<この記事にはTVアニメ・原作漫画『ONE PIECE』のネタバレが登場します。ご注意ください。>
「神の谷(ゴッドバレー)」(以下、ゴッドバレー)の炎の中で生まれ、引き裂かれた双子の赤子。ドラゴンに救われたシャンクスには、神の騎士団に連れ去られた、瓜二つの顔を持つ双子の兄“シャムロック”がいたのです。
一人は自由な海賊へ。もう一人は「神の騎士団団長」へ。なぜ血を分けた兄弟は、正反対の道を歩むことになったのか。その答えは、ゴッドバレーで始まった双子の悲劇から見えてきます。
◆光と影──ゴッドバレーで引き裂かれた“双子の運命”
シャンクスとシャムロック。二人の物語は39年前、西の海にあった島「ゴッドバレー」で始まりました。彼らは、天竜人であるフィガーランド・ガーリング聖と、島の原住民であった女性との間に生まれた、双子の兄弟だったのです。しかし、彼らの運命は、生まれた直後から過酷なものでした。
父のガーリング聖が引き起こした「先住民一掃大会」の戦火の中、母は父自身の剣によって致命傷を負わされてしまいます。そして息絶える直前、母は二人の赤子を、その場に居合わせた若き海兵、モンキー・D・ドラゴンに託したのです。
正義感の強いドラゴンは二人を抱え、必死に戦場からの脱出を試みますが、彼の前には神の騎士団の一員、マッフィー宮が立ちはだかります。そしてドラゴンは敗れ、その腕から兄のシャムロックだけが、無情にも奪い去られてしまいます。この瞬間、双子の運命は、光と影へと決定的に分かれたれたといえます。
弟のシャンクスは、ドラゴンに救われたあと、海賊王ゴール・D・ロジャー(ゴールド・ロジャー)の船に拾われ、世界でもっとも自由な海賊という“光”への道を歩み始めます。
一方、兄のシャムロックは、聖地マリージョアへと連れ戻され、天竜人の歪んだ秩序を守るための最高戦力という“闇”の秩序として、まったく異なる人生を歩むことを運命づけられたのです。
ゴッドバレー事件は、たんにロックスが敗れた事件ではありません。それは、同じ血を分けた“双子の兄弟”の運命を、自由と支配、光と影へと無慈悲に引き裂いた、あまりにも悲しい物語の始まりの場所でもあったといえるでしょう。
◆「神の騎士団団長」シャムロック聖──弟とは正反対の“王”
ゴッドバレーで引き裂かれた双子の兄、シャムロック。彼がその後、どのような人生を歩んだのか。その姿は、弟シャンクスとは何もかもが正反対の、“もう一人の王”と呼ぶべきものでした。
まず、その見た目。シャンクスと瓜二つの顔立ちでありながら、トレードマークである左目の傷はなく、失われた左腕も健在です。外界を「薄汚れた」と見下すその言葉や、高貴な立ち振る舞いは、自由を愛する弟とはまるで違う、天竜人としての価値観に染まっていることを示しています。
そして、その戦闘能力もまた、シャンクスとは対照的です。彼の愛剣「ケルベロス」は、悪魔の実を食べた“生きた武器”であり、覚醒の兆候である「羽衣」を纏っています。純粋な「覇気」を極めたシャンクスに対し、シャムロックは「科学(物に実を食べさせる技術)」と「悪魔の実の能力(幻獣種)」という、天竜人が持つ技術の粋を集めた力をも使いこなすのです。二人は、強さの種類そのものが正反対なのかもしれません。
しかしそんな彼も、シャンクスを「生き別れの弟」と認識しつつも、直接手を下すようなことはしていないことから、弟への想いを完全に捨て去ったわけではないようにも見えます。そこには、下界で生きる道を選んだことに呆れつつも、ほんのわずかな兄弟の情が入り混じった、複雑な感情が渦巻いているのではないでしょうか。
神の騎士団団長として、天竜人の秩序を守るために育てられたシャムロック。外見こそシャンクスに似ていますが、その思想、戦い方、そして立場、そのすべてが弟とは対をなす“もう一人の王”として、彼は完成してしまったといえるでしょう。
◆避けられない宿命──「自由」を愛する弟と「秩序」を守る兄
正反対の道を歩むことになった、シャンクスとシャムロック。二人の運命が再び交差するとき、それは世界の未来を懸けた、あまりにも悲しい戦いの始まりとなるのかもしれません。そしてその伏線は、既に描かれている可能性があります。
かつて、マリージョアで五老星と極秘に謁見した「シャンクスに酷似した人物」。あの人物こそ、顔に傷のない兄、シャムロックだったのではないでしょうか。神の騎士団団長である彼が、世界のバランスについて五老星と話をしていても、何ら不思議はないといえます。彼が語った「ある海賊」とは、弟のことではなく、世界の秩序を乱すルフィ(ニカ)や黒ひげのことだったのかもしれません。
ここに、二人の決定的な立場の違いが見えてきます。シャンクスは、天竜人の血を引いていながら、ロジャーやドラゴンといった「Dの一族」に育てられ「自由」を何よりも愛する男になりました。
一方、兄のシャムロックは、天竜人として育てられ、世界の「秩序」を守る守護者となりました。彼の正義は「Dの一族」がもたらす自由という名の「混沌」を、決して許しはしないといえるでしょう。
物語の最終局面、ルフィ率いる「Dの一族」が、世界政府に最後の戦いを挑むとき──。彼らの前に立ちはだかる最強の壁、それは神の騎士団を率いる最高司令官、シャムロックである可能性が極めて高いです。
そして、その「秩序」の守護者である兄を止めることができるのは、彼の唯一の“半身”でありながら「自由」の意志を理解する弟、シャンクスしかいない。そう考えられます。
シャンクスとシャムロックの戦いは、たんなる兄弟喧嘩ではありません。それは「自由」と「支配」というこの物語の根幹をなすテーマが、血を分けた双子の体を通して激突する、究極の代理戦争なのではないでしょうか。ゴッドバレーで始まった二人の悲劇は、世界の運命を懸けた、涙の決闘によって終わりを迎えるのかもしれません。
──ゴッドバレーで引き裂かれた、シャンクスとシャムロック。兄は、天竜人の秩序を守る「神の騎士団団長」として、弟とは正反対の道を歩んでいました。
「自由」を愛する弟と、「秩序」を守る兄。双子の運命が再び交差するとき、それは世界の未来を懸けた、あまりにも悲しい兄弟対決の始まりを意味しているのかもしれません。
〈文/凪富駿〉
《凪富駿》
アニメ・漫画に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。特にジャンプアニメに関する考察記事の執筆を得意とする。作品とファンをつなぐ架け橋となるような記事の作成がモットー。
※サムネイル画像:Amazonより 『「ONE PIECE」第105巻(出版社:集英社)』