現在40代の筆者が幼稚園から小学生の頃『聖闘士星矢』がTVアニメで大流行し、当時の少年は「黄道十二星座を持つ黄金聖闘士」にこぞって自分の星座を重ねていましたが、4月生まれで牡羊座の筆者は「星座ヒエラルキー」において、牡羊座(アリエス)ムウによってTVアニメ放送期間中ずっと肩身の狭い思いをさせられました──。
◆「星座ヒエラルキー」でムウは中性的で微妙な立ち位置……当たりでも外れでも……
TVアニメが放送されていた1986~89年にかけて、当時の少年たちは星座の宿命のもとに生まれる聖闘士に憧れ、自分もそうであるかのように考えては、知らないうちに星座というものを『聖闘士星矢』を通して覚えたものです。
自分の星座を黄金聖闘士に投影して友達とのパワーバランスや優劣を考えるようになり、気づかぬうちに「星座ヒエラルキー」ともいえる構図ができあがっていました。
その内容は単純なもので、物語の中で正義の心を持ち確かな実力がある獅子座(レオ)アイオリアなどは位が高く、ニセの教皇が悪だと知りつつ加担していた蟹座(キャンサー)デスマスク、魚座(ピスケス)アフロディーテなどは位が低いとされていました。
また、その頂点にいたのが幼い女神を救って亡くなった射手座(サジタリアス)アイオロスで、既に伝説となっている人物として別格扱いでした。
「正義・強い・男らしい=カッコイイ」と考えられていたわけですが、牡羊座(アリエス)ムウはというと、テレキネシスを使えたり貴鬼という弟子がいたり、さらに聖闘士で唯一聖衣の修復ができるなど唯一無二の存在でしたが、見た目が女性らしさもある中性的なもので、聖衣のデザインもイマイチ“男らしさ”に欠けるものだったことから「ムウか……こいつの立ち位置はどこなんだ?」と周囲が困惑する微妙な立ち位置だったことを鮮明に覚えています。
ムウの声優、塩沢兼人さんの細く美しい声もそれに拍車をかけ、まるで貴族のような雰囲気から、星座ヒエラルキーのどこが適切なのか? 当時の少年たちの判断を難しくさせました。
◆TVアニメで戦闘シーンなく実力不明──「お前って強いの?」
ムウの評価をもっとも難しくさせたのが、何といってもTVアニメで描かれた「海皇ポセイドン編」までで、ムウの戦闘シーンが一度もなかったことでしょう。
そもそも聖闘士とは、女神(アテナ)を守護するために悪と戦う存在で、聖域(サンクチュアリ)十二宮編では青銅聖闘士たちは反逆者と見なされ、正義の心を持った蠍座ミロや乙女座シャカも星矢たちに拳を向けました。
しかし、白羊宮を守護するムウは彼らを正義と信じて傷付いていた聖衣を修復し、黙って通過させたため戦闘はなく、ポセイドン編では黄金聖闘士自体の戦闘もありませんでした。
そのため、TVアニメでは実力が分からないままになってしまい、十二星座を格付けする星座ヒエラルキーにおいて「結局、お前って強いの?」と、周囲の友達からは白い目で見られることになりました。
処女宮での戦いで、鳳凰(フェニックス)一輝がシャカもろとも時空の彼方へ消え去った際は、戻ってくるためにムウに協力を依頼するなど、要所で実力を推しはかるシーンはあるものの、「派手な技こそカッコイイ」とする少年の感覚では、隠れた実力者という証明されていないものについては、なかなか認めてもらえず……。
蟹座・デスマスクや、魚座・アフロディーテのように、分かりやすい悪人のランクは底辺でしたが、戦いの途中で正義に目覚めた山羊座・シュラやシャカはおろか、紫龍の師である天秤座の老師とも順位を争うような厳しい状況でした。
◆ハーデス編で株価急上昇!──「めっちゃ強えーな」射手座の友達からも一目置かれる存在へ!
そんな牡羊座の少年に転機が訪れたのは、TVアニメでは描かれなかった「冥王ハーデス編」でした。
聖闘士の中で博識でリーダー格のムウは、ついに聖戦が始まったことをいち早く察知。ハーデスに魂を売り、スペクターとして蘇ったデスマスク、アフロディーテとついに初の戦闘が繰り広げられ、同じく蘇った先代の教皇・シオンは「天翔ける黄金の羊のごとく常に優雅な微笑を絶やさなかったムウが初めてその牙をむいた!!」と言ったほどです。
デスマスクの積尸気冥界波、アフロディーテのピラニアンローズをまったく通さない、鉄壁の守りの技「クリスタルウォール」、相手の肉体を跡形もなく消し去る「スターライトエクスティンクション」、師・シオンから受け継いだ「スターダストレボリューション」など、少年たちが待ち望んでいた強力かつ多彩な技を次々に放ち、秘めた実力をこれでもかと発揮。
かつての実力そのままに復活したデスマスクとアフロディーテ、2人の黄金聖闘士相手にムウは余裕すら感じさせる見事な勝利をおさめ、その実力を示したのです。
その後も、実力不明のスペクターである地暗星・ディープのニオベ、地妖星・パピヨンのミューと立て続けに戦闘になりますが、新たな技「クリスタルネット」なども発動し、対応力も高さも判明していきます。
牡羊座の少年たちをはじめ、読者はその実力を認め、星座ヒエラルキーでも獅子座(レオ)アイオリア、水瓶座(アクエリアス)カミュなどに並ぶ上位に位置づけされ、当時ヒエラルキーの頂点に君臨していた射手座の友達からも「ムウ、めっちゃ強えーな!」と、見直されたものでした。
──星座の運命のもとに生まれ、拳ひとつで戦う聖闘士に自分を重ねて『聖闘士星矢』に夢中になった80年代生まれの少年たち。いまや中年となった彼らは、そんな過去の経験から「星座」というものに今でもロマンを感じ続けているのかもしれません。
〈文/lite4s〉
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