免罪の条件に浦飯幽助に加担させられた飛影。そんな飛影と霊界の関係は、いわば罪人と司法機関のようなものです。作中では、両者の関係がフォーカスして描かれることはほとんどありませんでした。しかし、読み返してみると飛影は霊界の闇に大きく関わっていたのかもしれません。

◆飛影の性格改変の黒幕はまさかの「霊界」?

 飛影といえば寡黙でクールな性格が印象に残っている人も多いでしょう。しかし、登場当初はかなりのおしゃべりで高笑いまでする真逆の性格をしていました。さらに戦い方も、雪村螢子を人質にとるなど卑怯な真似をしており「これぞ悪役」といった立ち回りをしています。

 SNSなどでよくネタにされている、いわゆる飛影のキャラ改変はなぜ起きたのでしょうか? 実はそのヒントが第170話にあるのです。幽助と蔵馬たちの会話の中で、霊界が魔界を封印する結界を解いた経緯が語られています。

 もともと妖怪たちが人間界で悪さをしないよう守るという名目で、霊界が魔界と人間界の間に結界を張っていました。しかし事実は逆で、妖怪たちを悪者にすることで霊界が人間界の領土維持とエネルギー搾取をすることが目的だったのです。

 しかも魔界から守るという大義名分のために、霊界側が「とらえたD級妖怪たちを洗脳しわざと人間界で悪事を起こさせて」犯罪件数を水増ししていたことも判明しています。ここで注目したいのは、D級妖怪の洗脳です。

 飛影はもともと魔界ではA級妖怪でしたが、時雨の邪眼の移植手術を受けたことで妖力が最下級のD級まで落ちています。つまり、登場当初人間界にいたときの飛影はD級妖怪で、洗脳されていた可能性が考えられるのです。

 仮に洗脳されていた場合、当然霊界は悪事を働かせることが目的なので、飛影が「悪役」のような性格になっていても不思議ではないわけです。さらにその後、幽助によって捕まった飛影は、霊界が提示した免罪の条件として幽助たちに協力させられています。まさに壮大なマッチポンプとして話がつながってきます。

 ここまで飛影のキャラ改変の考察をしてきましたが、実はこの件について冨樫義博先生が答えを語っています。2016年8月に発売された『ジャンプGIGA VOL.2』の「冨樫義博×岸本斉史SP対談」で、冨樫先生は、もともと飛影は仲間にならず、敵のつもりで描いていたと語っています。

 しかし、当時の担当編集だった高橋俊昌氏が「こっちは仲間にならないの?」と飛影を提案したことで、初めて冨樫先生は飛影の仲間入りを視野に入れたそうです。このことから、D級妖怪の洗脳の話は、冨樫先生の後付けだった可能性が高いでしょう。

 それでも、飛影の性格が変更された理由として、ここまで矛盾がない設定を考えたのは、さすが冨樫先生のセンスだと言わざるをえません。

◆飛影が「黒の章」を欲しがっていた本当の理由

 「黒の章」は霊界の巨大資料館に収められている極秘ビデオテープで、人間の陰を記録したものといわれています。仙水忍が仲間を募る際に利用したことを考えると、人間の残虐で非道な行為が録画されていたと考えて間違いないでしょう。

 そんなテープをなぜ飛影が欲しがっていたのかについては、原作では明かされていません。その動機として考えられる理由は大きく二つあります。

 まず一つは、飛影が盗賊だったからです。忘れられがちですが、飛影は邪眼師になる前はもともと魔界でも高名な盗賊でした。

 盗賊は主に金品や価値のあるものを強奪する存在で、実際に飛影も霊界から「闇の三大秘宝」と呼ばれる価値のありそうなものを盗んでいました。魔界にも氷泪石や瑠璃丸など、価値のある宝が描写されているので、飛影はこれらに類する高級品を盗む盗賊だったと考えられます。

 しかし、「黒の章」の価値がそれらと同等のものだったかといわれると、いささか疑問符がつきます。そこで二つ目に考えられるのが、妹・雪菜の手がかりを探すための手段です。そもそも第126話で「黒の章」の話題が出たときに蔵馬が「飛影が欲しがってました」と言い添えていましたが、それはいつごろの話だったのでしょうか?

 過去形であることから、二人が出会ったころ、もしくは剛鬼とチームを組んでいたころだと考えるのが自然でしょう。ジャンプコミックス7巻に収録されている特別読切「TWO SHOTS」で二人の出会いが描かれています。ここで描かれている通り、当時の飛影は人間界で行方不明になった雪菜を探していました。

 しかし、なんの痕跡も見つけられなかったため、氷女の噂を手当たり次第に探っている様子が見てとれます。つまり、人間が妖怪を捕まえて非道な行いを記録していた「黒の章」に、雪菜の手がかりを求めても不思議ではないのです。

 そして第153話で、飛影は寝ている間に人間界に連れ戻されています。その際、手元に「黒の章」らしきテープがありましたが、飛影はあまり嬉しそうにしていませんでした。さらに、TVアニメ版では飛影は「黒の章」を斬り捨てています。

 つまり、飛影にとってテープの価値は低くなったと捉えられます。そう考えると、やはり雪菜の捜索のために「黒の章」を欲していたのかもしれません。

 

 ──霊界、魔界、そして人間界の政治的関係は原作では描かれませんでした。しかし、飛影をはじめとした妖怪の視点からみると、実は複雑な設定があったことが見え隠れしています。たんなるバトル漫画だけではないのも『幽☆遊☆白書』の魅力の一つでしょう。

〈文/fuku_yoshi〉

 

※サムネイル画像:Amazonより 『「幽★遊★白書 完全版」第4巻(出版社:集英社)』

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