湘北が神奈川の決勝リーグで唯一敗北した王者・海南大付属ですが、急遽起用された宮益は試合経験がなかった控え選手でありながら、結果的には彼のプレーなくして海南の勝利はあり得なかったと言っていいほど勝利に大きく貢献しました。

◆前半わずか3分間で「桜木をコートから締め出す」任務を果たす

 まずは何と言っても、智将・高頭監督が宮益を起用した目的「素人・桜木をコートから締め出す」という任務を果たしたことでしょう。

 急遽交代を告げられ、動揺と緊張が隠せないままコートに立った宮益は、最初こそ宮城にボールを奪われたものの、指示通り桜木のマークに付き「何もしないディフェンス」を遂行。高頭監督の読み通り桜木の経験不足を次々と露呈させ、わずか3分ほどで桜木をベンチに下げることに成功しました。

 これには牧のサポートもあったものの、宮益の最大の持ち味であったシューターとしての実力が大きなカギを握っていました。桜木のマーク要員での起用でしたが、スコアラーの神と交代となった理由は、宮益のそのシュート力あってこそ。湘北サイドは彼を見た目で「オフェンスの穴」だと判断しましたが、実は神を除けば海南一のシューターである宮益は、短い出場時間の中でスリーポイント、ミドルシュートを立て続けに決めました。

 宮益は前後半を通してわずか7分半ほどの出場でしたが、2008616日に出版された雑誌『BRUTUS』によると、この試合で彼は9点もの得点を挙げています。フル出場していた湘北のスコアラー・三井の8点、宮城の10点と比較しても、いかに宮益のオフェンス力が高かったかが分かります。

◆後半の出番では湘北のディフェンス・フォーメーションを宮益の出場が変えた!

 前半の好プレーが評価され、後半残り446で再び声がかかった宮益でしたが、その時湘北のディフェンスは神に桜木がマンツーマン、残り4人が牧をゾーンで囲むというフォーメーションをとっていました。

 湘北としては一か八かの勝負に出た作戦でしたが、それがうまく機能して一時10点あったビハインドは4点にまで迫っていました。

 それを崩す目的で海南第二のシューター宮益が投入され、湘北・安西監督はすぐさま宮城へ宮益に付くように指示を出しますが、これにより好調だったディフェンス・フォーメーションは崩れ、攻撃の起点である牧のマークマンは3人に減ることになります。

 一見、1人に対して3人もつけば十分に思えますが、その直後に牧は湘北ゴールにカットインし「中が三人で少し楽になったぜ!!」と発言しており、海南のオフェンスの王道パターンである牧のペネトレイトからの展開が復活しています。

 清田のフリースローが外れた際のリバウンドを桜木に奪われたものの、宮益はすかさずパスカットからスティールを仕掛けており、自らがシュートに行くと見せかけ牧へアシストというフェイントも決め、再出場からわずか45秒で見事得点に貢献しました。

◆ラスト45秒では牧の指示を忠実に遂行し宮城を封鎖!

 後半残り45秒、一向に点差が開かぬのまま湘北ボールとなったところでメンバー全員に牧から役割確認が入りますが、宮益へは「宮城に外はない!! 抜かれることだけに注意しろ 宮!!」と指示が飛びました。

 宮城は宮益より1学年下の2年生ながら神奈川屈指のスピードを誇るPGです。前半のマッチアップ時に宮益は宮城に追いつけず、宮城が「足も遅い」と心の中で言っていることからも、ここでの指示遂行は簡単なことではありませんでした。

 しかし、これまでのわずか7分にも満たない出場時間の中で、宮城のスピード感や攻めのパターンを学習した宮益は、試合再開後約15秒もの間、宮城のドリブルによる突破を阻むことに成功しています。

 この働きにより、痺れを切らした湘北は三井がリバウンド頼みの強引なシュートに踏み切ることになりました。

 もしこの時宮益が宮城に抜かれていたら、その後湘北にゴールを奪われ、さらにもう1度湘北が攻める十分な時間も与えていたかもしれません。

 原作では宮益が宮城を阻むシーンはわずか3コマほどしか描かれていませんが、勝敗を左右したビッグ・プレーだったと言えるでしょう。

◆「下ァーッ!」誰よりも早くピンチに気付いたのは牧ではなく宮益だった!

 ラスト45秒で海南メンバーはそれぞれの役割をまっとうし、湘北は三井が無理な態勢からのシュートを放ちますが、高砂の懸命なスクリーンアウトにより最後の最後でリバウンドを勝ち取ることに成功しました。

 先ほどの借りとばかりに狙いすましていた宮城により、高砂の押さえたボールはカットされますが、そのとき牧よりも早く危機に気付いたのは宮益でした。

「下ァーッ!」という彼の叫びと同時にカットされ、一度はルーズボールとなるものの、最後は桜木の痛恨のパスミスという劇的な最後で海南の勝利に終わりました。

 このシーンからも、宮益はただ桜木の素人という点を突いた対策としての起用ではなく、あくまで彼の実力を買われてのものだったことが分かります。「神を除けば海南でNo.1のシューター」という分かりやすい持ち味だけでなく、その適応能力や注意力の高さ、与えられた任務をまっとうしようという意識こそ、後半の接戦で再出場に至った要因ではないでしょうか。

 前半、彼が交代を告げられた時に、心の中で発した「やるぞ!! この僕にできる限りのことを!!」という言葉が印象的ですが、3年生にして初めて出場できた試合において、自分の役目は何なのか? 自分には何ができるのか? それを彼なりに理解し、忠実に遂行した功績は、湘北戦における海南の勝利に間違いなく不可欠なものだったのではないでしょうか。

 

 ──海南には牧や神など多くのスター選手がいますが、実は宮益のような目立たない選手のプレーこそが多くの読者の共感を呼び、『SLUM DUNK』が愛され続ける理由の一つとなっているのかもしれません。

〈文/lite4s〉

 

※サムネイル画像:Amazonより

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