背負い込みました。これは、一味の誰にも告げず、船長の命と誇りを守り抜いた、彼の覚悟の表れといえるでしょう。

 ゾロの行動は、彼が組織のナンバー2として命令されたからやっているのではありません。一味に不可欠な「けじめ」とは何か、船長ルフィの尊厳をどう守るべきか、それを自らの判断で誰よりも厳格に実行しているといえます。

 ゾロは役職や肩書きではなく、行動そのもので、自分がどんな存在なのかを仲間たちに示しています。彼の役割は、組織の図には書かれていない、もっと深くて大切なものなのかもしれません。

◆「野心」と「忠誠」の両立──“世界一の剣豪”という野望の本質

 ゾロが一味にいる理由は、とてもシンプルです。彼が幼いころに亡き親友、くいなと誓った「世界一の剣豪になる」という野望を叶えるため。この目的は、物語の最初から一度もブレていません。

 ここで大切なのは、ゾロの夢が「海賊王の右腕になること」ではないという点です。ゾロの野望は、あくまで彼個人のものです。東の海(イーストブルー)でミホークに完敗したとき、彼が「もう二度と敗けねェから!!!!」と涙ながらに誓った相手は、目の前のミホーク、そして船長であるルフィでした。この誓いは、組織のナンバー2としての忠誠心だけではなく、一人の剣士としてのプライドそのものといえるでしょう。

 では、なぜ彼は自分の野望のために、ルフィに命を懸けてまで尽くすのでしょうか。答えは、この「野心」と前途で定義した「忠誠」が、ゾロの中ではっきりと、そして強くつながっているからだと考えられます。

 ゾロにとって、「世界一の剣豪」の船長が、中途半端な海賊であっては絶対にいけません。なぜなら、自分の野望の価値を下げてしまうことになるからです。「海賊王の仲間であること」は、ゾロが目指す“世界一”に、最高の重みをつけてくれる絶対条件といえます。

 つまり、ゾロがルフィを「海賊王」に押し上げることは、船長への「忠誠」であると同時に、自分の「野心」を最高の形で叶えるための、たった一つの道でもあると考えられます。

 この二つの気持ちが、ゾロの中では完全に一つになっている。だからこそ、彼は誰よりも強く、誰よりも真っ直ぐに、ルフィを支え続けられるのではないでしょうか。

◆なぜ“副船長”と呼ばれないのか?──対等な「二本の柱」という関係性

 ここまで見てきたように、ゾロの立ち位置は一般的な「副船長」とは少し違います。ではなぜ、彼は「副船長」と呼ばれないのでしょうか。その答えは、ゾロとルフィの特別な関係性から見えてきます。

 「副船長」という言葉には、どうしても「船長を支える二番手」「船長に従う者」というイメージがつきまといます。もちろんゾロはルフィを船長として立てていますが、二人の関係は、単純なリーダーと部下という言葉では表せません。

 ルフィの夢は「海賊王になること」。そして、ゾロの夢は「世界一の剣豪になること」。二つの夢は、どちらが上でどちらが下、という上下関係では比較できない、それぞれの道で「世界一」を目指す、とてつもなく大きい夢といえます。

 麦わらの一味という船は、この二つの巨大な夢を乗せて進んでいるのです。まるで、船の最も重要な部分を支える、「二本の柱」のように。ルフィという柱が少しでも揺らげばゾロが支え、ゾロという柱が折れそうになればルフィが守る。二人は主従ではなく、共に頂点を目指す、対等なパートナーといえるでしょう。

 そう考えると、ゾロが「副船長」と呼ばれない理由が見えてきます。作者である尾田先生は、意図的にゾロをルフィの「下」ではなく、「隣」に立つ存在として描き続けているのではないでしょうか。

 ゾロの立ち位置は、「副」という言葉では表現しきれないほど、特別で、かけがえのないもの。だからこそ、ゾロは「副船長」ではなく、“ルフィと共に歩むもう一人の王”として、物語に刻まれているのかもしれません。

 

 ──ゾロが「副船長」と呼ばれないのは、彼がルフィの補佐役ではなく、共に「世界一」を目指す対等なパートナーだからといえます。彼の忠誠と野心は、完全に一つになっています。

 ルフィが「海賊王」となり、ゾロが「世界一の剣豪」となる日。その瞬間こそ、二つの巨大な夢が同時に叶い、二人の王の真の絆を目撃することになるのではないでしょうか。

〈文/凪富駿〉

 

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