マーシャル・D・ティーチ、通称“黒ひげ” は、たった一つの悪魔の実を求め、20年以上も白ひげの船で待ち続けました。なぜ、ほかの能力には目もくれず「ヤミヤミの実」一択だったのでしょうか。常識外れの執念の裏には、世界をひっくり返すほどの恐ろしい計画が隠されているのかもしれません。黒ひげの本当のねらい、その野望の根源とはいったいどのようなものなのでしょうか?
◆「悪魔の実図鑑」の知識と“血”に刻まれた宿命
黒ひげの計画を解くには、まず彼がただの運任せの海賊ではないことを知る必要があります。「悪魔の実図鑑」を隅々まで暗記しており、「ヤミヤミの実」の強力な能力はもちろん、その実がどんな形をしているかまで正確に知っていました。彼の20年以上にわたる潜伏は、何となくではなく、たった一つの目標を定めた、執念深い「探索」だったといえます。
しかし、黒ひげの執念は、たんなる探求心や野望だけでは説明がつきません。ここで注目したいのが、彼の海賊船の名前です。その名も「サーベル・オブ・ジーベック号」。これは、かつてゴール・D・ロジャー(ゴールド・ロジャー)とモンキー・D・ガープが手を組んでようやく倒した、伝説の海賊団船長、ロックス・D・ジーベックの名を冠しています。
このことから、黒ひげはロックスの息子、あるいはその野望の意志を継ぐ者ではないか、という説が浮かび上がってきます。彼の行動は、自分の野心だけでなく、ロックスが果たせなかった「世界の王」になるという壮大な野望を継ぐ、「宿命」に基づいているのかもしれません。
さらに、かつて世界の王を目指したロックスこそが、先代のヤミヤミの実の能力者だったとしたらどうでしょうか。黒ひげがヤミヤミの実に異常なまでに固執した理由とは、父の力を取り戻し、その野望を継ぐための、“血”に導かれた必然の選択だった、と考えられるでしょう。
「ダメージを常人の2倍受け入れる」という、普通なら誰もがためらう“最凶”のリスク。しかし、もしそれが父の力を継承するための試練だとすれば話は別です。彼の行動は無謀な賭けではなく、自らの血に刻まれた力を取り戻すための、覚悟に満ちた挑戦だったのかもしれません。
◆「闇」の能力の本質──すべての能力者の“天敵”となる力
黒ひげがこだわった悪魔の実。「ヤミヤミの実」の能力が持つ、ほかのどんな実にもない「特別な価値」とは何なのでしょうか。
ヤミヤミの実の真の恐ろしさは、相手の体を闇に引きずり込み、触れている間、その相手が持つ悪魔の実の能力を一時的に無力化してしまうことにあります。自然(ロギア)系の能力者だろうと、幻獣種だろうと、闇に捕らえられた瞬間、ただの“人”に戻ってしまうのです。
大海賊時代、多くの強者たちは強力な能力によって成り上がってきました。エースの炎も、クロコダイルの砂も、そして白ひげの地震さえも、能力がなければただの力自慢となってしまいます。ヤミヤミの実は、そんな能力者たちが支配する世界において、すべての強者を自分の土俵に引きずり下ろす、まさに「天敵」と呼ぶべき力といえます。
さらに重要なのが、「闇水(くろうず)」という引力を使う技です。この技があることで、たとえ相手が逃げようとしても、強制的に自分の土俵へ引き寄せられます。そして、引き寄せた相手に触れさえすれば、能力は無効化されます。
「引き寄せて、無力化する」という戦い方は、どんな能力者であろうと、黒ひげとの「純粋な殴り合い」を強制させます。体の頑丈さに絶対の自信を持つ彼にとって、これほど確実な勝ちパターンはないといえるでしょう。
つまり、黒ひげがヤミヤミの実を求めたのは、派手な攻撃力のためではなく、「すべての能力者を無力化し、自分の得意な土俵に引きずり込む」という、成り上がるための最高の“カギ”だったからといえるでしょう。それこそが、彼が“ヤミ”にすべてを賭けた、唯一無二の理由だったのではないでしょうか。
◆究極の目的“能力者狩り”と「世界の王」へのロードマップ
「ヤミヤミの実」が持つ能力無効化は、黒ひげの壮大な計画の、ほんの一部に過ぎません。彼の本当の恐ろしさは、頂上戦争の舞台で、世界中に見せつけられます。マリンフォードで白ひげから「グラグラの実」の能力を奪い取った、衝撃の事件です。
悪魔の実は「一人一つ」という、『ONE PIECE』の世界の常識を、彼はあっさりと覆しました。なぜ彼だけが複数の能力を持てるのか──。その理由はまだ謎に包まれています。しかし、「能力を奪う」という、前代未聞の現象の引き金に、ヤミヤミの実の力が関わっていることは間違いないでしょう。
この「能力強奪」こそ、黒ひげ海賊団が短期間で四皇にまで成り上がった、最大の原動力といえます。
「ヤミヤミの力で敵を無力化して倒し、さらに能力を奪い取る」。この恐ろしいサイクルによって、彼は自分の軍団を急速に強化しているのです。実際に、元部下であったアブサロムの「スケスケの実」の能力を奪い、雨のシリュウに与えていることからも、計画は着実に進んでいることが分かります。
黒ひげが「ヤミヤミの実」一択だった、その最終的な理由とは、ヤミヤミの実が「能力者狩り」という、最強の能力者軍団を作り上げるための、“核”となる能力だったからといえるでしょう。
彼の野望は、もはや「海賊王」という一つの称号に留まりません。悪魔の実の能力そのものを独占し、文字通り世界のすべてを支配する。それこそが、彼の目指す「世界の王」への道筋なのではないでしょうか。
──黒ひげの20年以上にわたる執念は、「能力無効化」と「能力強奪」という、世界支配計画に不可欠なピース「ヤミヤミの実」を手に入れるためといえるでしょう。
「自由」のルフィと「支配」の黒ひげ。同じ“D”の名を持つ二人の激突は避けられません。そのとき、すべての能力を飲み込む「闇」と、理不尽を笑い飛ばす「太陽」、果たしてどちらが新時代を照らすのか。物語の最終決戦は、もう目前に迫っているのかもしれません。
〈文/凪富駿〉
※サムネイル画像:『「ONE PIECE」105巻(出版社:集英社)』