<この記事にはTVアニメ・原作漫画『SPY×FAMILY』のネタバレが登場します。ご注意ください。>
敏腕スパイとして圧倒的な活躍を見せるロイド・フォージャー。スパイとしての実力の高さゆえ、シリアスな場面でもどこかコミカルで安心感を持って視聴できるのが『SPY×FAMILY』の醍醐味かもしれません。そんなロイドにも、今後試練とも呼べる大きな危機が訪れると考えられます。
◆今後ロイドに迫る最大の危機は「密告!?」
『SPY×FAMILY』Season 3の展開に注目していると、10月6日、ドイツ大使館が公式X(旧Twitter)でポストし話題となっていました。ポストの内容にもある通り、『SPY×FAMILY』の世界観、特に「東国(オスタニア)」にはかつてのドイツ文化が色濃く落とし込まれています。
たとえば、首都バーリント”Berlint”とベルリン”Berlin”、通貨単位の「ダルク」と「マルク」など……。日常生活に至るまで東ドイツを彷彿させる文化が落とし込まれているのです。
さらに時代背景について遠藤達哉先生は、ジャンプコミックス6巻の作者コメントで「1960年〜1970年代くらいの時代を想定して描いている」と明かしています。現実におけるこの時代のドイツはベルリンの壁が建設され、まさに東西冷戦の真っ只中でした。
そして、ここで注目したいのはドイツ社会主義統一党が実際に使っていた最も重要で思想的な弾圧手段──「密告」です。
実は第2話でもカミラが「ウソつきは通報しちゃう?」と冗談めかしに言っているシーンがあります。通報は、治安当局への「密告」を意味していることから、『SPY×FAMILY』の世界においても「密告」の存在が仄めかされていると捉えられるでしょう。
つまり、西国(ウェスタリス)のスパイであるロイドが最も警戒しているのが「密告」だと推察できます。裏を返せば、物語として今後ロイドに最大の危機が迫るとしたら、それは「密告」による通報だと予想されるのです。
◆カギを握る情報を持つヨル・ブライアの動向
そうなると、誰がロイドを密告し追い詰めるのでしょうか。カギを握る人物が、妻役のヨル・ブライアです。なぜならヨルは、今後ロイドと敵対する可能性が高い、2つの組織とつながりがあるからです。
最初の組織は、弟のユーリ・ブライアが所属する「国家保安局」、通称、秘密警察です。密告の通報先である治安当局になります。秘密警察はかつて東ドイツに実在した組織で、民間人を監視し国賊となり得る存在をあぶり出していました。まさに、ロイドが所属する諜報機関「WISE(ワイズ)」にとっても最大の敵対組織といえるでしょう。
現時点では、ユーリの場数が足りずロイドに経験で劣っているため、情報戦ではロイドが一歩リードしています。事実、ユーリはヨルにも秘密にしていた秘密警察の在籍を、ロイドには見破られています。
しかし、ユーリは勤勉な性格に異様な正義感を持っています。何よりヨルへの執着心から、ロイドに対して不信感も抱いています。今後ヨルをきっかけに単独でロイド=<黄昏>を暴く可能性は十分に考えられるのではないでしょうか。
もう一つの組織が、ヨルが<いばら姫>として所属している暗殺組織「ガーデン」です。ガーデンについては、現時点でも東国(オスタニア)の平和のため国賊を粛清する目的以外、詳細は一切明かされていません。また「WISE」ですら存在を確認しておらず、第43話では「半分都市伝説みたいなものだろ」とロイド自身も半信半疑な様子でした。
そんなガーデンの中でも特に危険人物と考えられるのがガーデン店長です。TVアニメ『Season 2】第30話でも描かれていましたが、ガーデン店長はかなりの身体能力を持っている可能性が高く、ロイドにとっても強敵になり得ると推測できます。
しかし、現時点ではガーデン店長もロイドの素性に気づいている様子はありません。ただし、ロイドがガーデンの存在を知らない時点で、いざ敵対となった際は、ヨルを通じて情報を掴んでいるガーデン側の方が一歩有利になると考えられます。
そんなガーデン店長が初登場した第44話の場面ですが、実は気になる描写があるのです。それは、ヨルが数ある植物が植えられている庭園の中で、なぜか「エリカ」を気に入っているシーンです。「エリカ」は日本ではかわいらしい植物として知られていますが、原産地のヨーロッパではまったく異なる印象を与える花言葉も持っています。それが「裏切り」です。
何気ないシーンでしたが、もしかしたら今後ヨルが「裏切り者」となる伏線となっているのかもしれません。どちらにせよ、ロイドと敵対しそうな2つの組織にヨルが関係していることから、彼女の動向は特に注目となるでしょう。
◆決定的なダメージを負う展開は情報屋フランキー?
もう一人重要人物となるとしたら、それは情報屋のフランキーです。現時点で、ロイド=<黄昏>だと知っている唯一の人物でもあります。また、先日放送されたTVアニメ『Season 3』第1話では、<黄昏>だけでなく<夜帷>の信頼を勝ち取るエピソードも描かれており、今や「WISE」最大の協力者といえます。
しかし、注目したいのはフランキーはもともと東国(オスタニア)人である点です。本人も言っている通り、政府のやり方が気に食わないから西国(ウェスタリス)に協力しているだけで、あくまでも「中立」であることを主張しています。
つまり、今後立ち位置がどうなるか分からない存在とも解釈できるのではないでしょうか。現時点ではロイドとあつい信頼でつながっていますが、その分「密告」で裏切られたときは最もロイドにダメージを与える人物にもなります。
不穏なことに、第14話でフランキーは「いらん情を抱くなよ? 命が惜しかったら誰も信用するな」と<黄昏>に対して忠告していました。しかし、その言葉はフランキー自身にも当てはまるのです。
「誰も信用するな」という状況は、実はかつての東ドイツでもあったとされています。東西冷戦後の1991年、秘密警察が保管していた「国家保安省文書(シュタージ・アーカイブ)」という機密文書が公開されました。
そこに書かれていたのは、誰が誰を「密告」したかという詳細で膨大な記録だったそうです。ちなみに、文書は公人、民間人も合わせて約600万点の記録にのぼり、保管する書架は全長111kmにも及んだといわれています。
この文書で最も衝撃的だったのは、密告者が実の両親や子供といった肉親、そして信頼していた友人だったケースが少なくなかったことだそうです。目に見える人間関係が偽りだった時代は、まさに『SPY×FAMILY』のテーマにも通ずる部分ではないでしょうか。
──ヨルはいざとなった際、東国(オスタニア)を守るのか、それとも偽りの家族との愛を守るのか? 果たしてフランキーは本当に良き友人なのか? ロイドだけでなく、彼を取り巻く多くの人間たちにもまた、今後大きな試練が待ち構えているのかもしれません。
〈文/fuku_yoshi〉
《fuku_yoshi》
出版社2社で10年勤め上げた元編集者。男性向けライフスタイル誌やムックを中心に、漫画編集者としても経験を積む。その後独立しフリーライターに。現在は、映画やアニメといったサブカルチャーを中心に記事を執筆する。YouTubeなどの動画投稿サイトで漫画やアニメを扱うチャンネルのシナリオ作成にも協力し、20本以上の再生回数100万回超えの動画作りに貢献。漫画考察の記事では、元編集者の視点を交えながら論理的な繋がりで考察するのが強み。最近では、趣味で小説にも挑戦中。X(旧Twitter)⇒@fukuyoshi5
※サムネイル画像:『TVアニメ「SPY×FAMILY」MISSION:38 場面写真 ©遠藤達哉/集英社・SPY×FAMILY製作委員会』