<(c) 2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL>
第96回米国アカデミー賞長編アニメーション映画賞ノミネートの快挙を成し遂げ、アニー賞、ヨーロッパ映画賞、ゴヤ賞ほか名だたる映画賞を席巻したアニメ映画『ロボット・ドリームズ』が11月8日に全国公開される。
この映画を製作したパブロ・ベルヘル監督は、ロックバンド・SOPHIA(ソフィア)の『黒いブーツ〜oh my friend〜』(1998年)のMVを手がけた監督としても知られている。
<パブロ・ベルヘル監督>
2012年には、『ブランカニエベス』でスペインのゴヤ賞で最多10部門を受賞。そのほか、数々の受賞歴のあるパブロ監督による初のアニメーション映画ということで、製作のきっかけや作品に込めた思いをインタビュー。気さくにユーモアをまじえながら答えてくれた。
サラ・バロンのグラフィックノベル(コミック)『Robot Dreams』を映画化。マンハッタンに暮らすドッグとロボットの友情を描く、かわいくてちょっと切ない、心温まるストーリー。
◆映像作家はドクターであり「魂を癒す存在」
──映画『ロボット・ドリームズ』拝見しました。どの国、どの世代の人たちが観ても分かる喜怒哀楽の感情や表情、仕草、リアクションが表現されていて、とても素敵な作品でした。
パブロ・ベルヘル監督(以下、パブロ監督):そう言っていただけて、とても嬉しいです。
──冒頭、主人公のドッグが孤独を感じているシーンがありますが、人はふとしたときに孤独を感じて少しだけ落ち込むことがあると思いますが、それが、見終わったあとにはラクになるというか、救われた気持ちがしました。
パブロ監督:もしよければ、なぜ救われた気持ちがしたか聞いてもいいですか?
──ドッグとロボットがさまざまな出会いと別れ、感情の浮き沈みを経て成長していくわけですが、そういう経験は誰にでもあるし、時々落ち込む感情もその経験の一つにすぎないなと思えました。
パブロ監督:なるほど。私は、映像作家はドクターであり「魂を癒す存在」だと思っています。なぜかというと、私の両親は二人とも映画が大好きで、父が先に亡くなってから、母は毎日、映画を観て過ごしていたから。ある意味、母は映画に救われていたと思います。
──その経験もあったからこそ、パブロ監督もドクター(=映像作家)になったということですね。
パブロ監督:白衣を着ないとね(笑)。あと、私が映画史上、最も好きなシーンは、ウディ・アレン監督の『カイロの紫のバラ』(1985年製作・アメリカ。映画ファンの人妻がスクリーンの中から飛び出してきたスターと恋に落ちる姿を描いたファンタジーラブストーリー)。
最後の方のミア・ファロー(人妻・セシリア役)のシーンは、「この映画に救われる」という瞬間です。観ていただくと、きっと気に入ると思います。
◆原作を読んですぐ、「Do you remember」の歌詞が降ってきました
──コミックが原作の『ロボット・ドリームズ』ですが、映画化のきっかけを教えてください。
パブロ監督:コミック自体は2007年にアメリカで出版されて、私が出会ったのは2010年。私はマドリード(スペイン)で暮らしているのですが、趣味の一つが「セリフのないコミックを集めること」。
それで、オーダーして読んでみたところ、笑いあり、驚きあり、シュールなところありで、読み進めるうちにとても心が動かされました。
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──その出会いから13年後に映画化したのはどうしてですか?
パブロ監督:『ブランカニエベス』(2012年製作)、『アブラカタブラ』(2017年製作)の発表後、オフィスの棚に飾っていた『ロボット・ドリームズ』を久しぶりに読んだら、エンディングで感動して涙が出てきて。
コミックスで泣いたことがなかったので驚きました。そのときに、「自分はこの本を監督として、映像として見ている」と気づきました。アニメを監督することは考えたこともなかったけど、「絶対に映像にしなければ!」と思いました。
──直感だったのですね。
パブロ監督:さらに運命的だったのは、そのタイミングでちょうどシカゴの映画祭から審査員の招聘があって。ニューヨークを経由して原作者のサラ・バロンさんにお会いして、映像化の打診をしました。それが2018年で、そこから動き出しました。
──原作も拝見しましたが、優しい色合いはそのまま、映像化によってダイナミックさもプラスされて、そこも見応えがありました。そして、作品の軸となるのが、挿入歌であるEarth,Wind&Fire(アース・ウインド・アンド・ファイアー)の「September」(セプテンバー)です。原作を見たときからこの楽曲が頭に浮かんでいましたか?
