飛影には、物語の表舞台では語られなかった謎が数多く残されています。彼がなぜ極秘映像とされる「黒の章」を欲していたのか、その裏にはたんなる興味以上の動機が隠されていたのかもしれません。そして、妹とされる雪菜との関係もまた、作中の描写や設定を改めて振り返ると矛盾が浮かび上がります。飛影の行動や言葉に秘められた真意を探ることで、彼というキャラクターの奥深さが一層際立ってきます。
◆飛影が「黒の章」を欲しがっていた本当の理由
飛影は「黒の章」を欲しがっていましたが、なぜ彼は極秘ビデオテープを求めていたのでしょうか?
●「黒の章」には雪菜の手がかりが隠されていた?
「黒の章」は霊界の巨大資料館に収められている極秘ビデオテープで、人間の陰を記録したものといわれています。仙水忍が仲間を募る際に利用したことを考えると、人間の残虐で非道な行為が録画されていたと考えて間違いないでしょう。
そんなテープをなぜ飛影が欲しがっていたのかについては、原作では明かされていません。その動機として考えられる理由は大きく二つあります。
まず一つは、飛影が盗賊だったからです。忘れられがちですが、飛影は邪眼師になる前はもともと魔界でも高名な盗賊でした。
盗賊は主に金品や価値のあるものを強奪する存在で、実際に飛影も霊界から「闇の三大秘宝」と呼ばれる価値のありそうなものを盗んでいました。魔界にも氷泪石や瑠璃丸など、価値のある宝が描写されているので、飛影はこれらに類する高級品を盗む盗賊だったと考えられます。
しかし、「黒の章」の価値がそれらと同等のものだったかといわれると、いささか疑問符がつきます。そこで二つ目に考えられるのが、妹・雪菜の手がかりを探すための手段です。そもそも第126話で「黒の章」の話題が出たときに蔵馬が「飛影が欲しがってました」と言い添えていましたが、それはいつごろの話だったのでしょうか?
過去形であることから、二人が出会ったころ、もしくは剛鬼とチームを組んでいたころだと考えるのが自然でしょう。ジャンプコミックス7巻に収録されている特別読切「TWO SHOTS」で二人の出会いが描かれています。ここで描かれている通り、当時の飛影は人間界で行方不明になった雪菜を探していました。
しかし、なんの痕跡も見つけられなかったため、氷女の噂を手当たり次第に探っている様子が見てとれます。つまり、人間が妖怪を捕まえて非道な行いを記録していた「黒の章」に、雪菜の手がかりを求めても不思議ではないのです。
そして第153話で、飛影は寝ている間に人間界に連れ戻されています。その際、手元に「黒の章」らしきテープがありましたが、飛影はあまり嬉しそうにしていませんでした。さらに、TVアニメ版では飛影は「黒の章」を斬り捨てています。
つまり、飛影にとってテープの価値は低くなったと捉えられます。そう考えると、やはり雪菜の捜索のために「黒の章」を欲していたのかもしれません。
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◆飛影と雪菜は「兄妹じゃない?」
双子の兄妹として描かれた飛影と雪菜ですが、彼らの出自をあらためて振り返ってみると、大きな矛盾が生じます。
もしかすると、2人は兄妹ではないのか? あるいは、出生の過程で何らかの手違いがあり、兄妹として育った可能性があるかもしれません。
●飛影の「母親がちがう」発言は……
コミックス6巻の「強くなりたい!! の巻」の冒頭、幽助はぼたんとの会話の中で飛影の発言を回想しますが、そこで飛影は「雪菜はオレを知らん これからも知る必要もない」「もともと母親がちがうし 氷女は氷河の国から出ないでくらすしきたりがあるからな」と発言しています。
生まれる前から耳が聞こえ、氷河の国の長老らしき老婆と氷菜の親友・泪らの会話の内容を理解していた飛影が誤った情報を語るとは考えにくく、この発言は双子説を否定する有力な根拠となり得ます。また、飛影は邪眼の能力「千里眼」によって氷河の国を偵察していたことも根拠の一つです。
しかし、この発言はミスであったことがのちに原作者の冨樫先生から明かされました。完全版の重版では、「もともと母親がちがう」という発言は削除されています。
ですが、まだ矛盾は残っています。通常分裂期に女児を1人産み落とし、異種族の男性と交われば子供はすべて男児になるという氷女の生態を考慮すると、飛影らのように男女の兄妹が産まれるためには、異なる分裂期にそれぞれ出産された場合しかありえないはずです。
また、氷女には、異種族の男性と交わって身ごもった子を出産した場合、産後に命を落とすという設定もあるため、仮に二人が氷菜の子であるなら、「雪菜が長女、飛影が弟」という兄妹構成しかありえないはずです。
●少なくとも双子説はありえない? 実は雪菜が「突然変異」だった?
兄妹である可能性は残されているものの、「双子」であるという点には矛盾があります。
氷女は通常一度の分裂期に1人しか子を産みません。また、異種族の男性との間に産まれるのは男児のみです。雪菜が女児である以上、飛影と同時に生まれたとするならば、これらの設定を覆すことになります。
さまざまな矛盾点を考慮すると、飛影と雪菜が双子の兄妹であったという認識は誤りか、あるいはただの勘違いだったと考えるほうが自然でしょう。
可能性として残るのは、飛影と雪菜の兄妹が、氷河の国はじまって以来の「突然変異」だったという解釈です。下界との交流がなく、閉鎖的な環境である氷河の国は、まだ知られていない要因によって、飛影らのような双子や、男女の兄妹が産まれるケースもありえるのかもしれません。
詳しく読む⇒飛影と雪菜は「兄妹じゃない」かも? 『幽☆遊☆白書』 双子説に生じる矛盾、氷泪石の本当の目的とは?【考察】
〈文/アニギャラ☆REW編集部〉
※サムネイル画像:Amazonより 『「幽☆遊☆白書」完全版 第6巻(出版社:集英社)』