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 山王は、なぜ湘北に敗れたのか──。その理由を「油断」や「慢心」という言葉だけで説明することはできません。敗因の根源は、王者であり続けたが故の「想定外」への脆さ、そして桜木花道という「規格外」の存在にあります。彼らを内側から破壊していった“精神的なズレ”の正体とは、いったい何だったのでしょうか。

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◆「挑戦者であれ」──完璧な王者・山王に油断は存在しなかった

 山王の敗因を考えるうえで「彼らは油断していた」という見方はまず、くつがえさなければなりません。作中の描写は、彼らが湘北を侮るどころか、最大限の警戒と準備をもって試合に臨んでいたことを示しています。

 勝利への姿勢は、名将・堂本監督の哲学に根付いています。堂本監督は敗戦後「『負けた事がある』というのが、いつか大きな財産になる」と語り、勝利に慣れる危険性を誰よりも理解していました。

 練習試合では大学トップクラスのチームと戦い、常に挑戦者としての野心を植え付けていたのです。湘北戦前にも、ビデオを徹底分析し、赤木剛憲をはじめ、三井寿や流川楓の能力も正確に把握していました。準備に一切のぬかりはなかったといえるでしょう。完璧な準備を遂行できる、圧倒的な個の力も彼らは備えていました。

 キャプテンの深津一成は、冷静な判断で試合を支配する高校No.1ポイントガードです。相手の心理を読み、最善の選択を実行する姿は、高校生のレベルを超越しています。

 センターの河田雅史は、ポジションの壁を破壊するほどの万能性を誇ります。ゴール下では湘北の支柱である赤木を完全に抑え込み、ときにはガードのように3ポイントシュートまで放つ。その実力は、まさに規格外です。そして、エースの沢北栄純。彼の1on1スキルは、流川ですら手も足も出ない異次元の領域にありました。

 心・技・体、そして知略。すべてにおいて、山王は万全の状態で湘北戦に臨んでいたといえるでしょう。常勝軍団の敗北は、「相手を見くびっていた」という次元の話ではありません。本当の敗因は、彼らが築き上げた「完璧さ」の内側に潜んでいたのです。

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◆王者のシナリオを破壊した「3つのイレギュラー」

 なぜ、完璧だった山王は敗れたのでしょうか。答えは、彼らの強さの根源である「豊富な経験」と「データに基づく対策」を無効化する、湘北の“イレギュラー”たちの存在にあります。彼らは王者の描いた完璧なシナリオに、次々と想定外の亀裂を入れていきました。

 最初の亀裂は、ポイントガードの宮城リョータです。山王が誇るオールコートゾーンプレスは、データ上、小柄な宮城が突破することは困難でした。しかし彼は、小柄さを逆手に取ったスピードとドリブルワーク、そして「ドリブルこそチビの生きる道なんだよ!!」という強い信念で、王者のプレスをたった一人で切り裂きます。

 次に、シューターの三井です。スタミナ切れで意識さえはっきりしないなか、次々と3ポイントシュートを沈めていく。その姿は、山王の選手たちにとって理解不能な光景でした。「もうフラフラのはずなのに…なぜあんなシュートが…」。沢北の焦りに満ちた表情、深津の眉間のしわ、ベンチの堂本監督の沈黙。それは、疲労度という「データ」では測れない、人間の執念を目の当たりにした衝撃そのものといえるでしょう。

 宮城の突破力と、三井の執念。これら「経験」や「データ」では説明できないプレーの連続は、山王の選手たちの心に「こんなはずではなかった」という、これまで経験したことのない質のプレッシャーをかけ始めます。技術的な劣勢とは違う、精神のバランスを少しずつ崩していく未知の脅威だったのかもしれません。そして、最も王者のシナリオを根底から破壊する存在が、桜木花道だったのです。

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◆理論を破壊する“赤い悪魔”──桜木花道こそが規格外の存在だった

 宮城と三井がシナリオに「亀裂」を入れたのだとすれば、桜木は、山王が築き上げてきたバスケットボールの「理論」そのものを破壊する存在でした。

 彼はたんなるイレギュラーではなく、完璧なシステムに侵入し、すべてをクラッシュさせる“バグ”だったのです。

 試合序盤、桜木は「素人」として山王に徹底的にねらわれます。しかし、桜木は常識をあざ笑うかのように、試合中に驚異的なスピードで成長を遂げます。河田美紀男の自信を打ち砕いた「フンフンディフェンス」、セオリーを無視したリバウンド。予測不能なプレーの連続は、バスケの戦術という枠組みでは到底捉えきれません。河田雅史が「何なんだコイツは…」と戦慄したように、桜木のプレーは王者の理解を超えていました。

 桜木の異質さが頂点に達したのが、試合終了間際のファインプレーです。

 背中に激痛を抱え、選手生命すら危ぶまれる状態でありながら、彼は床に転がるルーズボールに身を投げ出します。それは技術や戦術といった次元の話ではありません。勝利への執念だけで動く、まさに「魂」のプレーだったといえます。

 この場面で、沢北は一瞬、完全に動きを止めています。圧倒的なスキルを持つ彼ですら、“命を賭けたプレー”に対して、ただ立ち尽くすことしかできなかった。常勝軍団である山王の選手たちが、どれだけ厳しい練習を積んできたとしても、あそこまで体を投げ出す覚悟をした経験はなかったでしょう。技術で勝っていた彼らが、心で敗北を悟った瞬間だったのかもしれません。

 理論で説明できない規格外の存在。勝利への純粋すぎる執念。山王の“脆さ”とは、完璧なシステムであるが故に、理論を超えた「バグ」への対応力がなかったことなのかもしれません。桜木という存在は、山王のゲームプラン、そして王者の精神的な支柱さえも、根底から破壊してしまったのです。

 

 ──山王の敗因は、慢心や油断ではありませんでした。それは、桜木花道という「規格外」の存在が明らかにした、王者であるが故の精神的な“脆さ”といえるでしょう。

 しかし、この歴史的な敗北は、堂本監督の言う「大きな財産」として、彼らをさらに成長させるはずです。勝敗を超えて描かれる人間ドラマこそ、『SLAM DUNK』が読者を惹きつけてやまない理由なのではないでしょうか。

〈文/凪富駿〉

 

※サムネイル画像:Amazonより 『「PLUS/SLAM DUNK ILLUSTRATIONS 2」(出版社:集英社)』

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