Netflixに新たなウルトラマンが登場しました。6月14日より配信を開始したのは映画『Ultraman:Rising』。Netflixとウルトラマンの組み合わせといえば、漫画作品からの映像化を果たした『ULTRAMAN』シリーズの印象が強いですが、今回発表された『Ultraman:Rising』は日米合作で制作された3DCGアニメーション作品で、独自のウルトラマン作品として登場しています。
◆こんなウルトラマン有り?親の都合で正義の味方となった主人公
今回のウルトラマンはかなり特殊です。
主人公は野球界のスター選手であるサトウ・ケン。親がウルトラマンだったという経緯から、その野球選手という立場の裏でウルトラマンとなって人々を守るべく、怪獣との戦いを繰り広げているというキャラクターです。
“親がそうだったから”以上のウルトラマンとなった詳しい経緯などは描かれないので、そんなウルトラマンの設定が有りなのか、という驚きと共に、家系の都合で仕方なく正義の味方をしているという見え方が、出自によって進路が縛られてしまうという、現実的によくある問題とリンクしていて唸らせられる見立てとなっています。
だからなのかケンは物語の序盤ではあまりウルトラマンとしての活動にあまり意欲的ではなかったり、それどころか野球選手としての活動の方に興味を持っていたり、そのストレスのせいなのか周囲には悪態をついたりと、かなり人間味のあるキャラクターとして描かれています。
そもそもウルトラマンって宇宙人じゃないの? とか光の国からやってくるんじゃないの? 細かな設定にツッコミを入れたくなる人もいるかもしれませんが、最後まで見るとまったくそこを考えずに改変しているわけでもないであろうことは分かるだけに、いたずらに独自の設定にしているわけではないようなのですが、それにしても思い切った設定と言えます。
◆今回のウルトラマンは“子育てモノ”!?
主人公の設定から特殊なのに、今作はそこに輪をかけてストーリーがまた異色。
ヒーロー活動に意欲的ではないこのウルトラマンが、ひょんなことから怪獣の卵を保護してしまうのだから一大事。卵が孵って中から生まれてきた怪獣の赤ちゃんをウルトラマンが育てなくてはいけなくなる仰天のストーリーへとつながっていきます。
ウルトラマンで子育てを軸にした物語を展開するのかという内容にもはや「これはホントにウルトラマンなのか?」と不安になるところなのですが、これがまた見事なほどに前述のドラマとも合致していくのだから見事。
一時は野球選手・ヒーロー活動・怪獣の子育てという3つの顔にケンは疲弊していくのですが、そんな中で周囲の支援などを獲得していき、ケンの心境や怪獣の子供にまで変化が生まれていきます。
その様子が感動的に描かれるわけですが、ただの子育てドラマで終わらないのが素晴らしく、クライマックスにはウルトラマンらしいダイナミックなスケールの大きな戦いとケンと家族のドラマがリンクして、怒涛のラストへと収束していきます。
◆日米合作! 二人の監督によって生まれた映画だった!
『Ultraman:Rising』の監督はアメリカの人で、シャノン・ティンドル氏が務めています。ストップモーションアニメーション映画『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』の原案や、Netflixのドラマシリーズ『オリー』の脚本などを務めていた方で、『Ultraman Risinng』でも『オリー』の主人公であるウサギの人形・オリーがカメオ出演しているといった仕掛けも用意されています。
これまでの実績も踏まえると今作の出来栄えにも納得の実力者だと思うのですが、驚かされるのは、本作の舞台が日本であり、巨人や阪神といった実在のプロリーグが物語に取り入れられている点です。
“光の巨人”だからケンはジャイアンツ所属なのかな? といった遊び心を含め、そういった細かな文化まで物語に取り入れられるのかと疑問に思ったのですが、実は今回、シャノン監督に加えて共同監督として日本生まれ・アメリカ育ちであるジョン・アオシマ氏も制作に名を連ねています。
ジョン監督の出自はそのまま物語の主人公・ケンの境遇にも反映されていて、日本出身でありながらも日本人になりきれないというキャラクターはそのまま“異星人”という立場にも重なっていきます。
設定・物語・背景──いろんな視点から見応えのある『Ultraman:Rising』はウルトラマンが迎えるまさかの新境地となっています。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。FILMAGA、めるも、リアルサウンド映画部、映画ひとっとび、ムービーナーズなど現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。缶バッチ専門販売ネットショップ・カンバーバッチの運営やnoteでは『読むと“アニメ映画”知識が結構増えるラブレター』を配信中です。Twitter⇒@nejimakikoibumi
※サムネイル画像:YouTubeチャンネル『Netflix Japan』より