アメリカの国民的アニメ『ザ・シンプソンズ』の劇場版第2弾が2027年の夏、日本で公開されることが発表されました。本国でも2027年7月23日の公開が発表されているので、日本もそれほど時間差がなく作品を体験できそうです。
そんな『ザ・シンプソンズ』の劇場版といえば第1弾は“声優の変更問題”で話題にもなってしまった作品でした。果たして今回の吹替版はどういったものになるのでしょうか。
◆『ザ・シンプソンズ MOVIE』で起きてしまった声優変更問題とは?
『ザ・シンプソンズ』の劇場版は2007年に第1弾『ザ・シンプソンズ MOVIE』が日米ともに公開されました。今回も当時と同じく同年の公開となる予定ですが、実は前回の興行では“声優の変更問題”でも話題になってしまった作品でした。
1990年代〜2000年代初頭にかけて『ザ・シンプソンズ』のTVアニメが日本でもWOWOWを始め、一部地方局にて日本語版が放送されていました。限定的な放送ではあったものの、地上波においても一時期はサントリーのC.C.レモンのTVCMのキャラクターに起用されていたりと、アニメシリーズに親しみがないという人も存在は知っているほどの高い知名度を持っていました。
そういった背景もあってか、2007年の『ザ・シンプソンズ MOVIE』は日本公開に至ったわけですが、この劇場版ではTVシリーズで吹き替えを担当した声優から、独自のキャストへと変更をしてしまいました。
ホーマー役を大平透さんから所ジョージさん、マージ役を一城みゆ希さんから和田アキ子さん、バート役を堀絢子さんから当時ロンドンブーツ1号2号だった田村淳さん、リサ役を神代知衣さんからベッキーさんへと変更。メインキャストが総じてテレビで活躍していたタレントの起用となったほか、その他のキャラクターについてもTVシリーズで担当していた声優から別の声優へと多くの方が変更となってしまいました。
これに対して、それまでTVアニメシリーズの吹替版に親しんでいた人の中では反発の声を上げる人も出てくるようになり、インターネット上では元のキャストの復活を求めるWebサイトが開設されたり、署名運動が行われるなどの事態に発展。結果的にはDVDやBlu-rayでのソフト化のタイミングで、TVアニメシリーズのキャストでの吹き替えバージョンの制作が決定。ソフトには日本語吹替版が劇場公開時のキャストのバージョンと、かつてのTVアニメシリーズのキャストのバージョンの2種類が収録されました。
昨今でも『ソニック・ザ・ムービー』などの公開時にソニックの担当声優が変更になるなど、劇場版に合わせてキャストが変更、TVタレントが起用されるといった例はたびたび起こるのですが、『ザ・シンプソンズ』の例はそういった問題の中でも特に話題となり、そういった声が届いて別のバージョンの制作が決まった貴重な例に……。
そんなキャスティングの問題が起きてしまった『ザ・シンプソンズ』ですが、その劇場版第1弾から約20年という時を経て環境もかなり変わってきました。新たな劇場版のキャスティングはどうなるのでしょうか。
◆新作劇場版の日本語吹替版で起こりうる可能性を予想
結論からいって、今回の初報では新たな劇場版の吹替版のキャスティングについては発表がないのでどうなるかは分からないものの、ある程度予想できます。
まず、そもそも現在のTVアニメ『ザ・シンプソンズ』シリーズはDisney+の配信作品として日本向けのローカライズが行われていて、シーズン15よりそれぞれのキャラクターの担当声優が変更に。現在はホーマー役を浦山迅さん、マージ役を棟方真梨子さん、バート役を高倉有加さん、リサ役をうのちひろさんが担当しています。変更時もそれを残念がる声はあった一方で、ホーマー役を務めていた大平さんは2016年に亡くなられていることもあり、完全に当時のキャストでの収録はすでに不可能という状況にはありました。
この変更をして以来、長らく同じキャストでの収録が続いているので、今回の新たな劇場版でもこの新しいレギュラーメンバーでの吹替版が制作される可能性は高いです。
一方で、Disney+という限定的な配信が続いていることを踏まえ、前作同様に劇場版に向けて新キャストを起用する可能性もゼロではないでしょう。改めて話題のタレントを起用することや、所ジョージさんを始めとしたかつての劇場版のキャストを呼んでくるという選択肢も、それぞれが現在もテレビで活躍していることを踏まえると話題にはなりそうです。
そしてそもそもの問題として吹替版が制作されないという可能性もあるでしょう。『ザ・シンプソンズ』が限定的な環境でしか楽しめない現状を踏まえると、あえて字幕版のみに絞るという選択肢は、子供向けのアニメが国内コンテンツで充実していることを踏まえると、大人に向けて字幕版に絞ってしまうのは経費削減という点でも一つの手といえます。
当時配給を担っていたフォックスは2019年にウォルト・ディズニー・カンパニーに買収され、それらの采配も今回はディズニーが担うことにもなり、劇場版を展開する方針も未知数です。果たして、今回の新たな『ザ・シンプソンズ』の劇場版がどんな選択を取るのか続報に注目です。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteでは『アニメ映画ラブレターマガジン』を配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi
※サムネイル画像:Amazonより 『DVD「ザ・シンプソンズ MOVIE (劇場版) 」(販売元:Happinet)』