覇気だけで四皇に君臨する男、シャンクス。その傍らには常に、愛剣「グリフォン」があります。ミホークの「夜」やゾロの「和道一文字」とは違い、「グリフォン」の来歴は謎に包まれています。この剣が特別な「意志」や「能力」を秘めているとしたら。
能力者である描写がないシャンクスの、底知れない強さの秘密。その答えの一端は、この相棒ともいえる剣に隠されているのかもしれません。
◆「グリフォン」の名が示す“幻獣”の可能性
シャンクスの剣は、なぜ「グリフォン」という名前なのでしょうか。ミホークの「夜」や白ひげの「むら雲切」のように、最上大業物の名前は、持ち主の強さや特徴を表すものが多く見られます。しかし、「グリフォン」は伝説上の幻獣の名前。この少し変わった名前に、この剣の秘密を解くカギが隠されているのかもしれません。
グリフォンとは、鷲の上半身とライオンの下半身を持つ伝説の生き物です。鷲は「百鳥の王」、ライオンは「百獣の王」。二つの王を合わせたグリフォンは、最強の王の象徴であり、天にある宝を守る存在とされてきました。これは「天竜人」をも恐れぬシャンクスの生き様や、彼が何か大切なものを守る「守護者」としての役割を暗示しているように考えられます。
そして、ここから一つの大胆な仮説が浮かび上がります。『ONE PIECE』の世界には、Mr.4の犬銃ラッスーや、スパンダムの象剣ファンクフリードのように、物に悪魔の実を食べさせて能力を持たせた「生きた武器」が存在します。
シャンクスの愛剣グリフォンが、動物(ゾオン)系幻獣種モデル“グリフォン”の実を食べた剣だとしたら。悪魔の実を食べていない可能性が高いシャンクス自身は泳げるまま、戦うときには相棒である剣が幻獣の力を発揮する。そんな、恐るべき戦い方が可能といえます。
グリフォンという名は飾りではなく、この剣自体が「幻獣」の力と意志を宿す存在であることを示しているのかもしれません。シャンクスの強さの秘密は純粋な覇気だけでなく、この「意志ある剣」との見事な連携にあるのかもしれません。
◆ロジャーの愛剣“エース”との関係性──受け継がれる王の魂
グリフォンが特別な剣であるとして、その出自はどこにあるのでしょうか。その答えは、シャンクスの師である、海賊王ゴール・D・ロジャー(ゴールド・ロジャー)がカギを握っているかもしれません。
2021年7月2日に出版された、「VIVRE CARD(ビブルカード) 〜ONE PIECE図鑑〜 BOOSTER PACK 豪快! 伝説の男達!!」(出版社:集英社)によって、ロジャーの愛剣の名は「エース」だと判明しました。後に生まれる息子にその名を付けるほど、ロジャーはこの剣を大切にしていたことが分かります。そしてこの剣も、最上大業物12工の一振りです。
ここで、シャンクスとロジャーの特別な関係を思い出してください。シャンクスは、ロジャーから麦わら帽子を受け継ぎました。同じように、彼の死後、もっとも信頼していたシャンクスが、その魂ともいえる愛剣「エース」を受け継いだと考えるのは、自然なことではないでしょうか。
では、なぜ名前が「グリフォン」に変わっているのか。そのヒントは、ゾロの和道一文字にあります。あの刀には、親友くいなの強い魂が宿っていると考えられています。名刀とは、持ち主の魂や意志を宿すことで、その性質を変えることがあるのかもしれません。
ロジャーの「王の魂」を宿した剣“エース”が、シャンクスという新たな主に渡り、彼の生き様や覇気と共鳴した。そして、王の象徴である「グリフォン」という、新たな魂を得て生まれ変わった。そう考えることはできないでしょうか。
シャンクスの剣「グリフォン」の正体。それは、かつての海賊王の愛剣“エース”そのものであり、ロジャーの魂を受け継ぎながら、シャンクスという新たな強者と共に成長し続ける、“生きた剣”なのかもしれません。二代にわたる王の魂が宿る、最強の剣。それが、グリフォンの本当の姿なのではないでしょうか。
◆非能力者のシャンクスと「意志ある剣」のコンビネーション
グリフォンが「幻獣の力」か「王の魂」を宿す特別な剣だとして、それがシャンクスの強さにどうつながるのでしょうか。そこには、彼が“非能力者”だからこその、究極の戦い方が見えてきます。
グリフォンが「ゾオンの実を食べた剣」だったとしても、剣自身が能力者になるため持ち主であるシャンクスは“非能力者”のままです。彼はカナヅチになることなく海で自由に動け、能力者最大の弱点を持ちません。これは、悪魔の実の強力な力と、非能力者の安定性を両立させる、まさに理想的な戦い方といえるでしょう。
そして、この「意志ある剣」に、シャンクスの規格外の覇気が注ぎ込まれることで、想像を絶する現象が起こります。ユースタス・キッドが船長を務めるキッド海賊団を一瞬で葬った、あの「神避(かむさり)」。かつてロジャーが使った技であり、シャンクスはその技を再現しています。
これは、シャンクス個人の覇気だけで放たれたものではないのかもしれません。グリフォンに宿る「幻獣の意志」、あるいは「ロジャーから受け継いだ王の魂」。シャンクスの覇気が、それらの強大な意志と共鳴し、増幅されることで、とてつもない一撃を生み出しているのではないでしょうか。
シャンクスが最強格である理由。それは、彼自身の圧倒的な覇気だけではなく、悪魔の実の能力に頼らないシャンクス自身と、「意志」や「能力」をその身に宿した相棒“グリフォン”との、完璧な連携だと考えられます。彼らは、一人と一つの剣ではなく、互いを高め合う最強の“二人組”として戦っているのかもしれません。だからこそ、彼は能力者たちがひしめく海の頂点に君臨し続けることができるのでしょう。
──シャンクスの愛剣「グリフォン」は、たんなる名刀ではなく、「幻獣の能力」か、あるいは師である「海賊王の魂」を宿した、特別な意志を持つ剣である可能性が極めて高いといえます。
彼の強さの秘密は、自身の覇気だけでなく、この最強の相棒との完璧な連携にあるのかもしれません。やがて来る彼の本気の戦いで、グリフォンがその真の力を解き放つ瞬間を目撃することになるでしょう。
〈文/凪富駿〉
《凪富駿》
アニメ・漫画に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。特にジャンプアニメに関する考察記事の執筆を得意とする。作品とファンをつなぐ架け橋となるような記事の作成がモットー。
※サムネイル画像:Amazonより 『DVD「ONE PIECE ワンピース 14thシーズン マリンフォード編 piece.8」(販売元:エイベックス・ピクチャーズ)』