主人公目線で自分を磨きながら、能力値(ステータス)と相手の好感度を上げ、お目当てのヒロインとの「恋愛エンディング」を目指す──。
今では当たり前となった「恋愛シミュレーションゲーム」というジャンルですが、その先駆けであり、金字塔といえる作品が『ときめきメモリアル』(以下、『ときメモ』)です。
1994年にKONAMIから発売された本作は、PCエンジンSUPER CD-ROM²用のソフトとして誕生しました。
まだ「恋愛ゲーム」という言葉自体が一般的ではなかった当時、『ときメモ』という作品、そしてメインヒロインである藤崎詩織の存在は、プレイヤーに計り知れない衝撃を与え、ゲーム界に新しい風を巻き起こしました。
◆彼女がいないと始まらない! 高嶺の花すぎる幼なじみ「藤崎詩織」
本作を語るうえで、メインヒロインである藤崎詩織の存在は欠かせません。
主人公とは小学校からの幼なじみで、家も隣同士。アニメや漫画でも王道の「鉄板設定」を備えた彼女ですが、思春期に入ってからは少し距離ができてしまったようです。
詩織はほかのキャラクターと違い、登場条件がなく最初から登場するのですが、物語序盤のあの「よそよそしさ」といったらありません。
「あれ? 私たち、幼なじみだったよね……?」と、思わず問いかけたくなるほどのそっけなさ。むしろ、ただの同級生のほうがもっと気軽に話せるのではないか、とさえ感じてしまうほどです。
しかし、それもそのはず。彼女はきらめき高校の誰もが憧れるアイドル的存在なのです。
- 容姿端麗
- 成績優秀
- スポーツ万能
- 品行方正
- 誰にでも優しい
まさに、非の打ち所がない完璧な女性。当然、校内での人気も絶大です。
では、この「幼なじみ特権」が通用しない難攻不落の彼女を射止めるには、どうすればいいのでしょうか。
答えは一つ。寝ても覚めても「自分を磨く」、これに尽きます。
そもそも『ときメモ』の目的は、3年間の高校生活の中でステータスを上げ、意中の相手とデートやイベントを重ねてハートを掴み、卒業式の日に「伝説の木の下」で告白してもらうこと。多くのヒロインが登場しますが、彼女たちにはそれぞれ「好みのタイプ」があり、選んでもらうためには彼女たちが求める理想の男に近づく努力が欠かせません。
当然、詩織にも理想のステータスが設定されているのですが……これが、とんでもなく高いのです。
3年間、脇目も振らずに自分を磨き続け、ようやく攻略できるかどうかという難易度です。そのハードルの高さに「なんて仕打ちだ!」と膝をついたプレイヤーも少なくないでしょう。
しかし、足しげく彼女のもとに通い、努力を重ねて2年生になるころには、詩織も頬を赤らめてくれるようになります。「やった! これは脈ありだ!」と確信し、さらに頑張る主人公。誕生日を祝い、クリスマスにはロマンチックな時間を過ごし、バレンタインには恋する乙女の顔をした彼女からチョコを受け取る……。
3年生にもなれば、詩織のほうから頻繁にデートに誘ってくれるようになります。端から見れば、もう立派な恋人同士。ですが、ここで油断してステータス上げを怠ると、卒業式で彼女への想いは届かずに終わってしまうのです。
当然、伝説の木の下に彼女の姿はありません。とぼとぼと帰宅する道すがら、親友の早乙女好雄に出会い、二人で「女々しい野郎どもの詩」を歌うことになる切なさは、経験者にしか分かりません。まさに「乙女心と秋の空」を地で行く詩織ですが、そんな理不尽さえも、彼女の持つ抗いがたい魅力の一部なのかもしれません。
──今の時代から見れば、そのハードルの高さは驚くべきものかもしれません。しかし、幾多の困難を乗り越え、卒業式のあの「伝説の木の下」で彼女に再会できた瞬間の感動は、何物にも代えがたい特別なものでした。
藤崎詩織というヒロインは、たんに「攻略対象」という言葉では片付けられない、当時の私たちの青春そのものだったといえるでしょう。
たとえ一度は「女々しい野郎どもの詩」を歌うことになったとしても、また最初から自分を磨き直したくなる……。そんな不思議な魅力を持つ彼女と過ごした3年間を、時折思い出してみてはいかがでしょうか。
〈文/士隠カンナ〉
《士隠カンナ》
1990年〜2000年代に放送されたアニメに中学・高校の頃にどっぷりとハマり、その後フリー編集・ライターに。主にアニメ・漫画のムック本のブックライターといて活動中。最近のマイブームはもっぱら『ちいかわ』。
※サムネイル画像:Amazonより 『「ときめきメモリアル伝説の樹の下で」(出版社:KADOKAWA(メディアファクトリー) )』


