“東の海(イーストブルー)”でルフィに敗れ、小物だったはずの、道化のバギー。なぜ今、クロコダイルやミホークといった“強者”たちを従え、四皇にまで上り詰めているのでしょうか。
彼の快進撃は、たんなる幸運や勘違いではないと考えられます。その異常なカリスマ性の裏には、彼自身も気づいていない「王の器」、そして“世界に選ばれた道化”としての不気味な運命が隠されているのかもしれません。
◆「運」だけでは説明がつかないバギーの“人たらし”能力
バギーの奇跡的な出世物語、その原点はインペルダウンからの大脱獄にあります。脱獄の道中、なぜかバギーはルフィとともにインペルダウン脱獄犯の首謀者とされ、凶悪な囚人たちから尊敬の眼差しを浴びてリーダー視されていました。
そして脱獄後、海軍本部へと向かう中、バギーが海賊王ロジャーの船の元船員であり、四皇シャンクスと兄弟分であったという過去が、海軍との電伝虫によって判明します。
その事実は囚人たちの間で“伝説”として広まっていきます。重要なのは、彼が自分で大ボラを吹いたのではなく、周囲が彼の経歴に傾倒し、心から彼を信じ、ついてきたという点です。彼の存在そのものが、なぜか人々の心を惹きつけるといえるでしょう。
その異常な現象が頂点に達したのが、マリンフォード頂上戦争での映像配信事件でした。囚人が奪った映像電伝虫が、バギーの姿を全世界に映し出します。なぜ、白ひげや海軍大将たちが激闘を繰り広げる、あの世界でもっとも重要な瞬間に、よりにもよって“バギー”が、世界の中心に映し出されたのでしょうか。
これは、たんなる偶然の一言で片付けて良いものではありません。まるで、この“物語の意志”そのものが、彼を「道化」として、世界の大きな舞台に押し上げたかのようにも見えます。
バギーの出世は、たんなる「運」や「勘違い」ではないのかもしれません。彼には、本人の意図や実力をはるかに超えて、周囲の人間を惹きつけ、なぜか物語の中心に立ってしまう、天性の“人たらし”の能力、あるいは抗うことのできない“運命”が、生まれつき備わっているのではないでしょうか。
◆無意識の“覇王色”?──人を惹きつける力の正体
バギーが持つ、人々を惹きつけ、物語の中心に立ってしまう不思議な“運命”。その正体は、彼自身も気づいていない「王の資質」の表れなのかもしれません。『ONE PIECE』の世界における「王の資質」、それは“覇王色の覇気”です。
数百万人に一人しか持たないこの力は、相手を威圧するだけでなく、人々の心を掴み味方にする、強烈なカリスマ性の源でもあります。ルフィが仲間を増やしていくのも、この覇気が持つ「人を惹きつける力」といえます。
ここで、バギーの“人たらし”の能力を振り返ります。彼の意図とは関係なく、なぜか周囲が彼を信じ、祭り上げてしまう。この結果は、覇王色の覇気がもたらすものと不気味なほどよく似ています。しかし、バギーが覇気で相手を気絶させる描写は現状まだありません。彼自身、そんな力があるとは思っていないといえるでしょう。
では、バギーが「人を惹きつける」という効果だけが無意識に発動してしまっている、極めて特殊で歪な“覇王色の覇気の持ち主”だとしたら?
彼の「道化」という称号も、この説を後押しします。トランプの世界では、道化であるジョーカーは、ときに王であるキングすら打ち破る切り札となります。バギーは、物語の最終局面で、ルフィや黒ひげといった「王」たちの運命をかき乱す“ジョーカー”としての役割を、運命づけられているのではないでしょうか。
バギーの異常なカリスマ性と強運。その正体は、彼自身もコントロールできていない、「無意識の覇王色の覇気」である可能性が高いといえます。彼は、自覚のないままに「王の資質」を発揮し、時代を動かす“ジョーカー”としての道を歩んでいるのかもしれません。
◆クロコダイルとミホークはなぜ従うのか?──バギーの“利用価値”と“将来性”
王下七武海制度の撤廃により、バギーは元王下七武海のクロコダイル、ミホークを従えてクロスギルドを設立します。バギーが「無意識の覇王色」を持つとしても、あのクロコダイルやミホークが、なぜ彼の下についているのでしょうか。その答えは、彼らがバギーの持つ、とてつもない「利用価値」に気づいているからかもしれません。
彼らが目をつけたのは、バギーの「伝説的な箔」と「人を集める力」であると考えられます。「海賊王の元船員」で「四皇シャンクスの兄弟分」。この経歴は、海賊の世界で強力な看板となります。そして、インペルダウンの囚人をまとめた実績は、彼が優れたリーダーだと世間が思うには十分だったといえるでしょう。
クロコダイルやミホークにとって、自分たちが表に立つよりも、この“ピエロ”を神輿として担いだほうが都合が良かったのかもしれません。世間の注目を集めるバギーを「隠れ蓑」にすることで、水面下で自由に動き、自分たちの野望を進めることができるのです。
しかし、クロコダイルほどの実力者が、バギーをたんなる「神輿」としか見ていないのでしょうか。インペルダウンで悪魔の実の「覚醒」について語っていた彼が、バギーの「バラバラの実」が持つ、まだ見ぬ“将来性”を見過ごすとは思えません。
一見弱くも見える「バラバラの実」ですが、悪魔の実が「覚醒」し、自分以外の物までバラバラにできるようになったら?
軍艦や要塞、場合によっては古代兵器すらも影響を受けるほどの力に発展する可能性もあるといえます。クロコダイルたちがバギーを担ぐのは、彼の「現在の利用価値」だけでなく、この「未来への投資価値」をも見込んでいるからなのかもしれません。彼らの関係は信頼ではなく、現在と未来の利益が一致した、計算高いつながりといえるでしょう。
──バギーの奇跡的な出世。それは「無意識の覇王色」が生む“人たらし”の力と「バラバラの実の覚醒」という将来性を、クロコダイルたちが利用した結果といえます。
本物の王たちが覇権を争う最終局面。実力ではなく運命で四皇となった偽りの王バギーが、どのような役割を果たすのか。
彼の幸運とカリスマ性が、世界の運命を左右する最強の“ジョーカー”となる。そんな未来が、すぐそこまで来ているのかもしれません。
〈文/凪富駿〉
《凪富駿》
アニメ・漫画に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。特にジャンプアニメに関する考察記事の執筆を得意とする。作品とファンをつなぐ架け橋となるような記事の作成がモットー。
※サムネイル画像:Amazonより 『「ONE PIECE」105巻(出版社:集英社)』