「暗黒武術会」に「魔界統一トーナメント」など、数々の強敵との死闘を描いた『幽☆遊☆白書』では、サイドストーリーや恋愛要素もさりげなく盛り込まれていました。
作中には、桑原など恋をするキャラクターが登場しましたが、それぞれの恋の行方は原作で語られた情報からある程度考察ができます。
◆飛影と軀は結ばれたのか!?
魔界三大妖怪の1人として君臨し、黄泉をも凌ぐ強さを誇っていた軀。登場時は顔を包帯で隠し、無数のお札を張っているという禍々しい見た目でしたが、素顔が美しい女性であったことは当時の読者を驚かせました。
飛影とは国王と部下という関係性でありながら、軀から互いの意識を共有するなど、特別な絆を感じる描写が多々ありました。
軀について『幽☆遊☆白書 公式キャラクターズブック 霊界紳士録』(2005年3月出版、出版社:集英社)によると、原作者の冨樫先生は「飛影が付き合うならどんな相手がいいだろうか、などと考えながらできたキャラ」と語っていることから、2人が恋仲であることは当初からの設定と考えられます。
飛影と軀が結ばれているのでは? と思える決定的な描写としては、雷禅が死に、幽助が黄泉の居城へと赴いたときのこと。2人が交戦になった場合、飛影が幽助につくだろと察し、「ちょっと幽助がうらやましい」とつぶやいたことが挙げられます。
もう一つは、コミックス19巻「SPECIAL DAY」で描かれた、軀の父親の痴皇との関係性についてでしょう。
軀は過去に痴皇から虐待を受けていましたが、彼が見せた気まぐれな優しさにより、彼との関係に決別できずに苦しんでいました。
しかし、飛影はその記憶が捏造であることを見破り、魔界植物のヒトモドキを寄生させた痴皇を誕生日プレゼントとして軀に送り、受け取った軀も穏やかに微笑むのでした。
いびつながら飛影の軀に対する愛情を強く感じるこのエピソードからも、2人は心の深いところで強く結ばれているものと考えられます。
◆蔵馬と喜多嶋麻弥の哀しすぎる結末
蔵馬についても、実は恋愛エピソードが描かれています。
コミックス7巻に収録されている特別読み切り・幽☆遊☆白書外伝「TWO SHOTS」では、蔵馬が中学生のころに飛影と出会い行動をともにするまでのエピソードが語られており、その中で喜多嶋麻弥というクラスメイトとの甘酸っぱい恋愛要素も盛り込まれていました。
当時、まだ妖怪としては弱小だった蔵馬は、喜多嶋麻弥から告白されるものの「言えないよ……」「本当の気持ちを伝えれば……必ず危険に巻き込むことになる」という想いから、彼女の告白を断ります。
その後、妖怪・八つ手に捕らえられた喜多嶋を、蔵馬は飛影と協力して何とか救出したものの、これ以上彼女に迷惑をかけまいと夢幻花の花粉を用いて麻弥の「蔵馬への想い」を抹消したのでした。
告白を断るときの心の声から、蔵馬も喜多嶋に好意を持っていたようですが、正体が妖怪であるため彼女の安全を想って拒絶するという結末は、何ともやるせないものでした。
その後の喜多嶋については描かれていませんが、妖怪でありながら人間としての情に厚い蔵馬ならではの、哀しくも切ない恋の結末となりました。
◆幽助と螢子の恋の行方は?
物語の序盤から幼馴染であり恋人として(?)描かれていた幽助と螢子でしたが「魔界の扉編」終了後、関係性に転機が訪れています。
仙水との戦いで魔族の力に覚醒した幽助は、真の父・雷禅の部下から魔界への招待を受け、誘いを受ける決心をし、その意志を螢子に伝えます。それを聞いた螢子は、幽助への気持ちに決着をつけ、別れを告げるのでした。
しかし、その後すぐさま幽助からプロポーズし、3年の期限つきで帰ってくると約束し、螢子は待つことに。1.5年で帰還した幽助は屋台でラーメン屋を開業。2人の関係は元に戻ったように思われます。
コミックス19巻「のるか そるか」の3つのスイッチの選択を間違えると一巻の終わりという場面で、幽助は螢子の好きな色の青色を選択して無事生還。そのことを最終話で桑原にバラされますが、幽助と螢子は浜辺ではしゃぐ微笑ましい最後となりました。
ちなみに、魔界編序盤で幽助は人間としては死亡し、妖怪として覚醒して生き返ったことも螢子に打ち明けています。それを知ったうえで交際関係を継続していることから、このまま2人の関係がうまくいけば、2人の間には人間と妖怪の混血である子が誕生し、人間と妖怪の架け橋的な存在になるかもしれません。
◆純粋無垢な桑原と雪菜の愛……
不器用ながら男気に溢れ、勝負にも恋愛にも筋を通すタイプの桑原。「暗黒武術会編」の冒頭で飛影の双子の妹である雪菜に一目惚れし、その後もずっと一途に彼女を想い続けました。
そして、魔界統一トーナメント終了後は幽助の手引きもあり、桑原家に雪菜を住まわせることになり、幽助が開業したラーメン屋の屋台へも、2人揃ってカジュアルな恰好で顔を見せに行っています。
雪菜も桑原に対して好意的ではあるものの、恋愛感情について鈍感なのか桑原からの求愛について明確に応じる描写はありませんでした。しかし、2人の関係において最大の難関となるのが、雪菜の出自でしょう。
雪菜は氷河の国の出身の「氷女」で、異種族と交われば命を落とすという悲しい定めの種族です。
桑原がその事実を知っているのかどうかは定かではありませんが、この事実によって2人の心の距離が縮まろうとも、結ばれることは叶わない禁断の愛となります。
何事に対しても真面目で一生懸命な桑原であれば、純粋無垢な雪菜とは、たとえ彼女と交われなくてもプラトニックな関係を継続させていくでしょう。あるいは、氷女の哀しい定めを変える手段を必死で模索するかもしれません。
──恋愛漫画によくある幼馴染から恋人に発展するパターンから、飛影と軀のように猟奇的な恋愛関係まで、さまざまな愛の形が描かれた『幽☆遊☆白書』。
どれも妖怪と人間、あるいは妖怪同士の関係ながら、人間同士以上に心の描写が緻密なのも、この漫画の不思議な魅力なのかもしれません。
〈文/lite4s〉
《lite4s》
Webライター。『まいじつ』でエンタメ記事、『Selectra(セレクトラ)』にてサスペンス映画、韓国映画などの紹介記事の執筆経験を経て、現在は1980~90年代の少年漫画黄金期のタイトルを中心に、名作からニッチ作品まで深く考察するライター業に専念。 ホラー、サスペンス映画鑑賞が趣味であり、感動ものよりバッドエンド作品を好む。ブロガー、個人投資家としても活動中。
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