ストップモーションアニメーションという撮影手法と、ホラーのジャンルがかけ合わさった、意外な映画が日本上陸を果たします。イギリス発の映画『ストップモーション』が1月17日を皮切りに、各地で順次公開が始まります。
本作はタイトルの通り“ストップモーションアニメーション”──いわゆるコマ撮りアニメーションをテーマにしたホラー映画です。
実はコマ撮りアニメは、アニメーションという手法自体の黎明期から、不穏な気持ちを抱かせるような“一風変わった作品”が製作されてきたジャンルでもありました。
◆映画『ストップモーション』はどんな作品なのか?
映画『ストップモーション』はアニメーション作家が主人公。“偉大なアニメーター”として評価される母親とともにアニメーション製作に取り組んでいた主人公のエラは、母親が病気で入院したのをきっかけに自力で製作を進めなければいけなくなります。
エラは自身の想像力という壁にぶつかる中、新たな作品のためのアイデアをくれる謎の少女との出会いや、次第に作品が現実を侵食してくるという不思議な体験をしていきます。
作中では実際にコマ撮りで製作されたパートがいくつか用意されています。
本作の監督を務めるロバート・モーガン氏は実際にこれまでもコマ撮りのアニメーション作品を手がけてきた作家です。
ロバート監督の作品の特徴といえば、本作に登場する人形たちに違わぬ不気味な造形のキャラクターや昆虫などを登場させる演出。今回の映画のために不気味な造形に挑んだというより、もともとこういった作風の作家だったといえます。
◆素材はなんでもあり? 奇怪なコマ撮りアニメたち
ロバート監督のほかの作品にもいえることですが、コマ撮りアニメの不気味さを増幅させる役割を担っている部分として、使っている人形の素材の力が大きいでしょう。
コマ撮りアニメーションは、使っているアイテムの質感がダイレクトに伝わってくる手法です。映画『ストップモーション』でも、葬儀で使われる蝋(ろう)や生肉などを用います。これらの質感がより作品を不気味に感じさせてくれます。
実際、これまでのコマ撮り作品でも「そんなものを使うの?」と驚かされるクラシック作品はたくさんあります。
たとえば、まだアニメーションの黎明期である1910年代には、ラディスラフ・スタレヴィッチ監督が昆虫の一生をテーマにした短編映像を製作するときに実際に昆虫の死骸を素材にして、昆虫のダミー人形を製作し映像作品を作りました。
結果的にそれがコマ撮りアニメーションの走りとなっていきます。アニメーションという言葉自体の語源が、ラテン語の生命や魂を表す“Anima(アニマ)”から来たとされますが、まさに死骸に再び命を吹き込むような行為が最初期にあったと思うとゾクッとするところです。
素材の使い方では1960年頃から活躍しているチェコのアニメーション作家であるヤン・シュヴァンクマイエル監督の作品も印象的です。シュヴァンクマイエル監督の作品では実在の人間を模した粘度素材の人形を用いて、その人形が変形したり、酷い時には形状が崩壊するほどの映像を製作します。
そういった表現たちは気持ち良さだけでなく、時には嫌悪感を抱かせるものであったりと、シュヴァンクマイエル監督の作品は実際にそういったねらいのもと作られた作品も多いです。
最近では『PUI PUI モルカー』のようにフェルト素材を用いてふわふわした手触りがイメージできる質感を活かした作品の活躍も目覚ましいものがありました。
映画『ストップモーション』は、まさにその逆の「素材によって好感を持たせられるのなら、逆に嫌悪感も抱かせられる」という力を活かしたアニメーションです。
スタレヴィッチ監督やシュヴァンクマイエル監督といった“偉大なアニメーター”たちに倣ったとも言える映画『ストップモーション』は、アニメーションの持つ不気味な力の系譜の最先端にある作品といえるでしょう。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteでは『アニメ映画ラブレターマガジン』を配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi
※サムネイル画像:YouTubeチャンネル『[公式]スターキャット』より
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