ルフィが受け継いできた、たった一つの麦わら帽子。しかし、聖地マリージョアには、もう一つの巨大な麦わら帽子が冷凍保存されています。そして、それを見つめるのが、世界の王イム様です。なぜ、同じ形の帽子が二つ存在するのか。そして、なぜ一つは巨大なのか。
この謎は、800年前に敵対した“二人の王”の物語へとつながっている可能性があります。ルフィが帽子を受け継いだこと自体が、偽りの王への宣戦布告だったのかもしれません。
◆「受け継がれる帽子」と「封印された帽子」──二つの“麦わら”が示すもの
『ONE PIECE』という物語の象徴、麦わら帽子。しかし、この世界にはまったく同じ形をした、二つの麦わら帽子が存在します。その二つの帽子は、あまりにも対照的な運命を辿ってきたのかもしれません。
一つは、ルフィが被る麦わら帽子です。これは、元々は海賊王ゴール・D・ロジャー(ゴールド・ロジャー)が被り、のちにシャンクスへと託され、そして「いつかきっと返しに来い 立派な海賊になってな」という約束とともに、ルフィへと受け継がれてきました。この帽子は、持ち主を変えながら未来へと「意志」をつないでいく、“生きた物語”そのものといえるでしょう。
一方、聖地マリージョアの奥深くには、もう一つの巨大な麦わら帽子が存在しました。
謎の王イム様だけが入ることを許されたその部屋で、巨大な冷凍カプセルのようなものの中に、その帽子は眠っていました。持ち主もおらず、誰かに受け継がれる様子もない。まるで時間が止められたかのように、静かに“封印”されているのです。
そして、もっとも大きな謎は、その「大きさ」です。
普通の人間がかぶれるサイズではない、その巨大さ。この帽子の持ち主は、かつてこの世界に存在した巨人族、あるいはそれに匹敵する、我々の想像を超えるほど大きな人物だった可能性が高いです。
ルフィの帽子が、未来へと「受け継がれる意志」の象徴であるならば、マリージョアの帽子は、過去に「封印された王」の象徴といえます。この二つの麦わら帽子は、800年前の「空白の100年」に存在した、敵対する二つの意志の物語を、我々に示しているのではないでしょうか。
◆“神”の呪い──ルフィが背負う「二重の負荷」
過去に「封印された王」の象徴と考えられる、マリージョアの巨大な麦わら帽子。その持ち主とは、いったい誰だったのでしょうか。その答えは、空白の100年に存在したとされる、伝説の人物「ジョイボーイ」なのかもしれません。
数百年もの間、巨大な象主(ズニーシャ)が、罪を背負って歩き続けている理由。それは、800年前に仲間であったジョイボーイを裏切ってしまったからでした。象主の巨大さを考えれば、その仲間であったジョイボーイもまた、巨人族かあるいはそれに匹敵するほど巨大な人物であった可能性があります。マリージョアに眠る巨大な麦わら帽子は、この初代“海賊王”ともいうべきジョイボーイの遺品なのではないでしょうか。
ではなぜ、敵であるはずのジョイボーイの遺品を、イム様が大切そうに保管しているのか。それは800年前、イム様がジョイボーイとの戦いに勝利し、その象徴であった麦わら帽子を「戦利品」として奪ったからだと考えられます。イム様にとってあの巨大な帽子は、800年間続く自らの支配の正当性を示す、勝利の記念碑だといえるでしょう。
だとすれば、ルフィが被る人間サイズの麦わら帽子は何なのでしょうか。それは、ジョイボーイの“意志”を継ぐ者たちが、いつか現れる後継者のために遺した「魂の器」なのかもしれません。海賊王ロジャーがこの帽子を被り、ラフテルにたどり着いたことで、帽子には「王の魂」が宿った。そして今その魂は、ルフィへと確かに受け継がれたといえるでしょう。
マリージョアの巨大な帽子は「討ち取られた王ジョイボーイの“亡骸”」。そして、ルフィが持つ帽子は「復活のときを待つジョイボーイの“魂”」。二つの麦わら帽子は、800年前に敵対した二人の王の象徴といえます。この二つの帽子が再び出会うとき、800年の時を超えた、王と王の戦いが、再び始まるのかもしれません。
◆麦わら帽子は“王冠”──ルフィが背負う宿命
ジョイボーイの“魂”が宿る、ルフィの麦わら帽子。それはもはや、たんなる帽子ではなく、王の意志を受け継いだ者だけが被ることを許される「王冠」そのものなのかもしれません。
ルフィが幼いころ、シャンクスと交わした「いつかきっと返しに来い 立派な海賊になってな」という約束。この約束の本当の意味は、たんなる個人的なものではなかったのではないでしょうか。
それは「ジョイボーイの後継者として、お前が“王”の資質を得たと認めたとき、その証として、この王冠を俺に返しに来い」という、世代を超えた“戴冠式”のような約束だったといえるでしょう。
そう考えると、ルフィが麦わら帽子を被って世界中を冒険することは、無意識のうちに「我こそは、ジョイボーイの後継者なり」と、世界の王イム様に対して、堂々と宣言し続けているのと同じことといえます。
だからこそ、イム様はルフィの手配書を無慈悲に切り裂き、その存在を「歴史から消すべき灯」として、何よりも危険視しているのではないでしょうか。自分の玉座を脅かす、もう一人の「王」の登場を、誰よりも恐れているからと考えられるでしょう。
物語の最終局面、ルフィはラフテルにたどり着き、ジョイボーイの意志を完全に受け継ぐ可能性が高いです。そして、イム様との最後の戦いの場で、800年のときを超えて、二つの麦わら帽子、つまり二つの“王冠”が、再び出会うことになると考えられます。
ルフィがシャンクスから麦わら帽子を受け継いだあの日。それは、彼が800年前に敗れた王の意志を継ぎ、玉座に居座る偽りの王に戦いを挑むという、あまりにも壮大な“宿命”を背負った瞬間だったのかもしれません。
──ルフィの麦わら帽子は、ジョイボーイから受け継がれた「魂の王冠」。一方、マリージョアの巨大な帽子は、イム様がジョイボーイから奪った「勝利の証」である可能性が高いです。
ルフィが帽子を被ることは、知らず知らずのうちに、偽りの王イム様への無意識の宣戦布告となっているといえるでしょう。
ルフィがシャンクスとの約束を果たし、真の王となるとき、イム様との800年の長きにわたる王の戦いに終止符が打たれるのかもしれません。
〈文/凪富駿〉
※本記事は漫画『ONE PIECE』に関するライター個人の考察・見解に基づくものであり、公式の設定や見解とは異なる場合があります。
《凪富駿》
アニメ・漫画に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。特にジャンプアニメに関する考察記事の執筆を得意とする。作品とファンをつなぐ架け橋となるような記事の作成がモットー。
※サムネイル画像:Amazonより 『ONE PIECE 第100巻(出版社:集英社)』





