湘北の主将・赤木は、チームの大黒柱のような存在ですが、誰にも弱みを見せない強い性格が、インターハイでは逆に大きな足かせになりました。
長所・短所を含めて本当の意味で赤木の「理解者」だったのは、湘北のチームメイトでも妹・晴子でもなく、ほかならぬあの「戦友」だったのかもしれません。
◆共通点は「苦しい過去」、相違点も「苦しい過去」
赤木と魚住は良きライバル関係にあります。2人はともに苦しい経験をしていますが、その経験がそれぞれに与えた影響はまったく異なるものでした。
赤木はチームメイトとモチベーションのギャップなどから衝突が絶えず、周囲から孤立していました。類まれな才能を持ちながらも試合で勝てない時期が続き、当時の試合を観戦していた海南・牧も赤木の才能を惜しむほどでした。
一方、のちに唯一無二のライバルとなる魚住は、県内トップクラスの身長を評価され、強豪・陵南高校に入学。監督・田岡茂一からは高い期待を寄せられましたが、厳しい練習についていけず、挫折し、一時は退部を申し出たほどでした。
また、2年生のときのインターハイ予選で赤木と魚住は直接対決しましたが、結果は赤木が圧勝し、魚住は再び大きな挫折を味わいました。
以降、2人のライバル関係は本格化していきますが、赤木は弱小チームに所属しながらも腐らず努力を続け、県内屈指のセンターへと順調に成長していました。
魚住は強豪チームで2度の挫折を経験し、紆余曲折を経ていることからも、赤木よりも三井に近い「人間的な弱さ」を持った選手でした。
挫折を知らず、周囲を引っ張る存在だった赤木と、挫折を経験し、周囲に助けられてきた魚住。ともに苦しい経験をしたライバルであり、同じポジションながらも、赤木と魚住は対照的なプレーヤーだったといえるでしょう。
◆神奈川県予選の中で「気づいた魚住」と「気づかなかった赤木」
3年生でそれぞれのチームの主将となった赤木と魚住でしたが、過去の経験から2人のプレースタイルやリーダーシップには大きな違いがあります。
赤木は、花道、流川、宮城、三井という強豪と互角に戦えるチームメイトに恵まれ、才能を開花させました。ところが、チームメイトに恵まれなかった過去や、主将という立場から「自分がチームを引っ張らなければならない」という意識が強かったようです。
一方、魚住も赤木へのライバル心を燃やし、フットワークを一から鍛え直すなど厳しい練習を課し、赤木に勝るとも劣らないセンターへと成長しました。過去の挫折や、チームメイトに支えられてきた経験から、「仲間を頼る」ことを自然と身につけていたと考えられます。
湘北戦で、魚住は赤木との勝負を避け、パスを選び、「オレはチームの主役じゃなくていい」と、仙道、福田を褒めていました。このことから、魚住は「センターの役目はチームのために体を張ること」だと気づいていたのでしょう。
◆赤木はインターハイで「強い自分」に追い詰められる……
赤木は、魚住のような挫折や、センターとして負けた経験がないため、「自分が勝つこと」にとらわれ、「チームが勝つために体を張ること」の重要性に気づかないまま山王戦で窮地に立たされます。
赤木は、山王戦で初めて決定的に格上の河田雅史とマッチアップし、序盤は互角に渡り合いますが、次第に河田に抑え込まれ、後半はトラベリングなど「らしくない」プレーを連発。精神的にも追い込まれていくことに……。
赤木は、初めての格上プレーヤーと対峙し、「自分が絶対負けてはいけない」というプレッシャーから、本来の目的を見失っていたのかもしれません。試合を観戦していた魚住は、「あんなかっこ悪い赤木は」「初めて見たな」と嘆いています。
花道たちチームメイトは赤木の異変には気づいていましたが、有効な声かけができず、彼の本質的な意識のズレを指摘できませんでした。
いつでもチームを支え、どんな強敵が相手でも負けなかった赤木への信頼が、逆に赤木を追い詰めてしまったといっていいでしょう。
◆「泥にまみれろよ」──ライバル・魚住からの咤激励
赤木の人生初にして最大のピンチを救ったのは、湘北メンバーでも、監督・安西先生でも、妹の晴子でもなく、ライバル・魚住でした。
赤木の情けない姿を見かねた魚住は、赤木の前で大根のかつらむきをはじめ、「華麗な技をもつ河田は鯛……」「お前は鰈だ」「泥にまみれろよ」と激励の言葉を残します。
これを見た安西先生は心の中で「魚住くん……」「ありがとう……」と感謝の言葉を述べています。安西先生も、赤木の心理状態に気づいていたのかもしれません。
魚住からの言葉で、赤木は「自分の役目はチームのために体を張ること」、「真の目的はチームの勝利」と気づき、集中力を取り戻しました。ラスト1:20では河田兄弟を相手に体を張って勝負し、見事ファウルを獲得しています。
弱みを見せず、誰からも頼りにされる存在だった赤木にとって、魚住の言葉は衝撃的だったかもしれません。
赤木が土壇場で魚住の言葉の意味をすぐに理解できたのは、同じ主将であり、センターであり、そして唯一無二のライバルだったからこそでしょう。これまで赤木を頼りにしてきたチームメイトや晴子には想像できないはずです。
──ライバルでありながら最大の友でもあった赤木と魚住。陵南戦の決着後に2人が涙ながらに抱き合ったシーンは、多くの読者の胸を打ちました。
インターハイで、赤木を「センターとして、主将として」さらに一段高いところに導いたのは、ほかでもない戦友・魚住だったのかもしれません。
〈文/lite4s〉
《lite4s》
Webライター。『まいじつ』でエンタメ記事、『Selectra(セレクトラ)』にてサスペンス映画、韓国映画などの紹介記事の執筆経験を経て、現在は1980~90年代の少年漫画黄金期のタイトルを中心に、名作からニッチ作品まで深く考察するライター業に専念。 ホラー、サスペンス映画鑑賞が趣味であり、感動ものよりバッドエンド作品を好む。ブロガー、個人投資家としても活動中。
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