※この記事にはTVアニメ・原作漫画『SPY×FAMILY』のネタバレが登場します。ご注意ください。
※本記事は漫画『SPY×FAMILY』に関するライター個人の考察・見解に基づくものであり、公式の設定や見解とは異なる場合があります。
『SPY×FAMILY』の舞台として登場する「西国(ウェスタリス)」と「東国(オスタニア)」。しかし、作中では随所に「帝国」という国があったことが仄めかされています。実はこの帝国の存在こそ、いまだ明かされていないアーニャの出自に大きく関わっている可能性があります。
◆謎多きアーニャの素性に隠された伏線は?
作中の主要キャラクターのほとんどは出身地が明かされています。たとえば、ロイド・フォージャーの出身地は「西国(ウェスタリス)」のルーウェン。ヨル・ブライアの出身地は「東国(オスタニア)」のニールバーグ東部と判明しています。
しかしアーニャだけは、なぜか公式設定でも出身地が明かされていません。さらに、本当のファミリーネームも今のところ不明なのです。そして謎に包まれているアーニャの出自には伏線らしきものが存在します。
その最たるものが『SPY×FAMILY』番外編11のエピソードで描かれたアーニャのスペルです。アーニャが自分で書いた名前のスペルは「ANIA」でしたが、ロイドが指摘した正しいスペルは「ANYA」だったのです。
しかもアーニャの反応から察するに、スペルミスは知識不足から来るものではなく、培ってきた常識が違った様子でした。このことから、アーニャの出身は「ANYA」と綴るオスタニアではなく、「ANIA」が正式表記となる国ではないかと推察できます。つまり、アーニャの出身地自体が今後に関わる重大な伏線だと捉えられるのです。
◆アーニャの出身は「帝国?」
アーニャの出身地はどこなのでしょうか? アーニャの出自を考察するうえで注目したいのが、アーニャの古語の知識です。アーニャは勉強全般が不得意なのですが、古語に関しては学年次席で<星(ステラ)>の実力を誇っています。
そして古語に長けている理由については、アーニャが幼少期から古語に触れる環境だったことが示唆されているのです。
たとえば、コミックス第42話でロイドは、古語の勉強を教える前からアーニャの正答率が高かったので「生まれ育った環境で学んだものか?」と推測しています。
さらにロイドは「今でも古語を母国語としている国なんて……」とアーニャの素性を不思議に思う場面もありました。このシーンですが、スパイとして各国の情報を有しているはずのロイドが古語を母国語とする国をパッと答えていないことに少し違和感を覚えます。
そのため、古語はほとんどの国で使われなくなっていると考えられるのです。もしくは、古語が既に滅亡した国の言葉である可能性もあります。そして、作中では滅亡した国が1ヵ国だけ明かされているのです。それが帝国──。
そう考えると、「ANIA」のスペル自体が古語ということになり、スペルミスをした理由にも繋がります。そして、必然的にアーニャの本当の両親は「帝国」の人間だった可能性が高くなるのです。
◆アーニャは実は帝国の皇族だった!?
アーニャの出自が帝国だったとして、今後どういった伏線回収につながってくるのかと疑問が出てきます。その疑問を考えるうえで注目したいのが、帝国の人間が作中においてどういった立ち位置になるのか、という点です。
『SPY×FAMILY』は舞台を「架空の国」としながら、ドイツ大使館が公式X(旧Twitter)で反応するなど、多くの分野でドイツをモデルとしていることが推察できます。ウェスタリス、オスタニアもそうですが、現実のドイツもかつて2回の戦争を経て東西に分裂しました。
しかし、その前は「ドイツ帝国」という帝政国家だったのです。そして、ドイツ帝国に住んでいた人間の多くは、住む地域によってその後西ドイツ、東ドイツとそれぞれの住人となったことから、元は同じ国民であるとも捉えられます。要するに、たんに帝国の人間というだけではオスタニアの人間と立ち位置に大きな違いはないということになります。
メタ的に考えると、それではキャラクターが立たないのです。つまり、帝国出身だった場合、オスタニア出身の人たちとは明確に立ち位置が違い、かつ帝国のルーツを持つ人間である必要があります。結論からいうと、その条件と合致するのが「皇帝」の一族です。
しかし、そうなると先ほど帝国が古語を母国語としていたことに矛盾するのでは、と疑問に思うかもしれません。実は、必ずしもそうではないのです。近世ヨーロッパでは、各国が隣接する地理的要因もあって、国家間での政略結婚が数多くありました。
特に皇族は、他国の皇族を招き入れることで王位継承の正当性を確保していた背景があります。しかし、皇族とはいえ元々は他国の人間なので、実は裏で国家情報を母国に横流しするケースもあったのです。
そのような状況から、内密の話をする場合は自らの母国語や古語を利用していたという話があります。また、皇族が古語を話すことはシンプルに格式を重んじるケースも考えられるでしょう。日本でも昭和天皇は公務ではほとんど古典日本語を話されていたという逸話が残っています。
実はアーニャが皇族だった場合、つながってくるエピソードがいくつかあります。
まず1つが、「被験体“007”」として研究機関に捉えられていた過去です。史実でもドイツ帝国の皇族たちの多くは、隣国へ亡命したり、爵位の廃止に伴い民間人となったりしたとされています。
しかし一部の皇族は、反ナチス集結の温床になるとされ、収容所に投獄されるケースもあったそうです。つまり、元皇族だとしても必ずしも幸せな結末になるとは限らず、アーニャが研究機関に捕まってしまったとしても不思議ではないでしょう。
そして2つ目がTVアニメ『Season3』で放送された第39話のエピソードです。この回では、ハンカチを忘れたダミアン・デズモンドにアーニャが自分のハンカチを貸して、代わりに<雷(トニト)>をもらってしまうエピソードとなっています。
実はこの話には続きがあります。さすがに申し訳なく思ったダミアンは、数年に1度しか世に出ない「王室御用達最高級絶品カリカリお菓子」をアーニャに渡して借りを返そうとするのです。このとき、ダミアンがお菓子の逸話について、「ウィリー二世が敵国の女王に和睦のために贈ったのが始まりだと言われる」と解説しています。
つまり、状況的にアーニャを女王という高貴な身分に見立てているのですが、これは果たしてたんなる比喩なのでしょうか? どちらにせよ、アーニャの出自が皇帝の血を引く皇族なら、かなり衝撃的な展開となるでしょう。
──イートン校には「皇帝の学徒(インペリアル・スカラー)」が、そしてガーデンの本拠地には皇帝の母親の館があり、オスタニアの随所に帝国の名残が描かれています。もしかしたら、これらも伏線となっているのかもしれません。今後、謎に包まれたアーニャの素性がどのように明かされるのか注目してみるのも面白いでしょう。
〈文/fuku_yoshi〉
《fuku_yoshi》
出版社2社で10年勤め上げた元編集者。男性向けライフスタイル誌やムックを中心に、漫画編集者としても経験を積む。その後独立しフリーライターに。現在は、映画やアニメといったサブカルチャーを中心に記事を執筆する。YouTubeなどの動画投稿サイトで漫画やアニメを扱うチャンネルのシナリオ作成にも協力し、20本以上の再生回数100万回超えの動画作りに貢献。漫画考察の記事では、元編集者の視点を交えながら論理的な繋がりで考察するのが強み。最近では、趣味で小説にも挑戦中。X(旧Twitter)⇒@fukuyoshi5
※サムネイル画像:Amazonより 『「TVアニメ『SPY×FAMILY』公式スタートガイド ANIMATION×1st MISSION」(出版社:集英社)』





