『SLAM DUNK』において、主人公・桜木花道が所属する湘北高校との対戦で勝利をおさめた海南大附属高校。帝王と呼ばれる主将・牧が率いる「常勝」を掲げたチームは、その名の通りインターハイでも準優勝を飾るなどまさに最強のチームでした。
華麗なオフェンスばかりフォーカスされがちですが、実はその強さの秘訣はディフェンスにあったのではないか? と思わせるシーンがいくつもあります。
◆流川を体力0まで追い込んだのは信長だけ!
湘北のエースであり、花道と同じく監督・安西先生から「逸材」といわれ、強敵との試合の中で急成長していった流川楓。物語終盤では高校生No.1プレーヤーといわれる山王・沢北とも互角に渡り合いました。
陵南のエース・仙道など数々の強敵とマッチアップし、豊玉戦では「エースキラー」と呼ばれる南に左目を負傷させられ、後半は片目でプレーするなど厳しい状況に立たされても、最後までコートに立ち続けました。山王戦や陵南戦でも沢北、仙道を相手に最後までプレーし、見事勝利に貢献しています。
海南戦でそんな流川のマークマンを務めた信長は、前半で25点もの大量得点を許してしまい、後半はディフェンスに専念することを監督に自ら申し出ます。
「できなきゃ外す」と牧に迫られプレッシャーがのしかかる中、流川からの失点をわずか6点に抑えることに成功。最終局面となるラスト1分24秒でついに流川は体力が尽き、小暮との交代を余儀なくされました。
わずか1点差で海南の勝利に終わった湘北戦において、この功績はとてつもなく大きく、流川や花道と同じ1年でありながら海南のレギュラーを勝ち取った信長のポテンシャルの高さを感じさせるものでした。
◆湘北の三井がもっとも抑えられたのは海南戦!
湘北の流川と双璧をなすスコアラーであり、驚異的なスリーポイントの成功率を誇る三井。監督・安西先生からは「知性ととっておきの飛び道具」をチームにもたらしたと賞され、翔陽戦を皮切りに数々の重要局面でスリーポイントを決めて勝利に貢献しました。
中学生の時にはMVPを獲得し、有名であった三井には、王者・山王もスッポンディフェンスの一之倉を付けるなど特に警戒していましたが、終わってみれば25点もの大量得点を許しています。海南・武藤が「沢北がいなけりゃどこでもエースを張れる男さ」と称賛した山王・松本さえも翻弄しました。
また、翔陽の長谷川は不良になっていた過去の三井を蔑み、そんな奴に負けてたまるかと闘志を燃やしてボックスワンで徹底マークしましたが、抑えきることはできず20点を奪われました。
一方、同じくシューティングガード(以下、SG)である海南・神は、作中で三井に対する目立ったディフェンスの描写こそ少ないものの、許した得点はわずか8点。
三井を抑えつつ、自身も22点を獲った神の実績も、信長に勝るとも劣らない偉業であり、神奈川の得点王たる所以だといえるでしょう。
◆信長のディフェンスと身体能力は花道・沢北をも超えるまさにスーパールーキー!?
花道との小競り合いなど、単細胞キャラとしてコミカルに描かれることが多い信長ですが、プレーの内容やその驚異的な身体能力は凄まじく、1年生で唯一、海南のレギュラーを勝ち取った実力は本物です。
湘北戦では後半ディフェンスに専念し、エース・流川の得点を一桁に抑え、後半残り1分24秒で交代に追い込むことに成功。ここまで流川を追い詰めたのは作中で信長だけでした。
さらにラスト12秒で逆転を賭けて三井が放ったスリーポイントに対し、マークが外れた神に代わってブロックに飛び、ボールに爪が触ったことでわずかにシュートの軌道をずらすことに成功。これが決め手となり、海南は湘北との激戦を制し、インターハイへの切符を手にしました。
オフェンスにおいても、陵南戦では身長2メートルを超える魚住のブロックをものともせずダンクを叩き込み、インターハイ初戦となる岩手代表・馬宮西との試合でダンクを決めた際は、観客からは「なんてバネだ!!」「あれが1年生だと!?」と驚愕の声が飛び交いました。
花道の身長はインターハイ時点で189.2センチ、沢北が188センチなのに対し、信長は10センチ以上も低い178センチしかありませんでした。その差を考慮すると、身体能力面での真の逸材は信長だといえるのかもしれません。
◆実は神奈川の得点王はディフェンスでも全国トップクラス! 山王・一之倉より上!?
2年生にして王者・海南のレギュラーであり、インターハイ予選では1試合平均30.3得点という驚異的な記録で得点王に輝いた神。全国でも屈指のスコアラーゆえ、オフェンス面がフォーカスされがちですが、実はディフェンス力もかなりのもの。
高頭監督は「あいつは内に秘めた闘志と……」「きれいなシュートフォームを持っていた」と入部当時を回想しましたが、まさに山王・一之倉に勝るとも劣らない根性と我慢強さを持っていました。
同じSGである三井をわずか8点に抑えた結果からも見て取れますが、神の本質を象徴するシーンが2004年に井上先生が廃校の黒板に書いた黒板漫画『あれから10日後……』で描かれています。
「海南の強さの秘密をさぐる」として、記者の相田弥生はランニング中の神に取材を試みますが、神は「あ……どうも」と軽く挨拶をし、そのまま走り去っていきます。しばらく押し黙った後、相田は「このコが……」「海南の強さの象徴かもしれないわね……」と呟いています。
三井を抑えた功績も日々の地道な努力の結果であり、同じポジションでありながら2年間バスケットから遠ざかっていた三井と、人一倍努力を重ねてきた神の対比を描いたのが「湘北vs.海南」の試合であり、海南勝利という結果であったと考えることもできそうです。
──1年後には新入部員は2割も残らないといわれるほど、厳しい練習で有名な海南大附属高校バスケ部。
華麗なシュートシーンなどの陰に隠れた、我慢強いディフェンスや描かれなかった地味なシーンにこそ、地獄の練習を耐え抜いた神や信長の真の実力が発揮されていたのかもしれません。
〈文/lite4s〉
《lite4s》
Webライター。『まいじつ』でエンタメ記事、『Selectra(セレクトラ)』にてサスペンス映画、韓国映画などの紹介記事の執筆経験を経て、現在は1980~90年代の少年漫画黄金期のタイトルを中心に、名作からニッチ作品まで深く考察するライター業に専念。 ホラー、サスペンス映画鑑賞が趣味であり、感動ものよりバッドエンド作品を好む。ブロガー、個人投資家としても活動中。
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