バスケット漫画『SLAM DUNK』で、主人公・桜木花道の良き理解者であり、親友として陰ながら花道やバスケ部を支えた水戸洋平。

 彼がバスケ部に入部していたら、実はすごい選手になっていたのでは? と思われる要素が、原作の至る所に散りばめられています。

◆そもそも水戸洋平は湘北バスケ部に入部する予定だった?

「水戸洋平がバスケ部だったら?」という説は、原作者・井上雄彦先生のある発言に端を発しています。

 井上先生が『バガボンド』の連載を開始した頃、お笑い芸人の今田耕司さんと東野幸治さんのラジオ番組『Come on FUNKY Lips』で、井上先生が「連載当初は水戸洋平がバスケ部に加入する予定だった」という旨の内容を語ったことから、『SLAM DUNK』の裏話として有名になったものです。

 さらに、井上先生と詩人・伊藤比呂美さんの対談が収録された書籍『漫画がはじまる』(20085月出版、出版社:スイッチパブリッシング)でも、井上先生は「そもそも、三井はバスケをやる予定ではなかった」と振り返っています。

 元々、三井はバスケ部に波乱を巻き起こすだけの不良として描かれる予定でしたが、次第に愛着が湧き、路線変更して一度挫折した天才プレイヤーとして熱いドラマが描かれ、5人目のレギュラーメンバーとなりました。

 三井の登場により入部は叶わなかった水戸ですが、1991年の人気投票では5位、1996年は6位と、バスケ部でない脇役でありながら、高い人気を誇ったキャラゆえに「バスケ部に入部していたら」と思わずにはいられないファンが多いようです。

◆バスケの才能とケンカの腕っぷしは比例する?

 水戸がすごいバスケ選手になっていたのでは? と思わせる要因の一つに、原作内では「ケンカの強さとバスケットの上手さは比例する」という点が挙げられます。

 安西先生に「逸材」とまで賞された花道は、ケンカも怪物級の強さでしたし、同じく流川も竜や鬼頭ら不良グループを圧倒していました。宮城もかつて三井を徹底的に打ち負かしていたり、飛び蹴りが得意だったりと、小柄ながら腕っぷしの強さには定評がありました。

 三井はバスケ部襲撃時、桜木軍団たちに圧倒されていたイメージがあり、自責の念から攻撃を甘んじて受けていた可能性もありますが、あれだけ打ちのめされても最後まで倒れなかったことから、かなりの打たれ強さがうかがえます。また、主将・赤木については手を下さずとも不良たちが怯むほどでした。

 水戸は三井一派と交戦した際、鉄男の不意打ちを喰らったものの、その後パンチを交わし、蹴りをカバンで防御するなどすぐさま適応。大楠らを率いて体育館に助太刀した際は、主犯・三井を一方的に打ちのめしています。

 徳男たち上級生に対し優勢を保っていた大楠らもいる桜木軍団においてリーダー格である水戸は、ケンカにおいて湘北高校内で花道に次いで実質No.2である可能性が高いといえます。

 運動神経や反射神経、駆け引きの上手さなどケンカの強さに必要な能力からも、「ケンカが強い=バスケが上手い」はあながち邪推ではなさそうです。そう考えると、水戸はとんでもない逸材である可能性が高いといえるかもしれません。

◆類まれな洞察力と判断力は宮城も凌ぐ?

 バスケットボール選手として重要な要素に「洞察力」と「判断力」が挙げられますが、特にゲームメイクを担うPGには重要な才能です。

 水戸の身長は原作では明かされていませんが、山王戦勝利後の記念撮影にて湘北バスケ部の石井とほぼ同じ身長だったことから、170cm前後であると予想できます。となるとポジションはPGSGが適任でしょう。

 暴力沙汰を起こし、休部、廃部もありえたバスケ部の窮地を、水戸は機転を利かせたウソによって救い、さらには首謀者でありながら、バスケ部復帰を願った三井をも救いました。

 また、事あるごとに花道の心中を察し、彼の想いを尊重したり代弁したりと洞察力に長けており、さらに「自分はどうするべきか?」について同時に考え、実行できる行動力もかなりもの。瞬間ごとにその2つが同時に要求されるPGは、まさに彼の天職とも言うべきポジションかもしれません。

 湘北のエースガードである宮城は、全国屈指のクイックネスと先輩である赤木、三井をもコントロールするほどのリーダーシップの持ち主ですが、短絡的になるという欠点もありました。

 一方、水戸はいかなる場面でも冷静で最善の選択ができるという点を踏まえると、宮城以上の逸材である可能性を秘めており、翔陽の選手兼監督・藤真をも凌ぐ存在になれるかもしれません。

◆弱きを助け強きをくじく男気あふれる人柄で人望も厚い

 バスケットボール選手としてもう一つ重要なのが、チームメイトとの信頼関係です。内部崩壊によって格下評価だった湘北に敗れた豊玉高校が良い例ですが、チームプレイで勝利を目指すバスケットボールにおいて、選手と監督、選手間の信頼関係は必要不可欠です。

「怖がられてナンボ」の不良の世界で、水戸はあれだけの実力者でありながら、三井一派のバスケ部襲撃時、クラスメイトから相談を受けるなど、彼が一般生徒からも信頼されていることがうかがえます。

 翔陽戦の翌日、興奮で眠れなかった花道が早朝の体育館に水戸を呼び出し、本音を打ち明けていることからも、彼を特別な親友と慕っていることも分かります。また、桜木軍団と親交のある晴子も、水戸のみ「洋平くん」と下の名前で呼んでいるのも、気を許している表れでしょう。

 情に厚く、弱いものには手を出さないが、悪は許さない。そんな男気溢れる水戸は、選手としてもチームメイトと篤い信頼を築くことができるでしょう。名監督も夢ではないかもしれません。

 

 ──バスケ部の窮地を救った陰の立役者である水戸洋平。情に厚く男気溢れる彼が、バスケ部に入部し、選手として才能を開花させ、輝くところを見てみたいと願うのは、ファンにとってはごく自然なこと。

 続編の連載があるのなら、3年が引退し、スター選手が減ってしまう湘北バスケ部の新星として、水戸が入部する姿が見られる日が来るかもしれません。

〈文/lite4s〉

《lite4s》

Webライター。『まいじつ』でエンタメ記事、『Selectra(セレクトラ)』にてサスペンス映画、韓国映画などの紹介記事の執筆経験を経て、現在は1980~90年代の少年漫画黄金期のタイトルを中心に、名作からニッチ作品まで深く考察するライター業に専念。 ホラー、サスペンス映画鑑賞が趣味であり、感動ものよりバッドエンド作品を好む。ブロガー、個人投資家としても活動中。

 

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