パブロ監督:その通りです。まず、セプテンバー自体が私史上ベストの曲。原作を読んですぐ、歌詞の「Do you remember」という言葉が光のように天から降ってきて、「この曲こそ、この作品のテーマだ!」と思いました。
──歌詞の意味を知ると、より心に刺さるものがありました。
パブロ監督:「September」は「9月21日の夜を覚えている?」という歌詞から始まるのですが、なんと、私の娘の誕生日が9月21日(現在21歳)で。これは天啓ではないかと脳が爆発しそうになりました。人と人との関係性には音楽が介在していることが多いからこそ、この作品に音楽は重要だったし、そこに「September」がピタリとハマりました。
──すごい! それもまた運命的ですね。ちなみに、原作者のサラさんは何かの楽曲をイメージして本を描いていたのでしょうか?
パブロ監督:いや、なかったようだよ(笑)。あと、原作で音が流れている描写はクライマックスだけ。だからこそ、映像化する時は実際に音楽を入れてあげたいと思ったし、そこに紐付いて、原作にはなかったローラースケートのシーンも加えました。今では友人であるサラさんも、映画を観て「精神とテーマは原作と変わらない」と言ってくれています。
◆良質な物語は「ラザーニャ」のようなもの
──作品のクライマックスについてですが、あの展開には胸が熱くなりました。ドッグとロボットの1年間を描いた物語ですが、私たち人間の人生も凝縮されているようで。先ほどもお話したように、前向きな気持ちにさせられました。
パブロ監督:私自身、人並みに恋愛も失恋も経験してきて、亡くなった知人もいる。その中で記憶というものが私たち人間を前進させてくれるし、生き延びさせてくれることも知っています。そういう意味で、この作品は間違いなく記憶についての映画ともいえます。
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──「記憶」は重要な要素ですね。また、ドッグとロボットの関係を友情と捉えることもできれば、恋愛と捉えることもできるのかなと思いました。
パブロ監督:もちろん、そういう解釈もあっていいと思います。映画というのは「ラザーニャ」のようなものだからね(笑)。
──映画がラザーニャ?
パブロ監督:なぜなら、良質な物語というのは、「ラザーニャ」のようにさまざまなレイヤーが重ねられて完成するから。子供が観たら友情、大人が観たら恋愛の物語と思うかもしれないし、亡くなった人と自分の関係性を見つめ直す作品と捉える人もいるかもしれない。
さらに、そもそも愛とは何か、たとえば、性的なことがあっての愛という人もいれば、なくても愛という人もいる。どう捉えてもらうかはその人次第。最終的には自分のものとして映画を完成してもらえたら。ラザーニャの最後の層は、みなさんで加えてくださいね。
──観た人それぞれの味のラザーニャができあがるわけですね。
パブロ監督:子供のころ、家族で『E.T.』を観に行ったときに老若男女の人たちが楽しんでいた光景が印象に残っていて。スピルバーグ氏をはじめ、宮崎駿氏や高畑勲氏のように、私もたくさんの人たちが楽しめる作品を目指している。みなさん巨匠なので自分をそこに入れてしまうのは恥ずかしくもあるけれど、志は高くもたないとね(笑)。
──個人的にですが、セリフなしであれだけ感情の機微まで伝わってくることに驚きましたし、たくさんの人に愛される作品だと思っています。
パブロ監督:ありがとうございます。
<(c) 2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL>
──最後に、パブロ監督が1998年に手がけたSOPHIAの『黒いブーツ〜oh my friend』のMVも友情の曲ということもあり、『ロボット・ドリームズ』を観たあとに改めて観るととても感慨深くなりました。
パブロ監督:あの曲も「Do you remember」(覚えていますか?)というのがテーマの一つですよね? だから、私もあのときの撮影のことは「覚えています」。
ビデオもヒットして、楽しくて貴重な経験でした。あのとき、「松岡(=ボーカルの松岡充さん)はカリスマ性があるから映画を作るべきだし、出るべきだ」と伝えていて、数年後、「あのとき、違った視野をもたらしてくれてありがとう」と言ってくれました。
──そんな裏話があったとは。松岡さんが演技もやられる背景には、パブロ監督の言葉の影響もあったかもしれませんね。松岡さんに、最後にお会いしたのはいつごろですか?
