<この記事にはTVアニメ、原作漫画『進撃の巨人』のネタバレが含まれます。ご注意ください。>

『進撃の巨人』でエレンの取った自己犠牲は、さながら浜田広介氏による児童文学の名作『泣いた赤鬼』の青鬼に重ねて見ることもできます。

 しかし残された側のアルミンと赤鬼を比較すると、明らかな違いが浮き上がってきました。

◆エレンが地鳴らしをした目的

 エレンに一貫しているのは自由への執着で、パラディ島の外に住む人類を根絶やしにしかねない手段である地鳴らしを発動します。

 しかしエレンは地鳴らしを阻止される結末を分かっていました。アルミンたちに自分を倒してもらい、ユミルの民が継承し続けた巨人の力を完全に消すことと、阻止したアルミンたちを英雄に仕立て上げること。主に2つの目的があったことがアルミンとの会話の中で分かります。

「そこまでする必要があったのか?」と言う旨のアルミンの質問に対して、エレンは「なんでかは分からないけど、どうしてもやりたかったんだ」と答えていることから、本人の中でも捉えきれていない部分があるのでしょう。

 巨人の力を消し、仲間たちを守ることでエレンは自由な世界を実現しようとしました。

 このうち、仲間を守るために暴れた自分を倒してもらい、自分が去ったあとの世界で仲間たちを英雄として受け入れてもらうという部分は、『泣いた赤鬼』の青鬼が考えたような自己犠牲の話とも読めます。

◆『泣いた赤鬼』の青鬼は自己犠牲をした良いやつではない

 青鬼は赤鬼と二人で仲良く暮らすことに満足していました。村人とも仲良くしたがっていたのは赤鬼です。そんな赤鬼に対して、「自分が悪者のふりをして村人を襲うので倒してくれ」と提案した結果、作戦通り赤鬼は村人に受け入れてもらうことに成功します。

 赤鬼と青鬼が2人一緒に村人に受け入れられる作戦を立てれば良いものを、赤鬼だけが村人に受け入れられて、青鬼自身は手紙を残して赤鬼の前から姿を消しました。

 このことから、青鬼は村人と仲良くなるつもりがなかったことと、村人と仲良くするような赤鬼が置手紙を読むことで傷つき、わんわんわんわん泣いたって構わないと考えていることが分かります。

 友達を泣かせるような自己犠牲をするような青鬼はそもそも良いやつではないし、それだけ深く思ってくれる友達がいるにも関わらず他の友達を作ろうとしている赤鬼も良いやつとは言えないのかもしれません。

◆地鳴らしでは世界人口の8割が被害に遭っている

 エレンと青鬼の行動の大きな違いは被害者の質と量です。青鬼は村人を襲うふりをしただけなので一応実害は出ていません。

 しかしエレンは、地鳴らしによって世界人口の8割を犠牲にしました。

 パラディ島の人たちは長きに渡り、マーレから送り込まれた巨人の被害に怯えていましたし、エルディア人と言うだけで悪魔のレッテルを貼られてきました。

 そしてマーレ以外の国の壁外人類も、パラディ島のエルディア人が被害に遭っていることを知っていながら止めようともせず、見て見ぬふりを続けてきました。

 しかし、被害に遭った人間というのはただの数字ではありません。書き割りのように一瞬で息絶えたモブキャラの命も、主人公の仲間の命もどちらも人命です。

 エレンはそれらを天秤にかけて、仲間の命を守るほうを選びました。

 行ったこともない土地の知らない人がどんな目に遭おうと知ったこっちゃないと思うのは人情ですし、実際すべての人を納得させられる解決策は見つかりませんでした。

◆そしてアルミンは英雄になった

 アルミンと赤鬼を比較すると『進撃の巨人』と『泣いた赤鬼』の違いが明らかになります。

 アルミンは「エレン・イェーガーを殺したものです!」と自ら名乗り出て、エレンの望み通り、英雄として胸を張っていました。

 すべての巨人の力はなくなり、パラディ島を守る抑止力もなくなりました。アルミンたちは地鳴らしを阻止した英雄として安全を保障されます。

 対して赤鬼は、三行半のような手紙を置いていなくなった青鬼に対し、未練がましく泣きくれるだけでした。

 赤鬼も青鬼も、そしてエレンも友達の気持ちに答えなかった中で、唯一アルミンだけが、エレンの意を汲んでいます。直接手を下したミカサの名前を出さなかったことも、ミカサをそっとしてやりたい意図があったからで、その点においてもアルミンはエレンの気持ちを分かっていたといえます。

 だからこそアルミンはアニが認める程の「良い人」なのでしょう。

 

 ──最終話のエピローグでアルミンたちが平和条約を締結させるために動いていましたが、イェーガー派の残党は軍備増強を進めているようでした。

 鬼だ悪魔だといわれている相手と、ガビのように心を通わせる経験ができる人は限られていましたが、壁も巨人もない自由な世界ならば難しくないかもしれません。

 壁外人類と良好な関係を築くことができるのかという問題は、青鬼に置いて行かれた赤鬼が、その後も村人と仲良くやっていけたのかと言う疑問に重なります。

〈文/雨琴〉

 

※サムネイル画像:Amazonより

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