『SLAM DUNK』は、なぜ決勝戦を描かずに終わったのか。人気絶頂での突然の完結は読者に衝撃を与えましたが、それは打ち切りなどではなく、作者・井上雄彦先生が“ある強固な美学”に基づいて下した必然の決断だったのです。
◆井上雄彦先生が語る「山王戦フィナーレ」の真意
『SLAM DUNK』が全国大会の途中で幕を閉じたことは多くの読者に衝撃を与えましたが、インタビュー&カルチャーマガジン『SWITCH』2002年3月号のインタビューによると、実は作者・井上雄彦先生の頭の中では、その結末はかなり早い段階で決定していたそうです。
先生いわく、インターハイの組み合わせが決定した時点で「山王戦を最後にする」と心に決めていたとのこと。バスケ漫画として「決勝まで進む」王道を避けた背景には、揺るぎない作者としての美学がありました。
その最たる理由が「前の試合よりもつまらない試合は絶対に描きたくない」という強い思いです。
井上先生は「山王戦より面白い試合は描けないと思っていた」と語っており、全身全霊を込めた山王戦こそが物語の最高到達点であるという確信を持っていたのです。
また「テンションが高いところで終わらないと、作品にとって不幸になる」という言葉も残しています。
人気が続く限り連載を続けるのが一般的だった当時、ピークの熱量を保ったまま潔く物語を終えることは、作品への最大の敬意であり、読者の心に永遠に残るための戦略だったといえます。
最終回の事前告知は稀で『SLAM DUNK』も例外ではありませんでした。山王戦勝利の直後、次号ではあっさりと3回戦敗退が「ひと言」で描かれ、最終ページの「第一部 完」に読者は驚愕しました。その後、単行本で「第一部」の文字が削除され、完全に完結した形となったことも、先生の強い意志を感じさせるエピソードです。
読者の動揺を承知のうえで、自身の描く物語のクオリティーを最優先し、最高の形で完結させた井上先生。その決断は、今もなお多くの読者に「理想の終わり方」として語り継がれています。
──インターハイ優勝という「結果」よりも、全力を出し尽くした「一瞬の輝き」を描き切ること。それこそが『SLAM DUNK』という作品が目指した真の結末だったのかもしれません。
続きが描かれなかったからこそ、桜木たちのあの熱い夏は、永遠に色褪せない青春としてファンの心の中で生き続けているのではないでしょうか。
〈文/凪富駿〉
《凪富駿》
アニメ・漫画に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。特にジャンプアニメに関する考察記事の執筆を得意とする。作品とファンをつなぐ架け橋となるような記事の作成がモットー。
※サムネイル画像:Amazonより 『「PLUS/SLAM DUNK ILLUSTRATIONS 2」(出版社:集英社)』



