<この記事にはTVアニメ・原作漫画『SPY×FAMILY』のネタバレが登場します。ご注意ください。>
天才スパイの父と最強の刺客である母でさえ、アーニャの「古語が得意」という奇妙な才能の謎に疑問を持っています。なぜ彼女は、古語だけが得意なのでしょうか。
その答えは、彼女が「あんま、おぼえてない」と口を閉ざす、謎の“研究所”での日々に隠されているのかもしれません。辛い過去の記憶の扉を開くことで、アーニャという存在そのものが持つ、壮大な秘密が見えてきます。
◆「あんま、おぼえてない」──アーニャが隠す“研究所”の記憶
アーニャの「古語が得意」という才能。その謎を解くカギは、彼女の封印された過去、“研究所”での日々にあるのかもしれません。
彼女の過去について明かされている事実を整理していくと、アーニャはかつてある組織の実験体(被験体007)として拘束されていました。そこでは、「お勉強」という名の過酷な訓練が繰り返されていたとされています。
その生活に嫌気が差した彼女は、自らの意志で研究所から逃亡しました。そして、彼女が何よりも恐れているのが、自分の超能力が他人に知られること。この強い恐怖心は、研究所で力が気味悪がられ、孤独な思いをしたトラウマからきていると考えられます。
この「思い出したくない過去」が、得意科目の謎とつながっていることを示す象徴的なシーンがあります。
アーニャが期末テストで古語の星(ステラ)を獲得したとし、驚いたロイドが「以前に古語を使う環境にいたのか?」と質問します。その問いに対し、アーニャは何かを隠すように、ただ一言「あんま、おぼえてない」とだけ答えるのです。
この不自然な反応は、彼女の「古語」の記憶が、研究所での辛い記憶と分かちがたく結びついている証拠ではないでしょうか。彼女は無意識に、あるいは自らを守るために、その記憶の扉にカギをかけているのかもしれません。
つまり、アーニャの唯一の得意科目のカギは、彼女が口を閉ざす“研究所”での日々にあるといえます。そして彼女の不自然な態度は、その記憶が楽しいものではなく、思い出したくない辛い過去と直結していることを強く示唆しているといえるでしょう。
◆なぜ“古語”が得意なのか?──研究所で使われていた“言葉”の謎
アーニャが隠す“研究所”。なぜその経験が、彼女に「古語」という不思議な才能を授けたのでしょうか。そもそも、研究所はなぜ幼いアーニャに古語を教える必要があったのでしょうか。
彼女をスパイや兵士として育てようとしていたなら、西国の言葉や暗号解読といった、もっと実用的な知識を教えるはずです。古語を話せる超能力者が、スパイ活動で特別な役割を果たせるとは考えにくいでしょう。
ここから一つの仮説が浮かびます。それは、研究所はアーニャに古語を“教えた”のではなく、研究員たちが日常的に古風な言葉を“使っていた”のではないかという可能性です。
では、研究員が日常的に古語を使う場所とは、どんな環境なのでしょうか。それは、現代の東国や西国から隔離された、時代から取り残されたような古い研究施設だったのかもしれません。たとえば、何十年も前に設立され、外界との接触を断ったまま独自の文化を育んだ、閉鎖的なコミュニティ。アーニャがいた研究所とは、そのような場所だったのではないでしょうか。
アーニャは、その閉鎖された環境で飛び交う研究員たちの古めかしい言葉を、心を読む力で無意識に吸収し続けていた。だからこそ、彼女にとって古語は「勉強」ではなく、「日常会話」に近いものであった可能性が高いといえます。耳に馴染んだ言葉だからこそ、他の科目よりずっと簡単に思い出せたのかもしれません。
つまり、アーニャが古語を得意なのは、彼女がいた研究所が、現代から隔離された特殊な環境だったからだといえます。彼女の頭には、辛い実験の記憶とともに研究員たちの言葉が染み付いており、それが皮肉にも、唯一の得意科目として花開いてしまったのではないでしょうか。
◆アーニャの“本当の名前”──彼女が背負う壮大な運命とは
アーニャがいた研究所が古い場所だった。この仮説からは、彼女の「古語が得意」という謎だけでなく、アーニャ自身の“本当の正体”が見えてきます。その手がかりは、おまけ漫画で描かれた、彼女が自分の名前を書く描写にあるのかもしれません。
ロイドに促され彼女が自身で書いたスペルは「A・N・Y・A」ではなく、「A・N・I・A」でした。ロイドはこれをスペルミスと考えましたが、アーニャ自身は指摘されたあと、少し考え込むような意味深な表情を見せます。
研究所で古風な言葉が使われていたなら、彼女の本当の名前も「アニア」に近い、古風な響きを持つ名前だった可能性はないでしょうか。この小さなスペルミスは、彼女が自分の「本当の名前」を無意識に書いた痕跡かもしれません。
そして、この「古い名前」の謎は、さらに壮大な「血筋」の謎へとつながります。
研究所が古い施設で、アーニャの名前も古風なものなら、彼女自身の生まれもまた、歴史的に特別な意味を持つ「古い血筋」の一族である可能性が浮かび上がります。
なぜ組織は、時代遅れの場所で一人の少女を研究していたのか。それは、その一族に代々受け継がれてきた「心を読む力」の秘密を解き明かし、兵器として利用するためだったのではないでしょうか。アーニャが背負っているのは、たんに実験体として利用された過去だけではないのかもしれません。
つまり、アーニャの「古語が得意」という小さな謎は「本当の名前」、そして「特別な血筋」という、歴史さえも揺るがしかねない壮大な物語へとつながる、重要な伏線なのではないでしょうか。
彼女が研究所から逃げ出したことは、本人にとってはささやかな抵抗だったかもしれません。しかしそれは、歴史の裏に隠された大きな運命の歯車を、結果的に再び動かす大事件の始まりだったといえるでしょう。
──アーニャの「古語が得意」という謎。その根源は、彼女がいた「時代遅れの古い研究所」での、辛い記憶と共にあると考えられます。そして、その小さな謎は彼女の「本当の名前」や「特別な血筋」という、壮大な物語へとつながっている可能性が高いです。
天才スパイの父と最強の刺客の母でさえ知らないアーニャという存在こそが、この物語最大の謎なのでしょう。彼女の記憶の扉が開くとき、偽りの日常は、本物の歴史を揺るがす物語へと姿を変えるのかもしれません。
〈文/凪富駿〉
《凪富駿》
アニメ・漫画に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。特にジャンプアニメに関する考察記事の執筆を得意とする。作品とファンをつなぐ架け橋となるような記事の作成がモットー。
※サムネイル画像:Amazonより 『Blu-ray TVアニメ「SPY×FAMILY」第2巻(販売元:東宝)』





