『クレヨンしんちゃん』のコミックス第46巻では、シロの今まで明かされなかった過去が描かれています。しかし、アニメ化はされていません。感動的なエピソードにもかかわらず、なぜアニメ化されないのでしょうか?

◆シロの過去──4匹兄弟の1匹として生まれる

 コミックス第46巻には、白と茶色の毛を持つ「ボルシチ」というシロの母親が登場します。

 ボルシチは4匹の兄弟たちを産みましたが、シロ以外の3匹は母親と同じ茶色の毛色が混じっていました。

 シロたちの父親は不明ですが、白い毛を持つ野良犬だったと考えられています。

 当初、飼い主一家は新たな命の誕生を心から喜んでいましたが、幸せは長続きせず……。

◆シロと母親は保健所行きに──そのとき、飼い主の子供がとった行動は?

 ある日、飼い主一家の父親が、犬に触れると呼吸困難や不整脈になる「突発性犬アレルギー」という架空の病気を発症したため、泣く泣く犬を手放すこととなってしまいました。

 3匹の兄弟たちはそれぞれ里親が見つかりましたが、ボルシチとシロだけ最後まで引き取り先が決まらず、一家は断腸の思いで保健所に託すことを決意。

 しかし、飼い主一家の長女・るんがこれに反発し、せめてシロだけでも助けたいと、こっそり段ボールにシロを入れ、「オスです」「かわいがってください」と張り紙をして路上に置くことにしました。

 るんが物陰で息をひそめシロを見守っていたところ、三輪車に乗ったしんのすけが通りかかりシロを拾いました。

◆なぜアニメ化しないのか?──感動シーンにひそむ「法律違反」

 原作では、るんがシロを手放した経緯はあたかも感動シーンのように描かれていましたが、るんの行動はれっきとした犯罪行為にあたります。

 もちろん『クレヨンしんちゃん』はフィクションであり、表現の自由は認められるべきです。

 しかし、ファミリー向けアニメである『クレヨンしんちゃん』で、動物の遺棄を肯定的に描いてしまうと、幼い子供たちが「ペットを飼えなくなったら、外に置いておけばしんちゃんのような人が拾ってくれる」などと誤認し、子供に悪影響を与える可能性があります。

 近年、動物愛護の意識が高まり、法律も改正されています。たとえば、コミックス第46巻が出版された2007年は、動物の命を奪ったり深く傷つけたりした場合、2年以下の懲役、または200万円以下の罰金が科せられましたが、改正動物愛護管理法が施行された2020年6月以降は、5年以下の懲役、または500万円以下の罰金と、罰則が倍以上となりました(環境省Webサイト参考)。

 さらに現代は、SNSの普及により、動物を虐待ことに対する批判の声が大きくなっています。

 そのため、今後も「シロの過去」がアニメ化される可能性は低いと考えられます。

◆ペットを不当に手放したらどうなるのか?──シロのように幸運な犬は少ない

 実際に、るんのようにペットを不当に手放した場合はどうなるのでしょうか。

「動物の愛護及び管理に関する法律」によると、改正前は「100万円以下の罰金」でしたが、改正後は「1年以下の懲役」または「100万円以下の罰金」が科せられる可能性があります(環境省Webサイト参考)。

 るんはまだ小学生くらいの年齢なので罰せられませんが、突然の病気の発症だったこと、シロたちの里親探しにも限界があったことを考慮しても、シロを遺棄するという選択は決して適切ではありません。

 シロが優しい野原一家に拾われたのはあくまでも幸運だっただけにすぎず、すべての動物がそうとは限りません。

 さらに、動物への虐待を発見した場合の獣医師の通報義務も強化されました。不当な扱いを受けた動物を獣医師が発見した場合、改正前は「関係機関に通報するよう努めなければならない」という内容でしたが、改正後は「遅滞なく、通報しなければならない」と決定しました(動物保護法41条の2)。

 コミックス第46巻は、「ペットを飼う責任の重さ」を教えてくれたのではないでしょうか。

 

 ──賢くて愛嬌たっぷりなシロは、生まれてすぐに保健所に送られる可能性がありました。一度家族としてペットを迎え入れると決めた以上、最期まで看取る覚悟を持つことが大切といえます。

〈文/花束ひよこ〉

 

※サムネイル画像:Amazonより

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