オカルトコメディ漫画から格闘バトル漫画へと路線変更し、大幅に内容を省略するような形で連載が終了した『幽☆遊☆白書』ですが、回収されなかった伏線や設定の歪みが多く残されています。
◆妖狐・蔵馬は空白の900年余り何をしていた?
魔界で大盗賊と恐れられた妖狐・蔵馬ですが、その過去には大きな謎が残っています。
蔵馬は「15年前に霊界のハンターに重症を負わされ霊体の状態で人間界に逃亡し、人間である南野秀一の胎児に憑依融合した」という設定になっていますが、蔵馬がかつての黄泉たちを率いて魔界で盗賊をしていたのは1000年ほど前とされています。
黄泉が魔界に蔵馬を呼び寄せ、昔話をしていた中で雷禅と軀の二大勢力がのさばる魔界を見限り、人間界に拠点を移したことが明かされていますが、その期間の描写はなく具体的に何をしていたのかは明かされていません。
黄泉が明かした内容から、魔界で覇権を掴むことが難しいと見越した蔵馬は、それを求めて人間界へやってきたものの、霊界の支配下である人間界でも思うような成果が得られず、最終的に霊界のハンターに追い詰められることになった……ということなのかもしれません。
しかし、魔界に早々に見切りをつけるほど先見の明がある蔵馬が、なぜ最終的にそこまで900年以上も人間界にこだわり、人間に憑依融合しなければならないほどの重症を負うことになったのかは、冷静沈着な彼の最大の謎といえるでしょう。
◆飛影はなぜ「変身」しなくなったのか?
飛影といえば、幽助の仲間でありながら、影があり狂気を秘めたミステリアスな存在ですが、コミックス7巻、12巻で行われたキャラクター人気投票では2連覇を達成するなど、非常に人気の高いキャラクターです。
そんな飛影ですが、元は幽助の前に敵として登場し、のちの「四聖獣編」でコエンマから人間界での罪の軽減を条件として幽助たちに協力することになりました。
邪王炎殺拳を習得してからは、剣術との二本柱での戦闘スタイルが定番となりましたが、幽助と最初に対峙したときに見せた「変身」の能力をその後見せることはありませんでした。
体中に無数の目が開き、肌の色は緑色に変色……まるで水木しげる先生が描く妖怪・百目のような見た目ですが、その効果は見た目に反してパワーが増強される程度と少々インパクトに欠けるものでした。
飛影が変身を使わなくなった最大の理由としては、キャラの大幅な路線変更が考えられます。
『幽☆遊☆白書 公式キャラクターズブック 霊界紳士録』(2005年3月出版、出版社:集英社)によれば、元々飛影は仲間にする予定はなく、蔵馬のみが仲間になる予定だったそうです。
しかし、当時の編集担当・髙橋氏から「こっちじゃない?」と飛影を指摘され、仲間入りさせることにしたと2016年8月に発売された『ジャンプGIGA VOL.2』の「冨樫義博×岸本斉史SP対談」で明かしています。
主人公の仲間として、変身後の容姿が相応しくないとテコ入れされ、邪王炎殺拳など新たな能力が登場したと考えられます。
◆鴉の「支配者級」、武威の「武装闘気」とは何だったのか?
暗黒武術会の優勝候補として登場し、浦飯チームと決勝で当たるまで他のチームをものともしない圧倒的強さを誇った戸愚呂チームの鴉と武威。最終的には2人とも蔵馬、飛影と対戦して敗れます(蔵馬は先にダウン判定で負け)が、彼らの能力については未回収の伏線となっています。
闘いの中で変身した妖狐・蔵馬によって、鴉は「支配者級」(クエストクラス)という階級にあたる妖怪であることが明かされました。ところが、その後の物語の中で同階級の妖怪はおろか、「支配者級」という言葉さえ登場することはありませんでした。
同じく戸愚呂チームの武威は、強大な妖力を持っており自らの力を抑えるために鎧を纏っていました。飛影との戦いの中で鎧を脱いで力を解放しましたが、その力は「武装闘気」(バトルオーラ)であることが蔵馬によって明かされました。
似たものでは「魔界の扉編」で仙水が見せた「聖光気」がありますが、これは妖力ではないため別もの。鴉の「支配者級」と同じくその後の登場はありませんでした。
しかし、「魔界編」でも、妖怪たちが戦いの中でオーラのようなものを纏うシーンがあるため、実際は「武装闘気」は登場していた可能性もあります。また、「支配者級」についても同様に説明がないだけで登場していた可能性もありそうです。
◆最期まで謎に包まれていた「BBC・左京の本名」、アニオリの「桑原静流との関係」
「暗黒武術会編」の戸愚呂チームの大将兼オーナーであり、闇の組織BBC(ブラックブラッククラブ)のメンバーでもある左京。生い立ちについて自ら語る場面がわずかに描かれたものの、その多くは謎に包まれています。
まず「左京」というのは苗字なのかファーストネームなのか? あるいはどちらでもなく偽名なのかさえ謎のままです。
彼の名前に関する数少ない描写がTVアニメで描かれていました。アニオリ設定となりますが、桑原の姉・静流が暗黒武術会の会場で妖怪に襲われたところを左京に助けられたことで好意を持ち、最期に左京は自分のライターを静流に渡すというシーンがあります。
ライターには「S・N」とイニシャルが刻まれていたことから、左京は本名でファーストネームであった可能性が高いと考えられます。
ちなみに『幽☆遊☆白書 公式キャラクターズブック 霊界紳士録』によると、冨樫先生は彼の名前に「きょう」という音を入れたいという希望があり「左京」になったと明かしています。
──さまざまな事情により、当初の構想通りには描かれず、ある意味不完全な形で終わりを迎えた『幽☆遊☆白書』。
読者に考察する余地を多く残した「謎」や「疑問」も、この漫画の不思議な魅力の一つなのかもしれません。
〈文/lite4s〉
《lite4s》
Webライター。『まいじつ』でエンタメ記事、『Selectra(セレクトラ)』にてサスペンス映画、韓国映画などの紹介記事の執筆経験を経て、現在は1980~90年代の少年漫画黄金期のタイトルを中心に、名作からニッチ作品まで深く考察するライター業に専念。 ホラー、サスペンス映画鑑賞が趣味であり、感動ものよりバッドエンド作品を好む。ブロガー、個人投資家としても活動中。
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