誰も座ってはならないはずの「虚の玉座」。そこに座る唯一無二の世界の王、イム様。五老星すらひざまずかせるその存在は、物語最大の謎の一つです。島一つを消し去るほどの力は、たんなる悪魔の実の能力で説明がつくでしょうか。
イム様自身が、すべての悪魔の実の“起源”に関わる存在だとしたら──。800年間、世界に“呪い”をかけ続けたその恐るべき正体を解き明かす鍵は、彼らの不気味な過去から見えてきます。
◆“神”を名乗る「悪魔」──イム様の人間を超えた存在感
イム様とは、いったい何者なのか。その正体を考えるうえで、まずその存在がいかに人間離れしているかを見ていく必要があります。
もっとも衝撃的なのは、800年間も世界の頂点に君臨し続けている可能性です。サボの回想で描かれた、800年前の世界会議。そこにいた「最初の20人」のシルエットの中に、現在のイム様とそっくりな人物が描かれていました。これは、イム様が代替わりしてきたのではなく、オペオペの実の「不老手術」か、あるいはそれ以上の何かによって、同じ人物がずっと生き続けている可能性を示しています。
また、作中で描かれたイム様のシルエットは、一般的な人間とはかけ離れた姿をしています。鋭く光る瞳と、悪魔を思わせる長く伸びた尻尾のようなもの。さらに、部下である五老星たちが、エッグヘッドで妖怪のような姿へと変身したことから考えても、世界の頂点に立つ者たちが、文字通り「人間ではない怪物」である可能性は極めて高いでしょう。
そして、その力はまさに神の御業です。ルルシア王国を一瞬で歴史から消し去った、天から降り注ぐ謎の攻撃。あれが古代兵器ウラヌスによるものか、あるいはイム様自身の能力なのかは不明ですが、少なくともイム様の存在がその発動に深く関わっていた可能性は極めて高いと考えられます。
いずれにせよ、天候や天体、あるいはそれ以上の何かを支配できる神の領域の力を行使できる存在であることは間違いないといえるでしょう。
800年生き続けているとされる不老の存在。悪魔のような異形の姿。そして、神のような破壊の力。イム様とは、完全に人間を超越した“何か”である可能性が高いといえます。この「人間離れした存在」という事実こそが、その能力の謎を解く、すべての出発点となるのではないでしょうか。
◆すべての能力の“起源”か?──イム様と「悪魔の実」の不気味な関係
人間を超えた存在、イム様。その力の正体は、すべての「悪魔の実」の“起源”そのものに関わっているのかもしれません。
天才科学者ベガパンクは、悪魔の実を「誰かが望んだ「人の進化」の“可能性”」だと語りました。しかし、人の「望み」という形のないものが、どうやって物理的な「実」になるのでしょうか。その“変換”には、何か人知を超えた存在が関わっているのかもしれません。
そして、その存在こそがイム様だと考えると、多くの謎がつながります。イム様が、世界中の人々の「望み」をエネルギーのようなものとして取り込み、それを「悪魔の実」という形で世界に生み出している──。そう考えると、悪魔の実が「自然の摂理に反する」と言われる理由も見えてきます。
すべての実は、自然界の母である「海」から生まれたものではなく、イム様という“異物”から生み出された不自然な存在だから。だからこそ、能力者は「海に嫌われる」のではないでしょうか。
この世界は、悪魔の実の能力者が大きな力を持つようにできています。イム様がその実を生み出す存在ならば、それは世界中の強者たちに力を与える代わりに「海に嫌われる」という絶対的な弱点、つまり“呪い”をかけることで、間接的に世界を支配していると考えられるでしょう。
イム様の能力は、たんなる一つの実の力などではないのかもしれません。存在そのものが、人々の望みを糧に「悪魔の実」を生み出し、世界に“呪い”をばらまく、すべての能力の“起源”にして“支配者”。そう考えると、800年間も神のごとく君臨し続けられた理由も、より現実味を帯びてくるのではないでしょうか。
◆なぜ“神”は「太陽」を恐れるのか──イム様の唯一の弱点
イム様が悪魔の実の“起源”に関わる存在だとすれば、その支配は完璧に見えます。しかし、その力が“不自然”に生まれたものだとしたら、弱点もまた存在するのではないでしょうか。
まず、すべての能力者が「海に嫌われる」こと。これは、自然界の母である海が、イム様という“不自然な存在”とその影響力を根本から拒絶している証拠とも考えられます。イム様の支配が自然の摂理に反していることを、海そのものが示しているのかもしれません。
そして、イム様がもっとも恐れる存在──太陽の神“ニカ”。
なぜ、イム様はニカをそれほどまでに恐れるのでしょうか。その理由は、ニカが持つ「空想を現実にする」という能力にあると考えられます。これは、人々の“望み”をイム様を介さずに、直接現実に変えてしまう力なのではないでしょうか。
そうだとすれば、ニカは、イム様が築いた「望みを実に変え、呪いをかける」という支配の仕組みを、根底から無意味にしてしまう唯一の“天敵”なのかもしれません。
ではなぜ、イム様は自らの天敵となる実を生み出してしまったのか。ここで思い出したいのがベガパンクの言葉です。悪魔の実の源泉は「人々の望み」。イム様がその望みを管理していたとしても、人々の「自由への渇望」という強すぎる願いは、イム様の支配を超えて自然発生的に「ニカの実」を生み出した可能性があります。
五老星が「数百年の間入手できなかった」と語ったのも、その証拠といえるのではないでしょうか。イム様ですら完全にはコントロールできない、例外的な実が存在しているといえます。
「ニカの実」とは、人々の“自由への願い”が形となった、イム様の支配を打ち破る唯一の存在。だからこそ、イム様はその存在を恐れ、歴史から消し去ろうとしてきたと考えられるでしょう。
さらに、「神の天敵」と呼ばれる「Dの一族」。イム様が自らを「神」と位置づけ、この不自然な世界を築いてきたのだとすれば、「D」とはその支配を打ち破るために受け継がれてきた、自然側の“意志”なのかもしれません。
イム様の絶対的な力。しかし、その力は「不自然」であるが故に「海(自然)」「ニカ(解放)」「D(意志)」という、三つの“天敵”を生み出してしまいました。イム様の800年の統治は、この天敵たちから逃れ続ける、終わりのない戦いの歴史でもあるといえるでしょう。
──世界の王イム様。その正体は、800年を生き、人々の望みを糧に「悪魔の実」を生み出すことで世界に“呪い”をかけてきた“起源”の存在である可能性が高いといえます。
ルフィがニカとして覚醒した今、800年越しの最終戦争の幕が上がりました。この戦いの結末こそが、悪魔の実の呪いが解け、世界の夜明けとなるのかもしれません。
〈文/凪富駿〉
《凪富駿》
アニメ・漫画に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。特にジャンプアニメに関する考察記事の執筆を得意とする。作品とファンをつなぐ架け橋となるような記事の作成がモットー。
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