神奈川の王者・海南大附属は、インターハイでも全国2位という輝かしい成績をおさめました。しかし、実は彼らは「真のベストメンバー」ではなかった可能性があります。
◆不自然に描かれなかった「7番」の存在
海南のスタメンは、原作のどの試合も一貫して主将のPG牧、C高砂、SG神、F武藤、SF清田の5人です。
一方、勝利が確実となるほどの点差が開いた試合では、控え選手を積極的に起用しており、宮益など公式戦が初めての選手の活躍も描かれました
しかし、そんな中で「ある不自然なこと」に気がつきます。それは、「なぜ7番の選手がいないのか?」という事実です。連載当時の高校バスケでは、主将の4番を筆頭に、副主将が5番、6番以降は連番でユニフォームを得るのが一般的でした(※2017年のルール変更により、現在は00番・0番から99番までの好きな番号を選べる)。
不自然に途中の番号だけ抜けるというのは、通常ではありえないことです。ところが、海南にはスタメン選手はもちろん、控え選手が出場していた試合でも、7番を背負った選手は一度も描かれませんでした。
◆「7番」といえばエース級の選手?
「7番」といえば、陵南では天才・仙道が、湘北ではエース・ガードの宮城が、インターハイの山王工業では“高校生No.1センター”である河田雅史が背負っていました。
ポジションはさまざまですが、どの選手もチームに必要不可欠なエース級のプレイヤーだといえます。
湘北は選手層が薄く、1年生で2ケタの番号の選手・流川、花道がスタメンとして起用されていましたが、一般的には1ケタの番号を背負った選手でスタメンが構成されるのが普通です。
エースであり主将の藤真を含め、4~8番の5人で編成された翔陽、不祥事を起こした福田を除けば全員が1ケタの番号だった陵南、豊玉、山王も同様です。
そう考えると、海南にスタメンにもベンチにも7番の選手がおらず、10番の清田がスタメンであることは、いかに不自然かが分かります。
◆神が6番ということは海南は完全実力制?
海南のユニフォームをもらえる条件として特徴的なのは、2年生の神が副主将の次の番号である6番を背負っている点です。
湘北が良い例ですが、『SLAM DUNK』連載当時は年功序列の風潮が根強く、実力のある下級生がユニフォームをもらい試合に出場することはあっても、上級生の方が若い番号を渡されることが多かったものです。
絶対王者・山王工業も例外ではなく、1年生の時からスタメンであり、高校生No.1プレイヤーと言われる沢北でさえ、松本、一之倉たちよりもあとの9番でした。
しかし、海南ではレギュラー選手の中でもっとも若い番号を2年生の神が与えられており、“常勝”のスローガンに恥じない「完全実力制」であったことがうかがえます。
そうなると、10番の清田がスタメンで、7番の選手が一度も描かれていないのは何とも不自然です。また、この7番不在の謎をさらに深めるのが「武藤の国体メンバー落選」です。
黒板漫画『あれから10日後-』で、田岡と高頭が神奈川県の国体メンバーについて相談するシーンで、田岡が「今年もお前んとこの単独チームか」とたずねており、海南の選手は全員がその実力を持っていることが分かります。
ところが、1998年のカレンダー用に原作者・井上雄彦先生によって書き下ろされた国体メンバーと思しきイラストでは、神奈川県メンバーの中に海南のスタメンであるはずの武藤の姿だけありませんでした……。
混成チームにしたことで、海南全員が入るのは難しかったとしても、王者・海南のスタメンが外れるという事態は考えにくいでしょう。このことからも、海南の真のスタメンは武藤ではなく「幻の7番」だったのでは? という可能性が疑われます。
◆伏線として残しておいた番号?
『SLAM DUNK』では、湘北の三井、陵南の福田など、事情があり遅れて復帰した選手が、いずれもエース級の実力を持っていました。
その点を踏まえると、神奈川の得点王・神という揺るぎないエースはいるものの、武藤の影の薄さも、実は「7番復帰までの伏線」だと考察できそうです。
10番の清田がスタメンで、8番の小菅が控えである点も、控え選手を積極的に起用するなど一手先を常に見越してきた智将・高頭の戦略を思えば、将来有望な選手の「育成枠」を設けているのだろうと腑に落ちます。
事実、控え選手を起用しているシーンでも、1年生の清田だけは引き続き出場させており、彼に経験を積ませたいという高頭監督の思惑がうかがえます。
そのうえで、湘北と山王との試合後も原作の連載が続き、インターハイのその後まで描かれる可能性も見越して、あえて海南は7番を不在にして「伏線を張っておいた」と考えることもできそうです。
特に、神奈川県のチームにおいては、陵南は決勝リーグから福田が復帰し、湘北はインターハイ予選から三井が復帰。翔陽も、試合途中から藤真が出場するなど、必ずといっていいほど戦力に変化がつけられています。予選で湘北に敗れた三浦台でさえ、アニオリキャラの「内藤」という“秘密兵器”が登場したほどでした。
そう考えると、海南の「7番の謎の不在」は、今後の展開をより刺激的でおもしろいものにするための「回収されなかった伏線」だと考えるのが自然なのかもしれません。
──いまだに続編連載の可能性が捨てきれない『SLAM DUNK』。映画『THE FIRST SLAM DUNK』の公開によって、さらにファン期待は高まるばかりです。
もし続編の連載が再開されたなら、幻の7番の選手を加えた海南の「真のベストメンバー」の活躍が見られる日が来るかもしれません。
〈文/lite4s〉
《lite4s》
Webライター。『まいじつ』でエンタメ記事、『Selectra(セレクトラ)』にてサスペンス映画、韓国映画などの紹介記事の執筆経験を経て、現在は1980~90年代の少年漫画黄金期のタイトルを中心に、名作からニッチ作品まで深く考察するライター業に専念。 ホラー、サスペンス映画鑑賞が趣味であり、感動ものよりバッドエンド作品を好む。ブロガー、個人投資家としても活動中。
※サムネイル画像:Amazonより 『Blu-ray「映画『THE FIRST SLAM DUNK』STANDARD EDITION」 (C) I.T.PLANNING,INC. (C) 2022 THE FIRST SLAM DUNK Film Partners』