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 物語のラスト、選手生命を懸けたリハビリに励む桜木花道。多くの読者が、桜木の今後の行く末を祈るような気持ちで見守ったことでしょう。しかし、あのリハビリ期間が体を治すためだけのものではなかったとしたら。

 バスケから離れたあの静かな時間こそが、彼の才能を「本物」へと変える、もっとも重要で濃密な“練習”だったのかもしれません。

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◆天才を襲った“最初の絶望”──選手生命という名の壁

 桜木のバスケット人生は、常に驚異的な成長とともにありました。しかし、あの山王との試合で、彼は初めて本当の意味での「絶望」を知ることになります。

 試合のクライマックス、ルーズボールに飛び込んだあのプレー。普通ならためらってしまうような場面で、一切の迷いなく身を投げ出すことができる。それこそが、桜木の身体能力と、勝利への執念の凄さです。しかし、そのプレーは同時に、自分の体の使い方をまだ知らない「ど素人」ゆえの、あまりに無謀なプレーでもあったといえるでしょう。

 背中に走る激痛。それは、彼のバスケ人生で初めて直面した、身体能力だけではどうにもならない、あまりに高くそして分厚い「壁」でした。

 それでも、彼はコートに立とうとします。そんな桜木を制止する安西先生に、彼は言いました。「オヤジの栄光時代はいつだよ……全日本のときか?オレは……オレは今なんだよ!!」。

 この魂の叫びは、たんなるわがままではありません。わずか四ヵ月の間に、心の底からバスケを愛するようになった男が、初めて「選手生命」というものを意識し、二度とバスケができなくなるかもしれないという恐怖と絶望に、必死に抗う叫びだったのかもしれません。

 山王戦でのあの怪我は、桜木に肉体的な痛みだけでなく「バスケを失うかもしれない」という、これまで経験したことのない精神的な絶望を与えたといえます。しかし、このあまりに過酷な試練こそが、彼を次の段階へと押し上げる、新たな物語の始まりでもあったのではないでしょうか。

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◆もっとも静かでもっとも濃密な“練習”──リハビリという名の自己分析

 選手生命の危機という大きな壁にぶつかった桜木。しかし、彼が本当の天才である理由は、ここからの時間にこそ隠されていました。

 庶民シュートの練習や、ゴール下での反復練習。一度やると決めたことには誰よりも素直に、そして真剣に取り組むのが桜木という男です。だからこそ、バスケから離れざるを得なかったリハビリ期間は、彼にとって「失われた時間」などではなく、自らを生まれ変わらせるための、もっとも静かで、もっとも濃密な“練習”の時間だったのかもしれません。

 まず、彼は初めて自分自身の「体」と、科学的に向き合うことになります。リハビリとは、ただ体を休ませるだけではありません。専門家の指導のもと、自分の体のどこが弱く、どうすれば怪我をしないのか、その仕組みを学ぶ時間といえます。これまで、ただ感覚と勢いだけで動いてきた桜木が、初めて自分の体の使い方を頭で理解しようとする。この経験によって、彼の有り余る才能は、より壊れにくく、より効率的に力を発揮できる「本物のアスリートの体」へと進化を遂げていったのではないでしょうか。

 そしてもう一つ。体を動かせない期間は、彼に「頭」でバスケを学ぶ時間を与えたと考えられます。これまでは、コートの中で本能のままにプレーすることしか知らなかった桜木。しかし、この期間は試合のビデオを繰り返し見たり、晴子からの手紙で試合の状況を想像したりと、コートの外から試合全体を眺める、初めての機会となったのではないでしょうか。相手チームの動き、味方の位置、試合の流れ。そうしたものを頭の中で組み立てることで、彼のバスケへの理解度は、飛躍的に深まった可能性が高いといえるでしょう。

 リハビリ期間は、桜木にとって決して空白の時間ではありませんでした。それは、自らの「体」と「頭脳」を、もう一段階上のレベルへと鍛え直す、もっとも重要で濃密な“練習”だったのかもしれません。彼の規格外の才能という原石が、ここで初めてていねいに、そして静かに磨き上げられていったといえるでしょう。

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◆そして伝説へ──流川への対抗心が証明する“完全復活”への序章

 濃密なリハビリ期間を経て、桜木は心と体の両面で確かな成長を遂げるでしょう。その証拠が、物語の最終盤、あの静かな海辺で描かれた彼の姿です。

 リハビリ先の海岸で、彼は晴子からの手紙を読んでいました。その途中、全日本のジャージを着た流川が、自慢げに桜木を挑発します。それを見た桜木は悔しそうに対抗心をむき出しにしますが、絶望の色は一切ありませんでした。むしろ、流川を「オレの補欠で選ばれたクセに……!!」と言い放ち、次なる戦いへ闘志を燃やしていました。

 彼の闘争心と「打倒・流川」という目標が、少しも揺らいでいないことの証明といえるでしょう。それは、リハビリが順調に進み、必ずコートに戻れるという確かな手応えを感じているからこその表現だったのではないでしょうか。

 そして、物語はあの伝説のラストシーンを迎えます。リハビリの先生に「耐えられる?」と問われた桜木は、穏やかな、しかし揺るぎない自信に満ちた表情でこう答えるのです。「天才ですから」。

 物語初期の、根拠のない自信からくる言葉とは、その重みがまったく違います。これは、最大の挫折と地道なリハビリを乗り越え、心と体の両面で成長を遂げた男だけが言える、本物の自信に裏打ちされた「本物の天才」としての復活の誓いといえるでしょう。

 桜木の物語は、山王戦で終わったわけではありません。あの怪我とリハビリこそが彼を「ど素人の天才」から、心・技・体を兼ね備えた「本物の天才」へと変えるための、最後の試練だったのかもしれません。彼の本当のバスケ人生は、あの静かな海岸から始まろうとしていたのでしょう。

 

 ──桜木の背中の怪我は、絶望であると同時に、彼を「本物の天才」へと変える最高の機会だったと考えられます。あのリハビリ期間こそが、彼の肉体と頭脳を成長させた、もっとも濃密な時間だったといえるでしょう。

 原作の最後で彼が言った「天才ですから」という言葉。それは復活への誓いであり、新たな伝説の始まりを告げる号砲だったのではないでしょうか。彼の物語は、逆境こそが人をもっとも大きく成長させるのだと、教えてくれるのかもしれません。

〈文/凪富駿〉

《凪富駿》

アニメ・漫画に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。特にジャンプアニメに関する考察記事の執筆を得意とする。作品とファンをつなぐ架け橋となるような記事の作成がモットー。

 

※サムネイル画像:Amazonより 『「PLUS/SLAM DUNK ILLUSTRATIONS 2」(出版社:集英社)』

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