原作の連載終了から30年が経過した『幽☆遊☆白書』は、不気味なキャラクターや陰と陽をあわせ持つストーリーが特徴ですが、中には「まさか」の設定や、今なお疑問が残る展開も数多く存在します。
◆魔界は電話がつながる?
仙水によって開通した魔界トンネルにより、人間界と魔界の往来が可能となった「魔界統一トーナメント編」では、三つ巴となっていた三国の王である雷禅、軀、黄泉それぞれから招待を受け、幽助、飛影、蔵馬は魔界へと赴きます。
蔵馬は再婚した母親に8月いっぱいかけての新婚旅行をプレゼントし、その間の1ヵ月間だけという条件で黄泉からの誘いを受け、参謀として戦線に加わりました。
魔界都市・癌陀羅(がんだら)にある黄泉の居城にて、屋外の風景を眺めながら蔵馬は誰かと魔界の通信機器らしき物で会話している描写がありますが、なんと旅先の母親からの電話を魔界で受けて平然と会話を楽しんでいました。
魔界に電話回線が引かれていたのか、人間界の通信電波を何かしらの方法で傍受していたのかは不明ですが、蔵馬からではなく母親からのコールを魔界で受けた事実から、南野家の固定電話の着信を転送できる術を魔界は持っていたということになります。
携帯電話がまだ普及する前であることを加味すると、現代で考える以上に不可解な設定だったといえます。魔界は人間界よりも優れた科学技術を持っていたのかもしれません。
◆幽助の「妖怪モード」はなぜ発動しなくなった?
仙水との闘いの中で死亡した幽助は、魔族・雷禅の子孫であったことから魔族大隔世により妖怪として命を得て復活しました。
厳密にいうと、死亡したときに止まった心臓の代わりに、魔族の心臓である「核」によって生命活動を行うことになりました。
復活後、仙水と桑原らが交戦中の魔界へ駆けつけ幽助も戦線に参加。雷禅が幽助の妖気に干渉したことにより魔族としての力が覚醒し、髪は足先近くまで伸び、体には刺青のような模様が浮かび上がった、まさに闘神・雷禅のごとき姿へと変貌しました。
雷禅の妖気への干渉は一瞬のことですぐに我に返った幽助でしたが、その後も姿は元に戻らず、そのままの状態で人間界へと帰還。幽助の回想によると「髪は蔵馬に切ってもらい 体の模様は寝て起きたら消えていた」と語られており、当時は自身で姿をコントロールすることはできませんでした。
アニメ放送の魔界統一トーナメントで黄泉と対戦したときは、一時的にいわゆる「妖怪モード」の姿になり体に模様が浮かび上がったものの、髪が伸びることはなく、模様も途中で消えていました。
原作で明確な説明はなかったものの、蔵馬が強くなるにつれて南野秀一の姿のままでも妖狐の力を出せるようになっていった例から、幽助も修行により強くなる過程で姿をコントロールできるようになっていたのかもしれません。
◆飛影は人間を食べていた?
食人鬼の一種である雷禅に限らず、彼の配下である北神たちや、ライバル関係にある軀や黄泉、八つ手など、人間をエネルギー源としていた妖怪は数多くおり、かつて飛影と蔵馬が行動をともにしていた剛鬼のように魂のみを喰らう妖怪も存在していました。
蔵馬は南野秀一の肉体を借りていることから食事は人間と同じです。一方、純粋な妖怪である飛影は人間を食べていたのか? という疑問が残りますが、答えは「NO」です。
1997年1月にリリースされたサウンドトラック『幽☆遊☆白書ミュージックバトル編2』(レーベル:ポニーキャニオン)に収録されていたスペシャルミニドラマ「戦士の空腹」で、幽助たち一行は食事に行くことになりますが「何を食べるか?」で揉めるシーンがあります。
幽助は中華、桑原は和食などそれぞれが食べたいものを提案しますが、飛影は食べに行きたいものを問われ「……もんじゃ焼き」と答えています。
さらに、飛影の初登場時の霊界データによると、剛鬼が「前科十二犯」「魂を食う鬼」と説明があったのに対し、飛影は「前科なし」であった点からも、人間界で常習的に人間を捕食していた事実はなさそうです。
飛影がかつて魔界ではどのような食事をしていたのかは不明ですが、人間と同じく雑食であり、たまたま人間界の食べ物が口に合う体質だったのかもしれません。
◆雷禅は実は死なずにすんだ?
妖怪がまだ人間界でやりたい放題をしていた時代に食べたいだけ人間を食べ、自身の妖力を高めていた闘神・雷禅は、食脱医師(くだくすし)の人間の女性に一目惚れし、それ以降は「人を食うまい」と誓って700年もの断食の末餓死しました。
同じく配下であった北神や東王、軀、黄泉らも「人間を食するタイプの妖怪」だと語られましたが、魔界統一トーナメントで優勝した煙鬼が打ち出した「人間界に迷惑をかけないこと」という方針に大会後は大人しく従い、魔界に迷い込んだ人間を保護して送り返しています。
また、幻海のもとで修業していた酎たちは、強くなるために食べさせられていた薬草に文句を言っていたことから、好んで口にしない食材でも妖怪にとって力になる物があることも分かっています。
このことから人間を食するタイプの妖怪が、別の食事に置き換えても死ぬことはなく、必要なエネルギーを摂取でき、かつ強くなることすら可能だと証明されました。
雷禅は突然変異の食人鬼の一種という、とりわけ人間のみを糧として生きていた種族のようですが、言い換えればそれ以外の食糧を口にした経験もなかったのでしょう。
人間界で活動していた飛影や、人間界との調和を提唱した雷禅の旧友である煙鬼たちのように、柔軟な姿勢で食事にも向き合っていれば、もしかすると体質に合う食糧が見つかり、餓死することもなかったのかもしれません。
──多くの人から人気を集めたにもかかわらず、原作コミックは全19巻と比較的短い連載だった『幽☆遊☆白書』では、十分な説明がないまま、謎として残された設定が多く存在します。
さまざまな媒体や原作の細かい描写から謎を解くヒントが得られるのも、原作者・冨樫義博先生が張っていた巧みな伏線なのかもしれません。
〈文/lite4s〉
《lite4s》
Webライター。『まいじつ』でエンタメ記事、『Selectra(セレクトラ)』にてサスペンス映画、韓国映画などの紹介記事の執筆経験を経て、現在は1980~90年代の少年漫画黄金期のタイトルを中心に、名作からニッチ作品まで深く考察するライター業に専念。 ホラー、サスペンス映画鑑賞が趣味であり、感動ものよりバッドエンド作品を好む。ブロガー、個人投資家としても活動中。
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