原作終了から26年の時を経て、2022年に最新映画『THE FIRST SLAM DUNK』が世界的なヒットを記録した『SLAM DUNK』。

 現代でも高い人気を誇る名作には、重要な役割でありながら影の薄い登場人物や、過去の映画作品でサプライズ登場し、意外な形で伏線回収となった人物が存在します。

◆湘北の顧問はほかにもいた!?──鈴木先生って誰?

 湘北高校バスケ部の監督といえば安西先生ですが、実は別に「顧問」の先生が存在していたことは、記憶に残っていない読者も多いのではないでしょうか?

 インターハイ直前、湘北バスケ部が静岡代表の常誠高校との合宿に向かうときのこと。安西先生は同行せず、花道の個人練習を指導するために神奈川に留まりましたが、代わりに選手たちの引率を任されていたのが「鈴木先生」でした。

 鈴木先生は安西先生がメインのコマの後方に小さく描かれ、見た目はYシャツにネクタイ、メガネをかけた中年男性で、いかにも昭和生まれの教師という風貌。セリフもなく、ただただ安西先生から引率を頼まれている旨が紹介されただけの登場でした。

 実はそんな鈴木先生ですが、湘北バスケ部の公式戦には過去にも同行していたことが判明しています。

 安西先生が不在のままインターハイ出場を懸けた挑んだ陵南戦に、登場こそなかったものの、鈴木先生が選手たちを引率していたことが安西先生のセリフで明かされたのでした。

 バスケットボールの指導ができる人かどうかは不明で、これまでの練習シーンや試合で登場することはなかった鈴木先生ですが、陰ながら顧問として湘北バスケ部を支え、安西先生の不在時も選手を引率するなど責任をまっとうしていました。その割にはあまりにも知名度が低く、もはやモブキャラ扱いの鈴木先生は、湘北バスケ部関係者の中では「忘れられた不遇の人物」だといえそうです。

◆実は翔陽には顧問がいた!?──名前不明のおじさん先生

 神奈川屈指の強豪校でありながら、正式な監督が不在で主将の藤真が選手兼監督を務めていた翔陽高校バスケ部。翔陽の監督不在という設定は、ファンの間でも『SLAM DUNK』最大の謎ともいわれていますが、実は顧問にあたる人物は存在していました。

 名前や年齢などの素性は一切不明ですが、湘北戦では翔陽ベンチに顧問として座っており、湘北の鈴木先生と同じく見た目はYシャツにネクタイ、メガネをかけた髪の薄い初老の男性。こちらも絵に描いたようなモブキャラのおじさんという感じです。

 彼を見た湘北バスケ部1年の桑田は、先輩・小暮に「翔陽の監督はあの人ですか? 小暮さん」「強豪の監督には見えないな……」と質問しており、小暮の返答からその先生は少なくとも昨年のインターハイ予選時より前から翔陽の顧問を務めており、バスケットについては素人であることも判明しました。

 神奈川では海南に次ぐ強豪校であり、陵南の田岡監督に「牧と藤真の時代」とまで言わしめた翔陽高校バスケ部。それだけの実力を持ち、試合会場の客席一角を埋め尽くすほど多くの部員を抱える強豪校が、何年にもわたり正式な監督不在のまま、バスケについては素人の顧問を置いているというのは、あまりにも不可解であり『SLAM DUNK』最大の謎と言われるのもうなずけます。

 翔陽バスケ部の象徴ともいえる選手兼監督の藤真。彼の存在を引き立てるために、対比として描かれたであろうバスケ素人の顧問先生。セリフもなく、あまりにも存在感が薄かった彼もまた『SLAM DUNK』屈指の不遇のキャラだといえるかもしれません。

◆原作初コマで張られた伏線を映画で回収! 武園学園・小田

「ゴメンなさい桜木君」「わたしバスケット部の小田くんが好きなの」──『SLAM DUNK』原作の第1コマ目に登場する女の子のセリフですが、主人公の花道が彼女にフラれるところから物語は始まりました。

 中学生の3年間で実に50人の女の子に告白し、フラれ続けた花道でしたが、晴子との出会いが転機となりバスケットマンとして成長していきました。

 初コマに登場した彼女については、花道が晴子と出会い、一目惚れしてバスケットボールを始める口実を作るための、お笑いでいうところの「振り」だと思われていた読者も多かったと思います。そんな名前すら明かされていなかった彼女ですが、その後に意外な形で主要人物として再登場することに……

SLAM DUNK』のTVアニメ放送がスタートした199310月から約半年後の19943月に公開された初の劇場版『スラムダンク 劇場版』にて、中学生時代に花道をフッた彼女と「小田君」が登場したのです。

 彼女の名前は島村葉子で、小田とともに神奈川の武園学園に進学。想いを寄せていた彼とは交際関係にあったものの、事情により疎遠になっているという設定でした。

 小田はというと、花道たちと同じくバスケットボール界では無名の和光中出身ながら、類稀な才能と努力によって1年にして武園学園のスタメンとなっていました。しかし、勝利への執念が強すぎるあまり、チームメイトや葉子にもキツく当たるようになったことで、2人の仲は破綻寸前でした。

 そんな中、湘北との練習試合で再会を果たした3人でしたが、小田は中学生時代に不良だった花道がバスケットボールを始めたことが気に入らず、最初は彼にもキツく当たっていました。しかし、試合を通して花道が本気でバスケットボールに向き合っていることに気付き、自身も初心にかえったことで葉子との仲は元通りになりました。

 原作の連載がスタートした段階で、葉子や小田の登場が予定されていたかはわかりませんが、原作最初のコマとセリフは、結果的にその後の劇場版1作品を作り上げるに至る壮大な伏線となりました。

 

 ──バスケットボールの熱い試合が最大の見どころである『SLAM DUNK』において、その他関係者の過去や素性については謎が多く残っています。

 しかし、葉子や小田のように思わぬ形で「忘れられたモブキャラ」が再び登場する日がくるかもしれません。

〈文/lite4s〉

《lite4s》

Webライター。『まいじつ』でエンタメ記事、『Selectra(セレクトラ)』にてサスペンス映画、韓国映画などの紹介記事の執筆経験を経て、現在は1980~90年代の少年漫画黄金期のタイトルを中心に、名作からニッチ作品まで深く考察するライター業に専念。 ホラー、サスペンス映画鑑賞が趣味であり、感動ものよりバッドエンド作品を好む。ブロガー、個人投資家としても活動中。

 

※サムネイル画像:Amazonより

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