『SLAM DUNK』の誰もが気になる「その後の世界」ですが、実は「90秒の動画」でTV放送されていたことがあります。驚くことに、それはアニメ放送ではなく、ある企業のTVCMとして描かれていたのです。
◆資生堂の整髪料「Aleph」のTVCMで『SLAM DUNK』のその後が描かれていた!?
原作の連載が終了した1996年から2年後の1998年、資生堂から販売されていた男性用化粧品「Aleph」のTVCMに、何と花道、流川ら湘北メンバーが登場しています。
絵コンテで描かれたものが、そのまま動画として動き出すというもので、最初に球状の体に手足が生え、顔が付いた、『アンパンマン』の「かびるんるん」のようなキャラクターが登場。それを皮切りに、流川、花道、宮城と、湘北メンバーが次々に現れ、シュートやパスを決めるという内容でした。
試合中の熱狂をあおるような印象的なBGMが流れる中、プレーシーンが展開されますが、セリフは一切ありません。唯一、流川がアップになったときに一文字「む」と動画の中に描かれているのみでした。
『SLAM DUNK』の連載が終了し、失意の中にいた読者たちは、花道たちの突然の登場に驚きつつも、食い入るようにCMを観ていたものです。
また、わずか数十秒の動画で、放送期間も短かったため、当時は気づかなかった視聴者も多かったかもしれませんが、実はこの動画は「連載終了後の世界」を描いていたのです……!
◆宮城は背番号が「4」に! 流川はバッシュを新調していた!?
CMに登場するのは宮城、花道、流川の3人のみで、赤木、小暮、三井など3年生が登場しなかったことに、放送当時違和感を覚えた人もいたかもしれません。
これには明確な理由がありました。注目すべきは「宮城の背番号」です。原作で宮城が背負っていた番号は「7」でしたが、最終話で赤木、小暮が引退し、新キャプテンになったことで、背番号は「4」になりました。
CMでは、既に「4」のユニフォームを着ていることから、この動画が「その後の世界」を描いていることが分かります。
流川にも実は変化があり、バスケットボール・シューズ(以下、バッシュ)が新調されていたのです。流川といえば、原作では一貫して「エア・ジョーダン5」を愛用していましたが、CMでは「エア・ジョーダン12」を履いています。
エア・ジョーダンは、バッシュの中でも絶大な人気を誇るシリーズで、現代でも高値で取り引きされています。『SLAM DUNK』原作の中でエア・ジョーダンを履いていたのは流川と花道のみ(アニメ映画では武園学園の小田が“エア・ジョーダン8”を使用)で、2人が本作の主人公であることを印象づける要素の一つにもなっています。
また、「エア・ジョーダン12」は1996年11月に発売されたことから、流川が連載終了後すぐにバッシュを新調していたことも分かる、コアなファンにとってはたまらない演出でした。
◆花道は坊主から短髪ヘアに! 宮城とのコンビネーションもバッチリ?
原作最後の山王戦で背中を傷め、リハビリ中という状況で連載終了を迎えた花道ですが、CMの中では豪快にダンクを決めるなど、戦線復帰を果たしています。
最終話の時点で、既に坊主頭から少し髪の毛が伸びていましたが、CMではさらに伸びており、爽やかな短髪ヘアになっていました。
動画でのプレーにおいては、花道がリバウンドを取るところから始まり、着地と同時に3人に囲まれますが、新キャプテン・宮城の要求に気づきパス。その後、宮城のノールック・パスからアリウープを決めるなど、見事なまでに息ピッタリのプレーを披露しています。
連載当時の「素人」の印象はもはやなく、赤木のいない湘北のゴール下を制するインサイド・プレーヤーとしての貫禄すら感じさせる鮮やかなプレーでした。
一時は選手生命すら危ういとマネージャー・彩子に告げられ、花道の「その後」を危惧した読者も多かったハズ。花道がその後、無事に選手として復帰できたかさえ分からなかった読者にとって、このCMで活躍する花道の姿は、何とも感慨深いものだったのではないでしょうか。
連載後の世界をTVCMで描くという前代未聞の企画でしたが、思わぬ形でファンに「その後の世界」を垣間見せる、粋な演出だったといえます。
◆最後に登場する井上雄彦先生! まだフサフサ……
このTVCMのラストは、これまで展開していたプレーシーンの原稿を、原作者・井上雄彦先生がグシャッと丸めてゴミ箱に投げ入れるものの、フチにあたって外れ、リバウンドしたゴミがボールとなって花道がダンクを決める、というものでした。
突如、物語の中に原作者が登場したことに驚いたファンも多かったでしょう。現在はスキンヘッドに近い坊主頭の井上雄彦先生ですが、この動画に登場したときはまだフサフサのサラサラヘアでした。
井上雄彦先生といえば、長男・井上大道さんが、日本プロバスケットボール「Bリーグ」のB2チーム「鹿児島レブナイズ」に加入したことが今年の3月に報じられています。
井上雄彦先生は『SLAM DUNK』のほかにも『バガボンド』、『リアル』など、人気作品を連載中ですが、息子さんにもバスケ愛が伝わっていたことを知り、『SLAM DUNK』の連載再開へ期待を膨らませたファンも多かったことでしょう。
映画『THE FIRST SLAM DUNK』も世界で大成功をおさめ、続編連載が現実味をおびてきた昨今。Bリーグの盛り上がりによって『SLAM DUNK』の連載再開を望む声が大きくなれば、原作で「その後の世界」を観ることも夢ではないかもしれません。
──バッドエンドでもハッピーエンドでもない、多くの期待と不安を残したまま連載が終了した『SLAM DUNK』の「その後の世界」は、読者であれば誰しも気になるところでしょう。
CM動画によって、花道が無事復帰できていたのは喜ばしいことですが、やはり原作の続編で、また全国の強豪たちとの熱い試合を観たいものです。
〈文/lite4s〉
《lite4s》
Webライター。『まいじつ』でエンタメ記事、『Selectra(セレクトラ)』にてサスペンス映画、韓国映画などの紹介記事の執筆経験を経て、現在は1980~90年代の少年漫画黄金期のタイトルを中心に、名作からニッチ作品まで深く考察するライター業に専念。 ホラー、サスペンス映画鑑賞が趣味であり、感動ものよりバッドエンド作品を好む。ブロガー、個人投資家としても活動中。
※サムネイル画像:Amazonより 『SLAM DUNK 第20巻(出版社:集英社)』
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