堀川くんの言動は、穏やかな『サザエさん』の世界に時々小さなざわつきを生みます。ワカメへの手紙、ひよこの名前、波平の写真、そして磯野家での一件。悪気が見えにくいからこそ、視聴者の印象に残りやすいのかもしれません。
◆マラソン大会を休んだワカメに届いた一通の手紙
2014年1月19日に放送された「風邪にご用心」では、ワカメがマラソン大会を前に気乗りしない様子を見せていました。ところが当日、ワカメは風邪をひいてしまい、大会を欠席することになります。
そのワカメを見舞うため、堀川くんは給食で出たプリンと手紙を持って磯野家を訪ねます。ここだけ見れば、友だちを気づかう小学生らしい行動にも思えます。
しかし、手紙に書かれていたのは「風邪ひいてよかったね」という言葉でした。マラソン大会を嫌がっていたワカメの気持ちをふまえたものだったのかもしれませんが、体調を崩した相手に向ける言葉としては、かなり独特です。
優しさのつもりなのか、たんなる事実の確認なのか。その境目が分かりにくいところに、堀川くんらしい不思議さがあります。
◆ひよこの名前は「わかめ」 本人が嫌がっても変えない理由
2014年7月20日に放送された「ホリカワくんの卵」では、堀川くんが自宅で飼っているひよこに「わかめ」と名付けていたことが明かされます。
ワカメは当然、名前を変えてほしいと頼みます。ところが堀川くんは「平仮名とカタカナで違う」と説明し、改名する気配を見せません。本人にとっては理屈が通っているのでしょうが、言われた側からすれば複雑な気持ちになるのも無理はありません。
さらに堀川くんは、ひよこの「わかめ」が卵を産んだら、人間のワカメに最初に食べてもらうつもりだと語ります。そこに悪意はないようにも見えますが、相手の戸惑いをあまり気にしていない点が、なんとも言えない違和感を残します。
自分の発想をまっすぐ口にする堀川くん。その素直さが、時に周囲との温度差を大きくしてしまうのです。
◆将来の夢から一転 波平の写真を欲しがった理由
2015年3月1日に放送された「夢見るホリカワくん」では、堀川くんが将来の夢について作文を発表します。そこで語られた夢は牧師でした。理由は、きれいな花嫁を毎日見られるからというものでした。
その後も堀川くんの将来像はなかなか定まりません。花沢不動産に対して、仕事が楽そうだという失礼にも聞こえる発言をしてしまう場面もありました。
そんな堀川くんを、波平は大人として穏やかに諭します。その言葉がよほど心に響いたのか、堀川くんはワカメに対して、波平の写真がほしいと頼み続けます。
やがてワカメが根負けし、波平が写っている写真を渡すと、堀川くんはそれを机に飾って笑顔で眺めていました。尊敬の気持ちなのか、憧れなのか、あるいは本人にしか分からない感情なのか。クラスメイトの父親の写真を大切そうに見つめる姿は、やはり強い印象を残します。
◆磯野家で見つかったオタマジャクシ 堀川くんの理屈がすごい
2015年5月10日に放送された「いちばん怖い人」では、カツオが「この世で一番怖いもの」としてサザエの名前を挙げます。その話を聞いた堀川くんは、サザエがどんな人物なのか気になってしまいます。
そして堀川くんは、磯野家の庭からサザエの様子を見ようとします。タラちゃんに注意されても、「今度は見つからないようにするよ」と返すあたり、反省の方向が少しずれているようにも見えます。
さらに、磯野家の軒下からは、オタマジャクシの入った缶が見つかります。家族の誰も心当たりがない中で現れたのが堀川くんでした。理由を聞かれると、家では飼えないから置いたと説明します。
本人としては困った末の行動だったのかもしれません。しかし、相手の家に置けば解決するという考え方は、かなり一方的です。堀川くんの好奇心と行動力は、ときに磯野家の日常を思わぬ形で揺らします。
──もともと堀川くんは、ワカメの同級生として登場する男の子です。以前はワカメへの淡い好意を感じさせる設定もありましたが、現在は好奇心旺盛なクラスメイトとしての印象が強くなっています。
ただ、その好奇心は時に周囲の想像を超えます。手紙、ひよこ、写真、オタマジャクシ。一つひとつの行動は小さな出来事でも、並べてみると堀川くんというキャラクターの不思議な存在感が浮かび上がります。
穏やかな日常を描く『サザエさん』の中で、堀川くんは少しだけ空気を変える存在です。だからこそ、短い登場でも視聴者の記憶に残り続けているのかもしれません。
〈文/士隠カンナ〉
《士隠カンナ》
1990年〜2000年代に放送されたアニメに中学・高校の頃にどっぷりとハマり、その後フリー編集・ライターに。主にアニメ・漫画のムック本のブックライターとして活動中。最近のマイブームはもっぱら『ちいかわ』。
※サムネイル画像:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000058.000069859.htmlより(C)長谷川町子美術館