パブロ監督:『Torremolinos 73』(2003年製作)が東京で上映されたときに来てくれて、その流れで一緒に食事をしたときかな。
──『ロボット・ドリームズ』のタイミングでおふたりが並ぶ姿も見てみたいですし、松岡さんの感想も聞いてみたいです。
パブロ監督:友情についての作品だからこそ、私も友人である彼に会いたいね。
〈取材・文/赤木一之 @akagiissi 撮影/天倉 悠喜 @yk_photograph 編集/水野ウバ高輝〉
〈取材・文/赤木一之 撮影/天倉 悠喜 編集/水野ウバ高輝〉
◆パブロ・ベルヘル監督 プロフィール
パブロ・ベルヘル
1963年12月2日、スペインのバスク地方ビルバオ生まれ。短編映画『Mama』(88/未)で監督デビュー。その後、ニューヨーク大学にて映画学の芸術修士号を取得。同大学在学中に撮った『Truth and Beauty』でカレッジ・エミー賞にノミネート。長編デビュー作『Torremolinos 73』(03/未)は、2003年マラーガ映画祭で初上映され、最優秀作品賞、監督賞、主演男優賞、女優賞を受賞したほか、同年スペイン国内の興行収入ランキングで1位となる大ヒットを記録。
2012年、監督・脚本・製作を務めた『ブランカニエベス』では第85回アカデミー賞外国語映画賞にスペイン代表作として出品。第27回ゴヤ賞では作品賞、脚本賞、主演女優賞含む最多10部門を受賞、サン・セバスティアン国際映画祭では審査員特別賞と主演女優賞受賞、その他の映画祭でも多数受賞。長編第3作目となる『アブラカタブラ』(17/未)はゴヤ賞8部門にノミネートを果たした。
◆映画情報
『ロボット・ドリームズ』
▼ストーリー
大都会ニューヨーク。ひとりぼっちのドッグは、孤独感に押しつぶされそうになっていた。
そんな物憂げな夜、ドッグはふと目にしたテレビCMに心を動かされる。
数日後、ドッグの元に届けられた大きな箱――それは友達ロボットだった。
セントラルパーク、エンパイアステートビル、クイーンズボロ橋……
ニューヨークの名所を巡りながら、深い友情を育んでいくドッグとロボット。
ふたりの世界はリズミカルに色づき、輝きを増していく。
しかし、夏の終わり、海水浴を楽しんだ帰りにロボットが錆びて動けなくなり、ビーチも翌夏まで閉鎖されてしまう。
離れ離れになったドッグとロボットは、再会を心待ちにしながら、それぞれの時を過ごす。
やがてまた巡りくる夏。ふたりを待ち受ける結末とは――。
▼受賞
- 第96回アカデミー賞 長編アニメーション映画賞 ノミネート
- 第51回アニー賞 長編インディペンデント映画賞 受賞
- 第76回カンヌ国際映画祭 正式出品
- ヨーロッパ映画賞 長編アニメーション映画賞受賞
- アヌシー国際アニメーション映画祭 コントルシャン部門 作品賞受賞
- シッチェス・カタロニア国際映画祭 観客賞受賞
- フェロス賞 コメディ映画賞|作曲賞|最優秀ポスター賞 受賞
- ゴヤ賞(スペイン・アカデミー賞) 脚色賞|長編アニメーション映画賞 受賞
▼コメント・映画評
美しく、想像を遥かに超え、そして温かい ――ギレルモ・デル・トロ
今年一番の感動作 ★★★★★ ――EMPIRE MAGAZINE
オープニングからエンディングまで全てが愛おしい ――FILMBOOK
近年最高のアニメーション ★★★★★ ――THE GUARDIAN
ティッシュペーパー9箱分泣いた ――ROLLING STONE
▼スタッフ
- 監督・脚本:パブロ・ベルヘル
- 原作:サラ・バロン
- アニメーション監督:ブノワ・フルーモン
- 編集:フェルナンド・フランコ
- アートディレクター:ホセ・ルイス・アグレダ
- キャラクターデザイン:ダニエル・フェルナンデス
- 音楽:アルフォンソ・デ・ヴィラジョンガ
- 字幕翻訳:長岡理世
- 配給:クロックワークス
2023年|スペイン・フランス|102分|カラー|アメリカンビスタ|5.1ch
▼公式Webサイト
https://klockworx-v.com/robotdreams/
▼公式X(旧Twitter)
© 2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL
《赤木一之》
新宿タウン誌、ゴールデン街ガイドブックの編集長を経て、2022年にフリーの編集・ライターに。編集長時代からアイドルの取材、ブッキングを行なっていたこともあり、アイドルやエンタメ関連の仕事を中心に、最近ではビジネス&カルチャーニュースサイト「三軒茶屋経済新聞」や飲食店のPR案件にも携わっている。