今なお高い人気を誇り、舞台化や実写化作品が制作されている『幽☆遊☆白書』。原作は1990年から1994年まで連載され、TVアニメは1992年から1995年にわたって放送されました。

 まだまだコンプライアンスが大らかな時代でしたが、当時でも放送できなかった描写や、今では絶対放送できないトンデモ設定が多く存在しています。

◆幽助の素行の悪さは現代では完全にアウトなレベル

 主人公の浦飯幽助は不良中学生という設定ですが、細かい設定を見ていくと、どう考えても現代のコンプライアンス的にはそのまま放送できる内容ではありません。

 ケンカが規格外に強く、学内でも暴力沙汰で問題を起こしているところまでは理解が及ぶ範疇ですが、同級生からカツアゲで金を巻き上げたり、学内ではすでに複数のヤクザからスカウトされているという噂が囁かれるなど、生々しい描写がいくつもあります。

 中学生でありながら当たり前のようにタバコをふかす場面が何度も登場したり、幼児に殴りかかる場面もある(実際は既に霊体で空振り)など、かなり傍若無人な人物として描かれています。

 霊界案内人・ぼたんの情報によると、未成年でありながらお酒を嗜み、万引きや賭博の常習犯で補導歴もあるとのこと。

 車にひかれそうになった男の子を救ったことから、正義感を持った真っ当な少年としてその後のストーリーは展開していきますが、よくよく考えると現代のTVアニメ放送は絶対にNGな設定だといえるでしょう。

 また、母・温子についても、ヤクザとの繋がりを示唆する描写や、年齢設定が29歳(逆算すると幽助を15歳で出産)であることなど、家族設定についても現代にTVアニメ放送するのであれば、少々変更する必要がありそうです。

◆主人公が彼女の下着を売っていた!?

 幽助は幼馴染である雪村螢子と相思相愛の仲ですが、「魔界編」終了後のコミックス19巻「探偵業復活」では、螢子が通う学校の学生寮に関する依頼に幽助たちが霊界探偵として対応することになります。

 問題解決したにも関わらず、報酬を支払わない依頼人である螢子に腹を立てた幽助は、探偵料代わりとばかりに螢子の制服を売り払い、その代金10万円を懐に納めていたのでした。

 原作では、事実を知った螢子がバットを持って幽助を追いかけるコミカルな1コマで描かれましたが、現代では完全にNGな内容でしょう。

 さらに、次の1コマでは制服を着て「あたしもまだまだ」と、まんざらでもないと言わんばかりの幽助の母・温子が描かれるなどカオス状態……90年代当時だからこそ許された、人気少年漫画では考えられないトンデモ設定だといえます。

◆実際見たら誰でも仙水のようになる? 人間の“闇”を記録したビデオテープ「黒の章」

「魔界の扉編」の首謀者であり、元霊界探偵の仙水忍が人間を憎み、魔界トンネルを開ける計画立案のきっかけにもなった、人間の陰の部分を示した犯罪録「黒の章」。

 このビデオテープに納められた内容が具体的に描かれることはありませんでしたが、収録内容に不随する仙水が霊界探偵を辞めるきっかけとなった事件は、かなりショッキングなものでした。

「暗黒武術会編」では戸愚呂チームの大将兼オーナーだった左京が、秘密裏に妖怪の取引きをしている別荘へと駆け付けた仙水が目撃した現場のシーンはまさに地獄絵図そのもの。力のない妖怪たちが暴力に快楽を感じる人間によって痛めつけられ、妖怪たちは涙を流し、人間たちは薄ら笑いを浮かべていました。

 このシーンは、当時のTVアニメでもそのまま放送できず、かなりぼんやりとした描写に変更されており、人間が妖怪を弄んでいたという事実だけが分かる内容になっていました。現代でも、とうていそのまま放送するのは不可能でしょう。

「黒の章」にはこのようなシーンばかりが何万時間も収録されていると語られていますが、想像するだけで気分を害する人も多いのではないでしょうか。まさに「黒の章」は『幽☆遊☆白書』のダークな一面の象徴ともいえる存在でしょう。

 仙水は「黒の章」を見て価値観が逆転し、霊界探偵を辞めました。一歩間違えていたら、幽助や桑原も同じ結末を辿っていたかもしれません。

◆連載当時でも原作通り放送されなかった! 軀の壮絶な生い立ち

 魔界で最大級の勢力を誇っていたS級妖怪の軀について、原作でその生い立ちが描かれましたが、内容はあまりにも壮絶なものでした。

 軀は、産まれて間もなく父・痴皇から虐待を受けはじめ、欲望を満たす目的で体を改造までされています。

 生き地獄のような日々から逃れるために、自ら酸を浴びて父の興味を削ぐという苦肉の策で自由を手にしましたが、そのせいで右半身は筋肉組織が露呈し、まるでゾンビのような見た目に……。右目は眼球がむき出しになっており、本来は美人な女性であった彼女は、見た目も過去のエピソードもかなりキワドい設定となっていました。

 そのため、当時のTVアニメ放送でも、父から虐待を受けていたことは「囚われの身」という少々ぼかした内容に変更され、右目についても怪盗ルパンのようなレンズに変更されています。

 1994年に発行された同人誌「幽遊白書終了記念 ヨシりんでポン!」では、軀は原作者・冨樫先生のお気に入りのキャラクターの一人で、彼女の過去をもっと詳しく描きたかったと明かされていますが、もしかすると描かれることのなかった設定もTVアニメでは放送できる内容ではなかったかもしれません……

 軀は冨樫先生が描くダークな世界観を象徴するキャラクターの1人だったといえるでしょう。

 

──王道の少年漫画でありながら、アブない雰囲気と狂気をはらんだ異色の作品『幽☆遊☆白書』。振り切ったトンデモ設定や許されるギリギリの描写こそが、この漫画を人気作にした所以の一つなのかもしれません。

〈文/lite4s〉

《lite4s》

Webライター。『まいじつ』でエンタメ記事、『Selectra(セレクトラ)』にてサスペンス映画、韓国映画などの紹介記事の執筆経験を経て、現在は1980~90年代の少年漫画黄金期のタイトルを中心に、名作からニッチ作品まで深く考察するライター業に専念。 ホラー、サスペンス映画鑑賞が趣味であり、感動ものよりバッドエンド作品を好む。ブロガー、個人投資家としても活動中。

 

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