「上杉達也は浅倉南を愛しています。世界中のだれよりも」の告白から、南との関係はあれからどうなったのか、達也はストレートだけで通用するのかなど『タッチ』のその後が気になっている人は多いでしょう。この2人のアフターストーリーは1998年と2001年のテレビスペシャルで既に明らかになっており、破局の危機や挫折から1度やめていた野球を再び始めるなど2人の波乱万丈な人生が描かれています。
◆甲子園に優勝したあとの悲劇
達也は甲子園で優勝を果たしたのちに世間からの注目を集めますが、マスコミは和也の死をからめて美談にしようとします。いつまでも弟の死の影がつきまとい、自分を見てもらえない葛藤やケガもあって達也は野球から離れることになります。
1998年12月11日に放送された『タッチ Miss Lonely Yesterday あれから君は…』は、原作から3年後が舞台。達也と南がラブラブな生活を送っていると思いきや、あの告白は何だったのかというくらい2人の関係は燃え上がっていません。
その大きな理由として、達也の大学受験の失敗が挙げられます。南と同じ大学に進むために猛勉強して着実に成績が上がっていた達也でしたが、試験前日に溺れた犬を助けて風邪を引いてしまいました。
大切なときに自分のことなど考えず、迷わず助けに入るところは弟の和也と同じで実に達也らしいです。しかし、違う大学に通うことになって、南との距離感は微妙なものに……。
また、甲子園での連投がたたって1年間のドクターストップがかかっていたため、大学では野球からも離れることになりました。何より活躍しても、いつまでも死んだ和也の話題が持ち上がることに達也もモヤモヤするものがあったのでしょう。
ガソリンスタンドでバイトしたり、飲み会に参加したりと普通の大学生として過ごしていました。甲子園優勝や南への告白と絶頂の高校時代とは落差が激しい、鬱屈した毎日を送ることとなります。
◆すれ違う南との関係
受験に失敗したことで達也は南と違う大学に通うことになり、2人の関係も煮え切らず微妙なまま……。ここに達也に好意を持つ水野香織と、南を気にかける新田明男もからんで四角関係のような状況になってしまいます。
南は大学でも新体操を続けており、世界選手権で入賞するなど華やかながら忙しい毎日を送っていました。これによってすれ違うことが多くなり、さらに水野香織という達也に気がある女子大生が出現。
野球という夢中になれるものを失っていた達也は彼女とデートを繰り返すことになり、恋人のような関係になります。しかも、2人で一緒にいるところを南に見られてしまうことに……。
これによって達也の気持ちをはかりかねるようになった南に、彼女を気遣う新田明男が急接近。このままだと完全に破局ルートへ一直線という展開になってしまいます。
◆南の逆告白と達也を救った原田の一言
悶々とした大学生活を送っていた達也は、チベットから戻って来た原田正平の一言で救われます。また、南からの逆告白によってお互いの気持ちを再認識できたことで、達也は再び野球を始める決意をしました。
原田がかけた言葉は「上杉和也と関係ない野球をやればいいじゃねえか」です。これによってふっきれた達也は野球への想いが再燃、アメリカでプレイすることを目標にブランクを取り戻すべく高校時代のトレーニングメニューをこなします。
また、南は新田とキスする直前までいきますが、すんでのところで自分が本当に好きなのは達也であるという気持ちを再認識。彼女の気持ちを察した新田は、達也に南の新体操の大会を見に行くように勧める男前ぶりを見せます。
新田のフォローもあって、今度は南から「浅倉南は上杉達也を愛しています。世界中のだれよりも」と達也に告白。あのままではよくある自然消滅ルートでしたが、紆余曲折を経て2人の関係は落ち着くべきところに決着しました。
2人の言葉によって、足踏み状態だった大学生活から前に進めるようになった達也。自分が進むべき道を悟り、和也と関係ない野球をするためアメリカに渡る決意をしました。
大学を卒業してからのエピソードは、2001年2月9日に放送された『タッチ CROSS ROAD〜風のゆくえ〜』に描かれています。達也はアメリカのマイナーリーグで万年最下位の貧乏チームであるエメラルズに所属、南はカメラマンの助手をする道を選びました。
◆達也がプロでやっていくために覚えた変化球
ほぼストレートのみで明星学園を甲子園優勝に導いた達也が、変化球なしでプロでやっていけるのか気になっていた人も多いでしょう。達也が入団したエメラルズ消滅の危機を迎え、優勝をかけた最後の一戦で登板した達也は覚えた変化球で見事に打者を打ち取ります。
達也はエメラルズでのデビュー戦を完封勝利で飾り、そこからも順調に勝ち星を重ねていきました。しかし、リーグ1のスラッガーにホームランを打たれて、さすがにストレートのみの投球では限界があると悟ります。
そこで変化球を覚えるわけですが、エメラルズの50年ぶりの優勝がかかった最終戦でその成果が実を結ぶことになりました。1点を争う好ゲームで迎えるは50本以上ホームランを打っている強打者、一打逆転の最終局面。
ここで前日完投勝利している達也が登板、フォークボールを使ってしっかり試合をクローズさせます。投球の幅を広げる変化球としてフォークは定石ですし、その落差はストレートが速い達也にとって武器となるため納得のチョイスといったところでしょう。
優勝したことで資金調達の目処がたったエメラルズは消滅の危機を回避。達也の雄姿を写真におさめるべくスタンドで観戦していた南とも、お互い一緒にいることが大切だという気持ちを確かめ合ってハッピーエンドを迎えることになります。
原作で特別な強い絆で結ばれていると感じさせた達也と南が、大学生になってからは普通のカップルによく見られる恋愛事情を送っているのは意外です。逆に変化球については意外性がなく、達也がまず覚えるべきはフォークだと思っていた人も多いでしょう。
──『君の名は。』の立花瀧と宮水三葉など、2人のその後が気になる終わり方をする作品は多いです。しかし、ただただ幸せな日常を送るカップルでは、エンターテイメントとして成り立たず……。そのため、ストーリーをどのように展開させるかは難しいところもあるでしょうが、『タッチ』のようなアフタストーリーを見てみたいというのはファンの心理といえます。
〈文/諫山就〉
《諫山就》
アニメ・漫画・医療・金融に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。かつてはゲームプランナーとして『影牢II -Dark illusion-』などの開発に携わり、エンパワーヘルスケア株式会社にて医療コラムの執筆・構成・ディレクション業務に従事。サッカー・映画・グルメ・お笑いなども得意ジャンルで、現在YouTubeでコントシナリオも執筆中。X(旧Twitter)⇒@z0hJH0VTJP82488
※サムネイル画像:Amazonより 『「タッチ」完全復刻版 第11巻(出版社:小学館)』