双子の兄妹として描かれた飛影と雪菜ですが、彼らの出自をあらためて振り返ってみると、大きな矛盾が生じます。

 もしかすると、2人は兄妹ではないのか? あるいは、出生の過程で何らかの手違いがあり、兄妹として育った可能性があるかもしれません。

◆飛影と雪菜の故郷「氷河の国の掟」と「氷女の生態」 

 飛影の出自が詳しく描かれたのは、原作の最終章となる「魔界編」です。

 飛影らの故郷は、魔界の上空にある厚い雲に覆われ、下界との交流をさけて漂流する流浪の国「氷河の国」。

 氷河の国は「氷女」といわれる女性のみの種族で構成され、100年周期の分裂期に誰の力も借りずに1人の女の子を産むという特殊な生態を持ちます。産まれた子供は氷女にとって、いわば自身の分身のような存在となります。

 しかし、氷女が異種族の男性と交わった場合、産まれるのは雄性側の性質を受け継ぐ男児のみで、凶悪で残忍な性格を有する例が極めて多いともいわれています。

 飛影らの母親・氷菜が異種族の男性と関係をもったことで飛影は誕生し、一族に災いをもたらす「忌み子」として氷河の国から地上に投げ落とされたため、兄妹は生き別れてしまったとされていました。

 しかし、これらの設定と、それ以前に語られた情報をもとに考えると、飛影と雪菜の「双子の兄妹説」には疑問が生じます。

◆飛影の「母親がちがう」発言は……

 コミックス6巻の「強くなりたい!! の巻」の冒頭、幽助はぼたんとの会話の中で飛影の発言を回想しますが、そこで飛影は「雪菜はオレを知らん これからも知る必要もない」「もともと母親がちがうし 氷女は氷河の国から出ないでくらすしきたりがあるからな」と発言しています。

 生まれる前から耳が聞こえ、氷河の国の長老らしき老婆と氷菜の親友・泪らの会話の内容を理解していた飛影が誤った情報を語るとは考えにくく、この発言は双子説を否定する有力な根拠となり得ます。また、飛影は邪眼の能力「千里眼」によって氷河の国を偵察していたことも根拠の一つです。

 しかし、この発言はミスであったことがのちに原作者の冨樫先生から明かされました。完全版の重版では、「もともと母親がちがう」という発言は削除されています。

 ですが、まだ矛盾は残っています。通常分裂期に女児を1人産み落とし、異種族の男性と交われば子供はすべて男児になるという氷女の生態を考慮すると、飛影らのように男女の兄妹が産まれるためには、異なる分裂期にそれぞれ出産された場合しかありえないはずです。

 また、氷女には、異種族の男性と交わって身ごもった子を出産した場合、産後に命を落とすという設定もあるため、仮に二人が氷菜の子であるなら、「雪菜が長女、飛影が弟」という兄妹構成しかありえないはずです。

◆少なくとも双子説はありえない? 実は雪菜が「突然変異」だった?

 兄妹である可能性は残されているものの、「双子」であるという点には矛盾があります。

 氷女は通常一度の分裂期に1人しか子を産みません。また、異種族の男性との間に産まれるのは男児のみです。雪菜が女児である以上、飛影と同時に生まれたとするならば、これらの設定を覆すことになります。

 さまざまな矛盾点を考慮すると、飛影と雪菜が双子の兄妹であったという認識は誤りか、あるいはただの勘違いだったと考えるほうが自然でしょう。

 可能性として残るのは、飛影と雪菜の兄妹が、氷河の国はじまって以来の「突然変異」だったという解釈です。下界との交流がなく、閉鎖的な環境である氷河の国は、まだ知られていない要因によって、飛影らのような双子や、男女の兄妹が産まれるケースもありえるのかもしれません。

◆ここで「氷泪石」の本当の存在意義が明らかに……!?

 飛影と雪菜が突然変異による兄妹と仮定すると、彼らが母親から授けられた「氷泪石」の本当の目的が浮かび上がってきます。

 氷泪石は、氷女が出産時にこぼす一粒の涙が結晶となったもので、生まれた子に与えられます。

 飛影が過去に落としてしまった自身の氷泪石は、貢ぎ物として軀に贈られ、彼女が長年、腹の中に隠していたことが明らかになりました。

 壮絶な過去をもつ軀は「不思議な石だな 憎しみを全て吸いとってくれるような力を感じる」と語っており、飛影も過去に故郷への憎しみを氷泪石によって浄化されていたことが描かれています。

 また、過去に氷河の国で生まれた「忌み子」によって、何人もの同胞の命が奪われた歴史が語られました。飛影が捨てられたのもそのためでした。

 この点を深く考察すると、氷泪石はまれに生まれる可能性のある男児(忌み子)の凶暴性を抑制するための「安全装置」としての役割を持っていたのではないでしょうか。仮に氷泪石に「憎しみを吸いとる力」があるなら、一族への被害の軽減が期待できます。

 事実、復讐を糧に生きていた飛影も、氷泪石の力によって憎しみを失い、氷河の国に乗り込んだとき復讐を思いとどまりました。

 このように考えると、氷女の生態における例外である「双子の兄妹」の誕生、氷泪石の存在意義が納得できるでしょう。

 

 ──氷河の国はじまって以来の双子の兄妹として生まれたとされる飛影と雪菜。彼らの出自には大きな矛盾が残されていますが、真相はいまだに明らかになっていません。

 氷河の国の過去や氷女の生態には、語られなかった真実がまだまだ隠されているのかもしれません。

〈文/lite4s〉

《lite4s》

Webライター。『まいじつ』でエンタメ記事、『Selectra(セレクトラ)』にてサスペンス映画、韓国映画などの紹介記事の執筆経験を経て、現在は1980~90年代の少年漫画黄金期のタイトルを中心に、名作からニッチ作品まで深く考察するライター業に専念。 ホラー、サスペンス映画鑑賞が趣味であり、感動ものよりバッドエンド作品を好む。ブロガー、個人投資家としても活動中。

 

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