インターハイで全国2位になるなど、名実ともに王者である海南バスケ部の中で、ひときわ存在感が薄いのがF・武藤正です。
海南のレギュラーとあって実力は確かなのかと思いきや、原作外では「国体メンバー」に落選など、ますます不遇な扱いを受けています……。
◆1998年カレンダーで「神奈川県・国体メンバー」が発表されていた?
1998年のカレンダー用に原作者・井上雄彦先生が書き下ろしたイラストの中には、国体メンバーを描いていると思われる一枚があります。
「神奈川」、「秋田」、「愛知」など、都道府県名が書かれたプラカードを持った制服姿の女子生徒を先頭に、『SLAM DUNK』でおなじみの選手たちが15人ずつ、都道府県ごとに整列しています。
神奈川は、海南の牧を先頭に、赤木、藤真、仙道などそうそうたる顔ぶれで、花道や、引退して板前の道を志したはずの陵南・魚住の姿も見られます。ところが、この神奈川代表15人の中に、武藤の姿はありません……。
黒板漫画『あれから10日後-』では、海南・高頭監督と陵南・田岡監督が、喫茶店で国体メンバーについて相談するシーンがあります。田岡が「国体どうする 今年もお前んとこの単独チームか」と高頭に問いかけていることから、これまで国体メンバー15人の枠を海南が独占していたことが分かりました。
海南の実力と実績を考えると納得ですが、高頭は「今年に限れば混成チームにしたいですね」と返答しており、これまでとは違って他校の選手の実力を高く評価していることがうかがえます。
しかし、実力がある選手が多いとはいえ、これまで国体メンバー枠を独占した海南のレギュラーで、この年もインターハイ2位に導いた武藤が落選するのは、あまりに不憫といえます。
◆国体メンバーは列の前から順に選出されている?
カレンダーのイラストでは、神奈川代表は先頭に牧、続いて湘北・赤木、海南・神、陵南・仙道など、「神奈川ベスト5」に選出された選手が並んでいます。このことから、国体メンバーは選ばれた順に整列していると考えられます。
秋田代表は山王・深津を筆頭に山王工業のレギュラーが並び、大阪代表は先頭に大栄学園・土屋、豊玉のレギュラー・南、岸本、板倉らが前半を占めていることからも、この推測は裏付けられるでしょう。愛知代表の先頭の愛和学院・諸星、大阪代表の大栄学園・土屋は、それぞれ出身校でキャプテンを務めている選手です。
そして、神奈川代表の最後尾には、確かな実績を持つ海南の高砂がいます。経験の浅い花道が7番目、粗削りな陵南・福田が11番目に選出されていることから、選出理由は実績だけではないのかもしれません。
◆原作でも圧倒的に武藤の描写は少ない……
武藤は、海南のレギュラーとして湘北戦に出場し、メンバー・チェンジもあった中出ずっぱりでしたが、プレーの描写はほとんどありませんでした。海南メンバーの中では、控え選手の宮益よりもセリフは少なく、極端に情報が少ないキャラクターだといえます。
湘北戦の後半では、牧のペネトレイトから神が射貫く「海南の攻撃の型」が湘北を大いに苦しめました。安西先生は、牧に4人のディフェンスを付け、神を花道にマークさせるという奇策を打ち、そのときフリーになった武藤がシュートを放ちましたが、「これは落ちるのを祈るのみ」と、武藤の実力を低く見ている様子もありました。
そのシュートは外れ、それ以外も武藤の見せ場らしきシーンはありませんでした。それどころか、陵南戦にもレギュラーとして出場した武藤は、福田に大量得点を許し、Fでありながら得点シーンはほとんど描かれていません……。
湘北戦では花道、陵南戦では福田など下級生かつ粗削りな選手とのマッチアップが多かったのに、武藤は不自然なほど活躍が少なかったといえます。
もしかすると、武藤は派手な活躍こそなかったものの、チームがうまく機能するための「潤滑油」のような役割を担っていた選手なのかもしれません。
◆高砂は最後尾でギリギリ選出されている?
カレンダーのイラストで神奈川代表の最後尾に小さく描かれている海南のレギュラー・C高砂も、武藤の次に描写が少なかった選手です。
高砂は身長191センチとCの中では小さく、湘北戦でも赤木に敵いませんでしたが、陵南戦では牧の指示通り魚住のファウルを誘いコートから締め出すことに成功するなど、巧さも持ちあわせています。
また、湘北戦の終盤でリバウンドをきっちり押さえるなど、キャプテン・牧の指示を確実に遂行できる信頼性の高いプレーが持ち味です。
王者・海南のレギュラーとして、全国の強豪校のCを相手に闘ってきた経験と実績を持つ高砂が、引退した陵南・魚住や、翔陽・花形よりも選出順位が低いのもやや不可解な点でしょう。
神奈川代表には、湘北戦において三井を止めることはできず、思うような成績は残せなかった翔陽・長谷川も選ばれています。このことから、選考基準は実績だけでなく、あくまでも「選手のポテンシャル」であり、だからこそ選手として完成されている高砂が最後尾なのかもしれません。
──王者・海南の勝利に大きく貢献してきた、不動のレギュラー・武藤正、高砂一馬。いずれも目立つプレーはないものの、安定感のある選手です。
武藤の国体メンバー落選、高砂のギリギリ選出は、『SLAM DUNK』が高校バスケの「リアル」を描いている証左かもしれません。
〈文/lite4s〉
《lite4s》
Webライター。『まいじつ』でエンタメ記事、『Selectra(セレクトラ)』にてサスペンス映画、韓国映画などの紹介記事の執筆経験を経て、現在は1980~90年代の少年漫画黄金期のタイトルを中心に、名作からニッチ作品まで深く考察するライター業に専念。 ホラー、サスペンス映画鑑賞が趣味であり、感動ものよりバッドエンド作品を好む。ブロガー、個人投資家としても活動中。
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