『オーバーロード』といえば丸山くがね先生の小説であり、その小説を原作に2015年からTVアニメシリーズが制作され、現在までに第4期までが制作されています。
2017年には劇場版総集編なども制作され、自身もそのタイミングで『オーバーロード』の世界に触れるようになったのですが、主人公は強すぎてスリルがなければ、罪のない人間たちが滅ぼされていく様子は悪趣味にも受け取れ、当時はどう楽しめばいい作品か理解できていませんでした。
しかし、9月20日から全国ロードショーされる『劇場版「オーバーロード」聖王国編』をきっかけに改めてTVアニメシリーズを見返していたときに「あっ、こういう見方をすればいいのか!」と気づいてからはグイグイ惹きつけられるように面白く観えてくる作品になりました。
◆抑えておかなければいけない大前提!『オーバーロード』がゲームの世界!
『オーバーロード』といえば、人間だけでなくエルフやドワーフ、ドラゴンなど多くの種族が存在する世界で主人公が不本意に生活を強いられるいわゆる“異世界転生物”の作品です。しかし、ただの“異世界転生物”ではないことを実はしっかり念頭に置いておく必要がある作品です。
作中では主人公のアインズ以外がゲームという体裁を語らないのでつい忘れてしまいますが『オーバーロード』の舞台はVR形式のオンラインRPG・ユグドラシルの中です。この大前提を実は終始、頭の片隅に入れながら観ておく必要があります。
強さの限界と格差はゲームの中なのではっきり決まっており、アインズは最上位のレベル100。RPGでレベルを最大まで上げるというのはそれなりにやり込まないといけないことがほとんどで、そこまでやり込めば“ほぼ敵なし”の状態になります。
つまり『オーバーロード』という作品は、レベル100にまで上げて敵なしの状態のプレイヤーのゲームプレイを眺めているようなものなのです。
そのせいで漫然と観ていると、「強すぎて張り合いがない」と映ってしまいますが、『オーバーロード』はむしろそこにスリルを持たせているのではなく「カウントストップにまで強さを上げたプレイヤーだったら、世界を征服することはできるのか」という命題に挑んでいると受け取った方が良いでしょう。
このテーマを前提に観ていくと、情報や有用な手駒などの自身の強さ以外の観点で向上心を持っていくことやそんなアインズでも予想外のことだらけだという学びもあります。
◆悪趣味すぎる展開もしょうがない?彼らはそもそもゲームの世界の住人
ゲームの中であるという前提を念頭に置いておくことは、たびたび登場する“悪趣味”な展開の受け取り方にも影響します。
『オーバーロード』では決して良い行いをすれば生き残れるように描かれているわけでもなければ、むしろ打算的に動いた人物が良い目を見るというケースも度々描かれます。
トップの人間が愚かだったがために、圧倒的な力を前に無残にも罪もない多くの命が滅ぼされていくなんて展開も少なくありません。その残忍な様子はアインズたちの見た目通り、悪役然としていて一見悪趣味に映るでしょう。
ただ、忘れてはいけないのはそもそもアインズにとっては、作中で描かれる世界はそもそもゲームの中であり、登場するキャラクターたちもゲームの中のキャラクターです。いくら自我が生まれているからといって、作中のキャラクターを殲滅する様子は、『スーパーマリオ』シリーズでクリボーやノコノコを大量にやっつけている様子と同義とも受け取れます。
むしろ『オーバーロード』のアインズはそんなゲームの中のキャラクターであっても、時に慈悲を見せたり、無闇に殺めるようなことをしなかったりと良心的です。
何百という命がなくなっていく様子に辛く感じた人も、それがゲームのキャラクターだという前提を思い出せば、少しは気が楽になるのではないでしょうか。
そもそも『オーバーロード』はそこを逆手にとって、国と国同士の争いが“ゲーム的”に受け取れる瞬間があるようにも見せているのがまた面白いところ。現実世界の国家間のいざこざも、時に道徳観だけでない打算的な視点が活きてくる瞬間がある、という視点はなかなかに攻めています。
◆そもそも分からない用語もたくさんある?少しずつ分かっていけばOK!
このように『オーバーロード』はゲームの設定が前提にあることを念頭に置くことが重要です。ただ、それでもまだまだ壁はあります。作中に登場する専門用語などが分からない点です。アインズが唱える魔法や職業、人名や国名などの独自の単語がたくさん登場するシリーズなので世界観を理解していても、一度観ただけでは全てを理解するのは難しいでしょう。
むしろ『オーバーロード』はそういった“まだ分からないこと”がたくさんあるという前提で観た方が気が楽です。2回、3回と観ていくことで気づくこともあれば、後々の展開を知ることで「そういうことだったのか」と腑に落ちることもあるでしょう。
その代表例としてTVアニメ第4期シリーズでは「聖王国」という単語が複数回登場しますが本筋として描かれないので、その国をなぜ話題に上げているのかは分かりません。しかし実は第4期7話「霜の竜王」と第8話「計算外の一手」の間にもひと事件起こっており、それを描いたのが、今年ついに公開となった『劇場版オーバーロード聖王国編』です。
原作小説を追っていた人であればともかく、アニメシリーズしか追ってなければ今回の劇場版を観るまで、聖王国の話題の真意はそもそも分からず終いだったのです。
劇場版こそ極端な例ではあるかもしれませんが『オーバーロード』はこういった後から気づける見せ方も多く登場する作品です。「あれ?」と思った内容も意外と2度目に観てみるとスッと入ってきたりするので、引っ掛かりがあること前提で観ていく方が気が楽かもしれません。
ゲームの中であるという前提。ほとんどがゲームの中のキャラクター。分からなくても流していい単語もある──こういった点を踏まえた結果、すっかり『オーバーロード』が面白く、次が気になるし、なんども観たくなる作品へと化けていきました。もし『オーバーロード』にピンと来なかったという人も今一度、これらのポイントを踏まえて観ていくと、感想が変わっていくでしょう。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi
※サムネイル画像:YouTubeチャンネル『KADOKAWAanime』より
劇場版「オーバーロード」聖王国編オフィシャルサイト
©丸⼭くがね・KADOKAWA刊/劇場版「オーバーロード」聖王国編製作委員会