数々のアクションや演出といった見応えで話題となっているアニメ作品たちの中でも、今季放送を開始したTVアニメの中でも、一際異彩を放っているのが『瑠璃の宝石』です。目を見張るような戦いが描かれているわけでもなければ、先の読めない劇的なドラマが展開されるわけでもないのですが、画(え)で魅せる“アニメーション”としての洗練さに驚かされる作品となっていました。
◆『瑠璃の宝石』が描く“美しさ”とは?
異様なぐらいに美しい。そう感じさせるようなアニメーションが展開されていく作品がTVアニメ『瑠璃の宝石』の印象でした。
『瑠璃の宝石』は年10回という変則的な刊行ペースの漫画雑誌『ハルタ』で、渋谷圭一郎先生が描いている同名漫画作品を原作としたTVアニメーション化企画です。
水晶に魅せられた女子高生の谷川瑠璃が、鉱物学を専攻している大学生の荒砥凪と出会ったことをきっかけに、鉱物採集の世界にのめり込んでいくというストーリーで、一見してそのストーリーは真面目で地味にも思えるのですが、そんな印象を凌駕するほど第1話目から映像に驚かされました。
昨今“作画アニメ”といった表現でアニメーションの精細さやリッチな表現が賞賛されることがありますが、まさに今作はそんな作品。
登場する人物たちの一挙一動のリアリティの高さであったり、山道や河原といった豊かな大自然の美術。さらにはこの映画の一番のキーとなる鉱物たちの輝きに至るまで。「鉱物採集」というそれだけ聞くと地味で見応えになるのか想像できない様子を、このうえないぐらいの精度の説得力で再現してくれています。その結果、アニメーションのワンシーン、ワンシーンなんでもない出来事自体に感動させられるような体験になっていました。
原作漫画が何万部と発行されている大ヒット作品であったり、既に多くのメディアミックスが成されている作品が充実している夏季アニメですが、『瑠璃の宝石』こそ今からでも追いかけて観てほしい一本といえます。
◆その美麗さも納得! アニメーションの製作はスタジオバインド
いったいどこが作ったアニメーションなのかと思いきや、名前を知って納得。『瑠璃の宝石』の製作を務めるのは、『無職転生〜異世界行ったら本気出す〜』(以下、『無職転生』)シリーズの製作を務めたスタジオバインドが担当しています。
このスタジオバインドという会社は2018年に設立された比較的新しいアニメーション製作会社です。『無職転生』以外では『お兄ちゃんはおしまい!』や『花は咲く、修羅の如く』などの製作を経てきています。
スタジオバインドは特殊なアニメーション製作会社で、元々は原作の人気が高かった『無職転生』を長期的かつ継続的に進めていく必要があると判断され、“そのため”に設立された製作会社です。実際、既に同作品は第2期までが製作されていて、2026年には第3期の放送が予定されているほどの人気シリーズ作品となっています。
『無職転生』は原作の人気だけでなく、そのアニメーションの完成度も高い評価を得ていました。華美で派手な撮影で描かれる魔法の表現であったり、肉質感のある登場人物のアニメーションだったりと、さすがそのために設立されたといっても過言ではないクオリティーとなっています。
一方でその技術がほかの作品で発揮されたらどうなるんだろうとは思っていたのですが、ここにきて『瑠璃の宝石』がまさにそんな一例となる決定的な作品として登場したといえます。
『瑠璃の宝石』は『無職転生』のようなファンタジーの世界観ではなく、“学習漫画”のようにも捉えられるような現実的な内容の作品です。いわば作品性としては真逆の内容なのですが、見事なぐらいに美術や人のアニメーション、そして華美な演出が作品に適合しています。
自然の中で鉱物の魅力に見せられていく様子が、スタジオバインドの技術と相まって、主人公の瑠璃がその世界にのめり込んでいく感動がしっかり説得力を持って、観ているこちら側にリアルに伝わるようになっています。
これまでのスタジオバインドの代表作は間違いなく『無職転生』ではあるのでしょうが、この夏を以って、そこに『瑠璃の宝石』が並んでくる──。そんな転機になってほしいと感じるほど、一目を置くアニメーションの登場でした。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteでは『アニメ映画ラブレターマガジン』を配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi
※サムネイル画像:『「瑠璃の宝石」第1話 場面写真 (C)2025 渋谷圭一郎/KADOKAWA/「瑠璃の宝石」製作委員会』
(C)2025 渋谷圭一郎/KADOKAWA/「瑠璃の宝石」製作委員会